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イントロ
───彼女は飛んだ。
あの大空のずっと高く、消え入るような雲の中へ。
君と歩いた街も、君が好きだったカフェも何も変わらない。
真上に燃え盛る太陽も、夜の闇に輝く満月も時間が止まってし
まったかのように変わらない。
時間だけは何もせずに過ぎるのに、僕の中の時計だけは大事なネジが外れてしまっている。
世界にとっては一人の死なんて些細なことだけど、まるで陰の世界に足を踏み入れたように僕には衝撃的で。
色を失った僕は何をすれば良いのだろう。
人の感情なんて直ぐに変わるものなのだろうか。
人の考えなんて直ぐに変わるものなのだろうか。
心の内に降り積もった君との思いでが腐っていき、全身を蝕んでいく。
君は何を思い、何を感じこの世を去っていったのだろう。
僕は何を思い、何を感じこの世を生きていけば良いのだろう。
僕に残ったのは限りなく風化していく思い出と音楽だけ。
君のようにどんな時も傍に寄り添ってくれた───音楽だけ。
せめて君が大好きだった音楽を僕は続けていく。
美子───僕は、もう一度「恋」ができますか?




