四拍目
降り続ける雨。朝のニュースで台風が近づいていると言っていたっけ。
「うーん……良い歌詞が浮かばないっ」
眼前には手を顎に当て、考え込む敦啓。
「何時もなら直ぐに思い浮かぶ敦啓が、珍しいな」
「そうね。あのくさい恋愛歌詞をね」
飲み放題のジュースを可愛らしく啜る俊と七菜。
「くさいって! お前ら馬鹿にしやがって……前までは彼女と付き合う前のドキドキ感を書いてたからなぁ」
「へー、そうなんだ。初耳」
「言ってねぇもん。でも、最近は順風満帆だしさ~」
「それを書けば良いんじゃないの?」
「それは駄目だっ! 俺のポリシーは少し切なさの歌詞っ。片想いの奴を書きたいんだよっ」
「気持ち悪~」
七菜はにんまりと笑った。
「うるせー七菜っ! なんならお前がかけっ!」
「駄目でーす。私たちだってもう付き合ってるんだよ?」
「だぜ?」
顔を見合せ笑う二人。逆に頭を抱え込み、落ち込む敦啓。
「あぁ……どうすれば──」
ふと、僕か外にやっていた視線を戻すと、此方を見る峻の姿が写った。
「──ん、どうしたの?」
「竜太が書けばいいんじゃね?」
「ぇっ……?」
峻の言葉に同時に此方を向く二人。
「そうだ……そうだなっ! お前は今独り身だ! お前なら良い歌詞がかけるっ!!」
「そうね。竜太って本とか良く読むし、良いかも……」
何をおっしゃっているのだろう。この方たちは。
「いやいやいやいや、僕には無理だって! そんなの書いたことないしっ」
「誰もが初めてなんだぜ? お前にだってかけるさ。俺にも書けたんだから」
「いや──」
「残念。もう決まりなんです! さぁ、ほらよ」
強引に押し付けられる紙とペン。
敦啓の性格をよく知っている僕は、断ることは不可能だとおもった。
だけど、いきなり書けと言われても──
「そんな簡単には出てこないさ。まぁ、ゆっくり考えろよ」
流石に振ってしまった申し訳なさを感じたのか峻がフォローを入れる。
「そうね。それに私たちが居ては書くにも書けないわね」
「そうだな……って、お前らデートに行きたいだけだろっ!」
「ぁ、ばれた? てへへ」
前言撤回である。峻は僕を見捨てた。
「まぁ、俺もこのあと彼女と予定あるし、敦啓! ゆっくり考えてくれよ。一週間くらいたったら見せてもらうからな!」
「それじゃ、頑張って──」
そう言ってカフェを出ていく三人。
僕の精一杯の悲しげな視線など気づかずに彼らは外へと出ていった。
「──なぜ、僕が……はぁ、どうしよっ」
*
日曜日の昼下がりを目一杯使って歌詞を考えたが、浮かぶの微妙なものばかり。
何度も書いては消してを繰り返していた。
何杯目になるのかとうに忘れてしまったアイスコーヒーを飲みきる。
「はぁ、できねぇ」
1人になると、無意識の内に言葉が悪くなる。
外の雨はいっそう強くなり、人の姿は余りない。
このカフェは商店街の一角で、普段ならば割りと混んでいる場所だが、店内にも客の姿は殆どない。
そんな薄暗い外の道に真っ赤な傘の色が視界に入った。
艶やか赤色。それに入る男女の姿。カップルかなと心の中で思いながら見ていると、どうにも見たことのある気がした。
そして何故だか沸き上がってくる不安感。
途端に目を離せなくなって、その二人を目で追う僕。
徐々に近づくにつれて、それは明確に心を掻き立てた。
真っ赤な傘の下。片方の男性は髪を金髪に染め、驚くほどに整った顔立ち。もう片方は黒い髪を垂らし、お人形のように整いすぎた顔を笑わせた女性。
「えっ──」
思わず漏れる言葉。
彼女のであろう傘の下、共に身を寄せあって歩いていたのは──マエヤマとあの子だった。
此方にはいっさい気がつかずに無惨にも通り過ぎる二人。
僕は彼等が見えなくなるまで目を離すことができなかった。
「────」
突如現れる沈黙。頭の中はぐちゃぐちゃで、歌詞など考えている場合ではなかった。
「なんで、二人が……。いや、でも──」
自分が何に悩んでいるのは明白。でも、その感情が沸き上がっていることがとても嫌。
頭の中に今でも居続ける美子が言った。
『私をもう忘れるの?』
──違う。
『貴方はもう他の人を好きになるの?』
──違う。僕は……
『私を最後まで好きなんじゃないの?』
──今でもそうだよっ、でもっ!
『貴方は私から逃れられない』
美子がそんな事を言うわけがない。でも、頭の中の彼女は悪魔のようで、僕を締め付けた。
『秘密だよ』
美子。君は何が言いたかったんだい──




