男と女と男の娘
陽気な春のお昼時。こんな素晴らしい日は外を歩いているだけでスキップしたくなるよね。でもグッと堪えるのです。隣には美少女(男)がいるのだからそんな事をしたら奇異の目で見られてしまいます。ああ、隣の深雪をチラリと見たらスキップどころかホップステップジャンプな素敵な気分になってきました。
「なんか楽しそうだね」
「ああ、なんかね心が陽気なのさ」
「僕も楽しいなあ」
なんて幸せなひと時だろう。今から公園で深雪の手作り弁当を頂くのですから。脳から肉汁が出てきてもおかしくはない。それぐらい満たされている。
町をすり抜け少し小高い丘の上にある公園にたどり着く。この丘の上公園は町を一望できるため、夜なんかに来ると夜景が楽しめるので、カップルなんかに人気のスポットだったりする。そんな風景を眺めながらおいしくお昼を興じるのだ。芝生の青臭さはなんとも風情があり、男くさい俺にも風流を感じさせてくれる。
二人で芝生に腰を下ろす。丘を登った少しの疲労がジワジワと足の周りを包み込むような感触がする。
「ずっとニヤけてる。すごい気持ち悪いよ」
「そんなひどい顔してるかな? イケメン補正されてない?」
「心から大丈夫?」
そこまで言われるとは、これは深刻なのかもしれん。
「変なこと言ってないで早く食べよ。おなかぺこぺこだよ」
「へいへい」
「今日は彼方の好きなウインナーとミートボール入れたんだ」
「何か勘違いされそうな品揃えですね」
「え、なにが?」
わからなければ良い、良いんだ。
さすがは深雪、空腹だった俺の胃袋を心地よくしてくれる技量は確かなものだ。
サッとかき込んでしまい、深雪が食べ終わるまで暇を持て余す。実に平和なものだ、さっきまで女装だとか異世界の言葉で翻弄されていたとは思えない。
「彼方、お茶どうぞ」
「ん、さんきゅ」
お昼の公園は平日でも意外に人が多い。温かいお茶を啜りながら、通り過ぎていく人々を眺めていると見覚えのある顔を発見する。
「ブッ――――――――!!」
「うわっ! どうしたの!?」
「え、いや何でもない……」
目が合ってしまった。世界で一番顔を合わせたくない人間が公園を散歩している。名前は四宮恵里。年始早々俺を引き裂いて叩き潰して摩り下ろしたあげく奈落の底に……ってさすがにそこまで酷いことはされてない。不甲斐ない俺を振っただけだ。
とにかく目が合ってしまったのだ。彼女もいけない所を見てしまったかのような顔で対応に困っているようだ。
こうなれば深雪に見つからないように何とかやり過ごすしかない。
(俺のことは気にしないでお行き――――)
俺はジェスチャーで巧みに彼女の心へ訴えかける。
(さすがに悪いよ、あいさつ位させてほしい――――)
彼女もジェスチャーで対応してくる。なんで対応できるか知らんが、友好を示すジェスチャーで俺に訴えかけてきた。
(いいかい、俺たちは終わったんだ。もう俺のことは忘れておくれ――――)
(そんなの悲しいよ、人の関係って簡単に終わらせて良いものじゃないよ――――)
「彼方、どうしたの?」
「あはは、俺テンション上がって、つい感情を行動で示してしまう癖があるんだよね」
「へー、初めて見る癖だ。レアだね」
深雪と四宮の間に立ち深雪の視線を遮ることに成功したようで、まだ深雪は四宮の存在に気付いていないようだ。しかし、これも時間の問題だ。
どうすれば彼女はわかってくれるんだろう。そもそも俺のジェスチャーは彼女に伝わっているのだろうか。俺は言葉ですら自分の感情を伝えることが出来なかった。そんなやつにジェスチャーで思いを伝える事なんて無理だ。
結局、俺はあの頃から何一つ成長してないんだ。
自分に憤りを感じていると、四宮は凛とした声で言う。
「違うよ! ちゃんと伝わってるよ、彼方クンのジェスチャー!」
四宮の声が響く。諦めかけてた俺に活を入れてくれる。
「本当はあの頃から伝わってたんだよ。だからあきらめないで! 私は彼方クンの守りたいものを知ってるから、だから頑張って!」
四宮へのジェスチャーはしっかり伝わっていた。彼女はそれを知って関係を求めてきたんだ。だったら今の俺の想いを伝えるんだ、ジェスチャーで……
(今までありがとう――――)
あの頃、伝えられなかった思いを伝えられただろうか。たとえ伝わらなかったとしても俺は満足だ。だって四宮は素敵な笑顔をしているのだから。
俺は彼女の言葉に救われた……が。
「あれ、なんで恵理がいるの?」
彼女の言葉で奈落の底に突き落とされてしまった。
☆
さて、現在美少女に狭間れている状態なわけで、男なら一度は夢を見た展開なわけで、なのに全然うれしくないわけで……
何を話せば良いのか、頭の中の選択肢は何一つ良質な回答を提示してはくれません。
深雪と四宮は友人同士であり、俺は深雪の紹介で四宮恵理と付き合い始め半年で別れてしまった。これが3人の共通認識だ。
