三拍目
恋ってなんだろう 異性と僕との特殊な関係だろうか
恋ってなんだろう 感情と考えての軋轢だろうか
青く澄み渡る空の下 僕は君に「恋」をした
「んー」
僕はそっとペンを起き、頭を悩ませる。
「歌詞って難しいなぁ。良く敦啓は書けるよね……」
あれからなんとなく歌詞の外枠は出来てきたけど、どうしても納得するものが浮かばない。
それに歌詞を考える度に、今の現状や感情が身体を締め付ける。
ライブまでもの日数も丁度一月を切り、そろそろ歌詞を考えなければならない。
既に曲は完成し、当初の予定通りにジャズチックなモノが完成していた。
それと反比例して僕は行き詰まり、迷宮に入ってしまったかのように慎重かつ手探りだ。
あれから何度かマエヤマとあの子が一緒にいるのを見た。
一緒にご飯を食べている姿、最前列で講義受ける二人の背中。
その時の彼女は何時も笑っていて、楽しそうにノートにペンを走らせ、マエヤマとの会話を謳歌していた。
目撃する度に僕は女々しい男みたく、彼女の破った小説の破片を握りしめた。
『そんな紙切れ、捨ててしまえばいいのよ』
──借り物だから。
『そんなモノじゃ、私を忘れることはできないわ』
──忘れようなんて思っていない。
『何時もそう。貴方は此方を見ているようで見ていない』
──。
『どんな時だってそう。考えている振りばかりして、何も行動しようとしない』
──それはっ。
『何時まで表面ばかりを気にするの。何時になったら私を受け入れてくれるの』
──君はもう……。
『秘密だよ』
「はぁ…………」
ピロン
ポケットに入れていたスマホが軽い振動と共にLINEの通知を知らせる。
通知の相手は──
「峻? 構成棟に来てくれーって、何だろ?」
今日は練習の予定も入っておらず、各々個人練習に励むはずだったのだが。
そんな疑問を抱きながら、僕は気だるげな足を引っ張って構成棟へと向かった。
*
構成棟一階のコンビニ前にあるカフェスペース。その一角を占拠して座る数人の学生。
見慣れた後ろ姿を確認すると、僕は足早に近づいた。
そして、声を掛けようとした矢先、視界に映る今最も出くわしたくない人。
「マエヤマ…………」
柱の陰に隠れていたようで、もし認知していたなら踵を返して帰宅を選んだだろう。
さらにマエヤマだけなら百歩譲って良かったが、その傍らに小動物みたく小さく座る彼女。
僕の身体は心底、疲労という波に呑まれた。
「おっ、来たかっ」
対面するように座る峻と七菜。敦啓の姿はない。
「竜太先輩っ! ちょりーっす!」
「おまえっ、ふるいわっ!」
峻とマエヤマの掛け合いも虚しく、無感情で僕は立ち竦む。
「どうした竜太? 座れよー」
「そうっすよ先輩っ!」
別に彼は何もしていない。でもどうにも彼の笑顔に苛立ちを覚えて仕方がない。
何かを隠しているようで、僕を蔑んでいるみたいに感じてしょうがない。
それを悟られまいと無表情のまま、ドカりと腰を落ち着けた。
「話って何?」
何時もでは考えられない程冷たい声が出た。
「どうした? 何か怒ってる?」
「そうね。そう見えるわね」
「別に。それで?」
マエヤマと彼女の方は一切見ない。
「別に話ってわけじゃないんだけど、この子が竜太とも知り合いだっていうからさっ」
「──ッ!」
そう言って笑う彼女。
今の僕はそれさえも煩わしく、楽観的に捉えることができなかった。
「それだけ? なら、もう帰るけど」
「──は? 何だよそれ? なんで怒ってんだよ?」
「別に怒ってない」
「怒ってんだろ! 態度わりぃぞお前っ!」
徐々に荒々しくなる峻の言葉。僕は鋭い眼光で睨み付ける。
「──しらねぇよ」
「なんだとっ、こらっ!」
胸蔵を捕まれ、眉間に皺を寄せる峻の顔が視界に移った。
僕も負けじと睨み返す。
「二人とも止めなさいよっ」
「うるせー七菜。完全にこいつがわりぃだろ」
「でもっ……」
七菜の制止も今の峻に効果はない。
今の僕は本当におかしいらしい。理性という歯止めが効かないらしい。
「ふんっ、随分亭主関白だね。何時もはおおらかにしている癖に、本性はただの不良じゃないかっ」
「あん? 何だとてめぇ、いい加減にしろよっ!?」
「そうやって直ぐに暴力で解決しようとする。
前々から思っていたんだ、君は最悪だって!!」
僕は本当に言ってはいけないことを言った。
少しの間、沈黙が続いた後に俊は乱暴に僕を突き放した。
「──帰る」
「ぁっ、待って、待ちなさいよっ!」
乱暴にスティックケースを掴んで帰る俊。それを七菜は追いかけた。
その去り際、七菜は僕に言った。
「──最低ね。あんた」
その言葉は僕に深く、深く突き刺さる。
「俺も帰るっす。竜太先輩……流石に酷いっすよ」
「──」
マエヤマも呆れや苛立ちの混じった視線を向けながら走っていった。
「──」
「………」
最後に残ったのは、彼女と僕。
耳の聞こえない彼女には詳しいことはわからないだろうが、喧嘩をしたことは明白。
「──!」
手元に置いていた紙切れに何かを書き込むと、僕の目の前へとスライドさせた。
謝らなくていいんですか?
100対0で僕が悪い。そんなことはわかっている。でも彼女にそのことを肯定させられることが僕は嫌だった。
死んでしまいそうなくらい嫌だった。
「うるさい……うるさいんだよっ!!」
渡された紙切れをぐしゃぐしゃに破り捨てる。
それに飽きたらず僕は鋭い眼光で彼女を睨みつけて言った。
「何もわかってねぇお前に言われたくねぇんだよ! このクソがっ!」
彼女には言葉は届かない。それでも感情はわかる。
その瞳に名一杯の涙を溜めて、彼女はその場から逃げるように去っていった。
また僕は最悪なことをした。
今日の僕は悪魔が乗り移ってしまったかのように、おかしい。




