二拍目
「はぁ? まだ歌詞できてねぇの?」
「ごめん。ギター作るのに忙しくて……」
「ったく~」
「まぁ怒るなよ敦啓。竜太だって初めてなんだしさ」
敦啓はわざとらしく大きなため息をついた。
「まっ、わかってたけどなっ。ゆっくりでいいぜ。期待してるからな」
「わかったよ。なるべく早くする」
「おうよっ」
そうは言ったものの、本当にできるのだろうか──
スタジオの練習も終え、外のソファに腰を下ろす敦啓。
「そう言えば、この前久々にマエヤマにあったぞ」
「マエヤマ? そう言えば、最近来てないなあいつ」
「あのうるさい子?」
七菜が思い出したよう言った。
「そうそう。なんかバイトで忙しいみたいだぜ。後面白いこと言ってたな」
「面白いこと?」
「あぁ。なんかやっと俺も本気になれる相手が見つかっただとか」
途端に僕の身体は雷にでも討たれたみたいに跳ねた。
「へー、女かな?」
「だいたいそうよね」
二人とはまた異なるが、僕の中でもパズルのピースが突然に繋がったみたいな感覚が巻き起こった。
そうか。マエヤマは彼女が好きなのか。それに限らず、彼女もマエヤマを好きなんだ。
当然と言えば、当然の結末。あのような可愛い子を捨てておくことは男には余り出来ないだろう。
彼女の居ない奴に取っては尚更だ。
『いいじゃない? これで私だけ』
──。
『結局は貴方には私だけなの』
──。
『秘密だよ』
最近良く出てくるようになった美子。彼女は唐突に現れ、途端に消える。
でもずっと居て。僕が少しでも弱さを見せると現れる。
『秘密だよ』。これさえ、この謎さえ解決できれば、僕は変われるだろうか。
もう一度、「恋」をできるだろうか。
「どうした竜太? そんな難しい顔して」
「──ん、いや、何でもないよ」
「そうか? まぁ、あんまり無理するなよ」
「ありがとう」
「甘いぜ俊っ。竜太には無理にでも歌詞を書いて貰わなきゃっ! やってくれるよなっ」
「う、うん。頑張るよ」
「うしっ。んじゃ、そろそろ俺は行くぜ。今日は用事もあることだし」
敦啓はギターをケースに仕舞い込むと、肩に担いだ。
「なに? また彼女とデートかしら?」
「ちげーよっ。お前らじゃねぇんだか。今日はフツーのようじっ。それじゃなっ」
敦啓の背中が見えなくなると、俊は思い出したように口を開いた。
「そう言えば、竜太の恋愛事情とかって聞いたことないよな?」
「そうね。言われてみれば……」
二人して此方を見る。その顔は不気味な笑みに包まれていた。
高校のこともそうだが、自身の色恋など彼らにでさえ話したことがなかった。
聞かれなかったのもあるが。
「竜太は案外イケメンだし、モテそうよね?」
「そうだな。どうなんだ?」
「──話さなきゃ駄目なやつ?」
ダメ元で聞くが、二人は大きく首を縦に動かす。
「うーん、高校時代彼女は居たよ」
「えっ、そうなんだ! 別れたの?」
「そうだね、別れちゃったね……もう会うこともないんだろうと思う」
「そうよね。一度別れてしまったら、会いたいと思わないわよね」
──会えないの間違いなんだけどね。
本当のことを話すべきなのか、どうなのか何度も葛藤した。
でも話したからって空気を重くするだけだし、それに僕自身も切り出せる程の整理がついていないのも事実。
二年経ってもこのザマ。僕は本当に弱い。
「そっか~。でも、なんか良かったよ。竜太が女に興味あるってわかって」
「そうね。もしかしたらそっちがわかしら……って思ってたわ」
「──はは、なんだよそれ」
二人はニヤリと笑う。
「今は好きな人とか、気になってる奴はいないのか?」
あの子の顔が浮かぶ。
「──いないかな?」
「そっか。まぁ、そのうちできるだろーよ」
俊はそう言って僕の肩を小突いた。
この質問をされて彼女の顔が出るってことは、いよいよそうなのだろうか。
でも、良いのだろうか? いや、良いわけない。
美子のことを解決しない限り、僕は恋をしてはいけない。
「恋」なんて──できない。
しかし、解決なんてする事柄なのか。それは僕に限らず、美子にだってわからないだろう。
「そろそろ、僕もちゃんとしなきゃ……」
僕の小さな呟きは二人に聞こえることはなかった。




