一拍目
「───竜太っ!」
何か透明な得たいの知れないモノが、まるで僕の鼓膜に音を通さないように塞ぎ、僕の耳は人より遅れている。
「聞いてんのかよ?」
以前から仲良くしていた友人───敦啓の声でさえ直ぐには受け付けない。
「ぁ、ごめん。考え事してた」
「またかよ……いい加減、次のライブの日程決めようぜ?」
「あぁ、そうだな」
敦啓はため息を一つ落とすと、水の滴るグラスに口をつけた。
既に先ほど頼んだドリアは完食され、手元には一枚の紙切れとペンが置かれている。
「んで、曲は前に作ったオリジナル二曲と新曲でいいよな?」
「かまわないよ」
「そんじゃ、後は一緒にやるバンドだけど……誰かいないかね? 竜太の高校の連中とかどう?」
「あいつらは……最近仲良くないんだよね」
嘘だ。あいつらに会うとどうしても思い出してしまう。
敦啓は一瞬、疑うような目を見せたが直ぐにそれも消える。
「んじゃ、大学の連中に当たってみますか。サークルの奴等なら外バン組みたいやついるでしょ」
「そうだね。僕も連絡してみるよ」
「おっけー。それじゃ一応日程は半年後の日曜日。場所は新宿のライブハウスロックスター新宿ってことで」
「了解」
その後、少しの雑談を交わした敦啓は彼女との予定があるらしく、学生に良心的なファミレスを出ていった。
僕はカップに注がれた温めの珈琲を口に含み、暑さの籠る外の景色に視線を移した。
「……………」
ため息をさえ漏れない。唯一感じるのは珈琲の苦味だけ。
無意識の中に闇夜の世界にぽっと小さく、そしてか細く灯されたマッチ棒の火のように記憶の本流の一部を照らす。
丁度一年前、僕は───彼女を失った。




