クリーンメイドの告白
「イザベラ様に話したように、あの後暫くして結婚しました。
結婚してお屋敷に住むようになっても、最初はメイド達がよそよそしいなと思うくらいでした。
末端の貧乏な男爵家から嫁いできたのでそれもしかたないのかなと気にしないようにしていたんです。
でも、いつまでたっても距離は縮まらないし、旦那様も初夜以降はお仕事が忙しいようで寝室を訪れることも無いまま気付けば2月も経っていました。
旦那様にお会いしたいと言っても誰も取り合ってくれず、さすがにおかしいなと思っていたある日、偶然なのかわざとなのかメイド達の話し声が聞こえてきたんです。
『旦那様もリリア様も可哀想よね、出世の為とは言えあんな貴族かどうかもよくわからないようなのと結婚させられて。
あんな女に気を使ってこそこそしないといけないなんて本当お可哀想だわ』
『まぁそれでも毎晩一緒にお過ごしになってるし、あの女の所には初夜以降行ってないんでしょう?』
『それでもリリア様がお可哀想だわ!
初夜だけとは言え、好きな方が他の女を同じ屋根の下で抱くなんて……可哀想に、一晩中泣いていたそうよ。
同じ男爵家でもリリア様の方が家柄もいいのに結婚を許されなかったなんて、酷い話だわ!
そうだ、あの女クリーンが使えるんでしょう?だったら掃除も洗濯もする必要ないんじゃない?自分で出来るんだし』
そう言って、本当にその日から食事以外は誰もしてくれなくなりました。
会えないのならと旦那様にその旨綴った手紙を執事に託しましたが、何の返事も無く……ますます私から従業員が皆遠ざかって行きました。
窓の下で聞こえるように陰口を言われ、リリア様と旦那様は今日もご一緒だったとか仲良く過ごされていたとか聞きたくないのに聞かされて……
旦那様は元々侯爵家の次男なんです。リリア様はそこでメイドをしていたようで、その頃から旦那様と恋仲にあったそうです。
ですが身分が違うので二人の結婚は侯爵様に認めてもらえず、それでも別れること無く子爵家へも連れて来たそうです。
子爵家でもリリア様は旦那様付きのメイドとして働いていて、他の従業員とも私なんかよりずっと長い付き合いなので、二人を引き裂く悪魔のように皆さん思っているんでしょうね……
リリア様は他の従業員皆で守っているので、姿を見かけたことはありませんが、私と違って太陽のように明るくて美しいご令嬢のようです。
部屋から出る気にもなれず、閉じ籠って気付けば1年以上も日々を無気力に過ごしていたのですが、昨日の噂話はリリア様の事ではなくてこのお店の事だったんです。
旦那様からの唯一のプレゼントの髪飾りはいつの間にか無くなってしまいましたが、レディ・フローラは私の憧れでした。
それがデビュタントもまだの少女が作っていたなんて……
その少女が自分のお店を出すなんてと思うと居てもたってもいられなくなり、飛び出して来てしまいました。
正直クリーンが使えれば、離縁してもまた貴族のお屋敷で働けるでしょう。
ですが、この1年の間で……貴族のお屋敷と言うものが怖くなってしまって……
しかも出戻りなんて、他の従業員が何て噂するか……
洗濯係は必要じゃありませんか?お願いします、何でもしますので雇ってもらえませんか?」