しかし、深雪は別れた理由を知らない。聞いては来ないが理由を知りたがっているはずだ。この二人を引き合わせたくなかったのだが……
「どうして二人は別れたのかな?」
直球ストレート、しかも剛速球。なんと答えればいいか言葉に詰まる。
「えっと、音楽性の違いというか……」
「そうそう、私たち性格が合わなかったみたいで」
「その……どこまでいったの?」
結論から言うと何もしていない。本当にただ遊んだぐらいの友達のような付き合い。思い返してみると実に不甲斐ない。
「えっと、何もしていません」
「そうなんだ」
「……」
気まずい……この状況を避けたかったのに、世の中上手くいかないことばかりだ。
しばらくの間沈黙を破ったのは以外にも深雪だった。
「ごめんね、僕が無理やりくっ付けようとしたからだよね」
もしかして深雪はずっと自分のせいだなんて思っていたのだろうか。俺は四宮との出会いを無駄なものとは思っていない。むしろ深雪には感謝しているんだ。
「俺たちは合わなかっただけ、それだけの話だよ」
「でも僕が余計なことをしなければ、二人を傷つけることはなかったよね」
「そんなこと言っちゃ駄目だよ」
四宮は力強く否定する。
「失敗ってそんなに悪いものじゃないよ。次は頑張ろうって気持ちにさせてくれるし、失敗があったから次の成功に繋がるんだよ。だからね、私はこれでいいと思ってるんだ」
「俺だっていつまでも引きずってる訳じゃない。むしろ四宮のドSっぷりには快感すら覚えるようになってきた」
空気がしみったれているので、俺は粋な冗談で場を和ます。
「彼方……」
「ごめんね、彼方クン……」
おかしい、二人が冷ややかな目で俺を見る。まったく俺のハイセンスギャグが理解できないとは、これだから教養のないやつは。
「とにかく! 深雪が謝ることは何もない。気にすんな」
「……ありがとう」
納得いってくれたようで何より。
俺たちの間にあったわだかまりはこれで解消だろうか。
しかし、深雪と四宮はまだ何かが引っかかっているような顔で遠くを見据えていた。少し彼女たちの空気に違和感を覚えたが、何をするでもなく世間話で過ごしていく。
深雪は催したのか、お花を摘みにに行ってしまうと、必然的に俺と四宮の二人だけとなる。
3人だと話が出来るのに、急に二人にされると何を話して良いのかわらなくなる現象ってあるじゃないですか。現在がそれです。
だいたい俺と四宮はこの前別れたばかりなのだから、微妙な空気になるのも仕方がない。
俺が話題を探していると先に四宮が切り出してきた。
「前から思ってたんだけど、彼方クンってホモ?」
「アナタハナニヲイッテイルノデスカ?」
俺がホモだって? ぷーっ、そりゃ面白い。いいね、そのギャグ最高だよ。
「なんだよ、急に……ははは。何をどうしたらそんな結論になるんだよ」
「だって、いつも深雪と一緒じゃない?」
「それは、昔から一緒に暮らしてるから」
「お弁当とか作って貰ってるし」
「あいつ料理好きだから」
「キスしてた」
「事実無根の発言はやめてください!」
幼い子もいるんですよ!? 勘違いして道を違えたらどう責任取るんですか!?
「あはは、冗談だよ」
「勘弁してくれ……。た、確かに深雪はかわいいけど、そんなんじゃない」
「だって私と一緒にいる時より楽しそうだったし……」
四宮はほっぺを膨らませ拗ねてしまう。こうして見るとやはり彼女の容姿は美しく、大人びた印象があるが、子供のようなあどけなさも備えているのだから質が悪い。
彼女と別れたのは勿体無いのだろうか。そうだとしても人間相応の立場というものがあるのだから、俺よりももっと素敵な人とのほうが釣り合うだろう。
「また、何を考えてるかわからないなあ」
「え?」
「彼方クンのダメなところのひとつ。覚えてる?」
「ああ、ひどい話だよ。他人の考えなんて誰だってわからないのに」
「何から何までわかるわけないよ。でも、嬉しそうとか、悲しそうとか、雰囲気さえわかれば十分だよ。それだけで何だか幸せになれちゃうから」
やっぱり、よくわからない。
「深雪と一緒にいる彼方クンはとても幸せそうな雰囲気が伝わってくるんだけどね。これってホモじゃない?」
「断じて違います」
友情と愛情です。ほらホモじゃない。
四宮は立ち上がり、パンパンとお尻の汚れをはらう。
「じゃ、私そろそろいくね」
「いいのか、深雪に何も言わなくて」
「うん、よろしく言っといて。じゃね☆」
そう言ってそそくさ帰ってしまった。相変わらず自由な人だ。
やっぱり深雪と会うのが気まずいのだろうか。二人はとても仲が良く中学からの付き合いらしい。俺のせいで変なわだかまりを作ってしまった。
今の俺には、彼女を見送ることしか出来なかった。
読み直して死にたくなりました。