ガラスの靴
「えっと、それでハンナはその魔力でどんなことが出来るのかしら?」
「昨日みたいなファイヤーボールなら、もっとすごい威力で使えるわよ」
え……攻撃限定?そんなはずありません、高温の炎ならきっともっと凄いことが出来るはずです!
ん?高温の炎……
「あの、例えばガラスを溶かして別の形にすることとか出来るのかしら?
えっと、そうね……例えばこの水差しのコップを……この靴の形に変えたりとか……」
アマリリスはチラリとこちらを見てツンと顎をあげてまたそっぽ向いてしまいました。
「そんなの簡単よ」
相変わらず言葉は少ないですが、そんな事はどうでもいいです。出来る、今出来ると言いましたよね?凄いチートです!
「ちょ、ちょっと試しにしてみて!コップは後で新しいのを贈るから、お願いハンナ!」
私の勢いにビビりつつも、何とかやってみようとコップを手に取ったまま動きません。どうしたんでしょうか?
「あ、あのねベラ……その……コップを靴に変えるってどうやったらいいのか分からなくて……」
そうか、ハンナはと言うか普通の貴族はガラスの作り方なんて知らないから、どう力を使ったらいいのか全く想像できないんですね。
さて、私も見たことはあってもどう説明したらいいのやら……そもそも火の魔法が使えないので力の使い方も分かりません。難しいですね。
色々悩んでいると、アマリリスがハンナのおでこに小さいてのひらを当てました。
「どう?これで分かった?分かったらさっさとやてみなさいよ」
どうやらキューピーみたいにイメージを見せてくれたみたいです。どんなイメージだったのか気になりますが、果たして上手く出来るんでしょうか?ワクワクです。
ぼわ~!ハンナの手から炎が出て、コップを包んでいます。
見る見る間にコップは真っ赤になってドロリと溶け、靴の形になって行きます。
綺麗なロココ調の靴の形になった所で炎は止まり、あっという間に赤い色から無色透明へ。
ハンナの手の中で、ガラスの靴は午後の暖かな日差しに照らされ輝いています。
はう、想像以上です!私の思い描いていた単純な形では無く、ロココ調の靴が細かなレースの細部まで再現されて、繊細でまさに芸術品です。
「これ、私が作ったの……?」
呆然とガラスの靴を見つめながらハンナが呟きます。
自分にこんなチートがあったなんて、驚きすぎて声も出ないんでしょうね。
分かりますよ。私も初めて醤油を作った時は、驚きすぎて思わず変な躍りを踊ってしまいましたもんね。
それにしても……このハンナのチートは素晴らしいですね!
この力を使ったらわざわざ他所の工房と提携する必要ありません。
それに材料さえ手に入ればどんな形でも出来るので、格段に安く提供出来るはずです。
庶民向けにはシンプルなデザインで、貴族向けには細かなデザインを施して、庶民向けより数段お高く設定しても売れそうです。
まずはハンナの協力が必要なので、事情を説明することにしましょう。




