三拍目
「俺も同じ経験しましたよ!! 高校の時でしたかねぇ~。いやいや、中学の時だったか。うん? 高校の時か? まぁ、忘れちゃうってこともあるッ!! 忘れると言えば、最近物忘れが酷いんですよねぇ。これはいったいどうなってんのだろうかッってねー。俺にはさっぱりのパッパリですわっ。そういうこともあるッ。そう言えば────」
目の前で永遠と喋り続ける金髪男が1人。
「そうだ、そろそろ……」
「ちょ、ごめんなさいね! 実は昨日ですね────」
僕の精一杯の切り上げのサインも食い気味の言葉によって遮られ、金髪男こと──マエヤマの話は続く。
どうしてこうなったか。彼はいったい誰なのか、お話は少し前に遡る。
──数時間前。
時計の短針が夜の6時を回り、その日の最終授業も終わった頃、まだ微妙に暑さの残る夕闇の中を僕は歩いていた。
この時刻のバスは混んでいるため、少し図書館で時間を潰そうと適当な本を探していた。
この大学の図書館は3階構成になっており、2~3階が読書スペースで1階がディスカッションスペースとなっていた。
前から気になっていた新書を抱え込み、1階へと続く階段を下っていると──
「あれ、竜太先輩じゃないっすか!」
「──ぁ、マエヤマか」
「なんすか~その嫌そうな顔は~何んですか? 勉強すか??」
妙にテンションの高い後輩、マエヤマに出くわした。この世界がRPGならば、背景音楽では過酷な戦闘音楽が流れているだろう。
彼は同じサークルの一つ下の後輩で、その馴染みやすい性格から仲良くしていたのだが、最近はめっきり顔を出していなかった。
「いや、バス混んでるから時間潰そうと思ってさ」
「そうなんすね! 丁度よかった!! 俺も暇なんでお話しでもしましょうっ!」
「いや、俺は──」
「さぁ、さっ! 行きましょう~」
強引に手を引っ張り、連行される僕。そのままディスカッションスペースの最奥へと連れて行かれ、対面に座るマエヤマ。
端正な顔立ちに金髪の髪。女性からの人気が高そうな面持ちだが、彼女はいない。
なぜなら、その一個軍隊を殲滅できそうなマシンガントークがその理由である。
「いや~お久しぶりですね。いつ以来すかね? 1ヶ月? ん? 2ヶ月ですかね。どうでした、元気してました? 僕はですね、最高に楽しくやってますよー。聞いてくださいよ! 昨日なんて──」
秘技、他人の話を強引に停止させ、自分の話をする。が既に発動している。
悪いやつではないことは確かだが、いかんせんこのトークを永遠に聞くのは辛いところがある。
しかしながら、後輩と言うこともあり、卑下に無視する訳にも行かない。
そんなこともあり、今に至るわけだ。既に一時間は喋りまくっておられますよ。
「ってことなんですよ! 先輩、聞いてます??」
「う、うん。聞いてるよ」
「酷くないすか? 俺がせっかく誘ってあげたのに、そんなかんじなんですよ!?」
「へ、へー」
適当にあしらっていたことが不運して、何を話しているのかさっぱりわからないが相づちを打つ。
「少し可愛いからって無視するのはどうなんですかね!! そういこともあるって思うんすけど、悲しいなー。でもめちゃくちゃ可愛かったっすね!!」
いったい誰のことを話しているのだろう。内容的に──女性?
「今でも思い出すな~。黒い髪、白い肌。整った顔立ち。でもなんか切なそうにも見えたけど、そこがなんともいいッ! こりゃ、たまらんすわ~。あの子は何年生すかね? 一年? いや、上の雰囲気もしたな~」
だんだんその彼女?のシルエットが明白になってきたが、普遍的で誰だかはわからない。
「あと、なんか本を握りしめていたっすね~。何読んでるんだろ? 俺も本でも持ち歩こうかな? そういえば、なんか本が破けてたな? あれは趣味? そんな趣味あるんすかね。はっはッはッ」
あれ、なんかデジャブが──っていうか、その子はあの子? いや、まさか──って僕もマエヤマの感染が……
「見たことのない顔だったなー。こよ女の子全員を把握しているマエヤマが知らないとはっ! これは面白い」
「ぇっ、マエヤマって女の子全員把握しているの?」
「当たり前のマエヤマですよっ! 逆に把握してないんすかっ!?」
いや、してねーよ。どうやってするんだよ……
「してないなぁ、あはは……その子って、もしかしてスラッとした少し背が高めの人?」
「あれ? もしかして先輩知ってるんすか!?」
「みたことはあるかな」
「まじすか!? 連絡先しっていたり!?」
「いや」
連絡先に限らず、名前すら知らないとは言えない。
「なんだ~使えないっすね先輩」
「あはは……」
なんだ、こいつは
やっと何かを考え込むように話が途切れた時を見逃さず、僕は言葉を放った。
「それじゃ、そろそろ僕は帰るね」
そう言って立ち上がると、マエヤマもガバッとも立ち上がる。
「そうっすね! 俺も帰るっす! 先輩、家近くでしたよねっ! 一緒に帰りましょう!」
「──ぅ、うん」
「んじゃ、いきますか~。いや先輩と帰れるなんて嬉しいな──。このまま、あの女の子にも会いたいなぁ。今度までに調べとかなきゃですね! このマエヤマにかかれば……ふっふっふっ」
マエヤマとこの後数十分の間、一緒だという現実への気だるさはあるが、少しあの子の事を知れる可能性があることへの期待感とが僕の中




