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男の娘花嫁になりました

 深雪がようやく泣き止むと、学内も息を吹き返したように部活に励む生徒の声が聞こえ始める。

 深雪は気持ちが落ち着いたようで結構なのだが、俺のほうは待たされている間に自分の言ったことを反芻してみると、顔から火が出るような思いであった。

 もうね、結婚とか何言っちゃってんの? 頭に蛆でも湧いてるんじゃないですかね。穴があったら入りたい。そんでもって埋めてもらいたい。この世から消え去りたい。


 「……彼方?」


 「あ、はい! なんすか!?」


 「顔が真っ赤だよ? 大丈夫?」


 「いや、俺、すごく恥ずかしいこと言ったよね?」


 「うん、正気を疑うようなこと言ったね」


 「ぐおおおおお! やっぱりか! とりあえず俺の顔見ないでくれ、恥ずかしいか

ら」


 「やだ、彼方の顔好きだもん……」


 「お、お前も相当恥ずかしいぞ」


 深雪の顔も真っ赤でございます。俺の顔も真っ赤だからお相子だね。


 「そもそも同性で結婚なんて出来ないよ」


 「いや、男と男の娘なら出来るんじゃない?」


 「また意味の分からないこと言って……そんなの無理だよ」


 「これからは無理を押し通す生き方にする。深雪も一緒に世の中をぶっ壊そうぜ!」


 「はいはい、頑張ろうねー」


 適当にあしらわれるのだが、深雪はどこか嬉しそうな顔をする。

 さて、俺にはやるべきことがもう一つ残っている。

 受け取ってもらえなかった、深雪へのプレゼントをもう一度渡す。


 「これ、受け取ってもらえるか?」


 「うん、ありがとう。ここで着てみてもいいかな?」


 「着てくれるの?」


 「だって、彼方が着てほしそうな顔してるんだもん。その、いやらしい顔してる」


 「ごめん。俺、深雪のことそういう目で見てる」


 正面から正直に言う。すると、深雪の顔がまたリンゴのように赤くなる。


 「もう! 着替えるから出て行ってよ!」


 「わかったから押すなって!」


 背中を押される形で部屋から追放されてしまう。

 廊下に出ると真っ白な朝陽が差し込んでくる。

 日差しを遮るように、目の前に六道が姿を現す。


 「おめでとう。まさか本当に男の娘を落とすとは思わなかったぞ」


 「聞いてたんですか? 趣味が悪いですよ」


 「うむ、あんな熱烈な告白をされたら私だって落ちてしまうぞ。俺と結婚してほしい。それで本当の家族に――――」


 「あああああああああ! やめてやめてやめて! 恥ずかしいからやめて!」


 傷に塩を塗るとはこのことか! 改めて自分の言ったことの意味を考えると、恐ろしいほど恥ずかしい。いっそ殺してください。


 「なんにせよ、お前の選んだ道は酷く険しい道だ。簡単に乗り越えられるようなものじゃない。そのことはわかっているな?」


 六道の言葉が重く俺に圧し掛かる。その顔はいつものニヤついた顔ではなく、真剣だった。きっと、自分が通ってきた道がそうであったから、俺に忠告をしているのだろう。


 「大丈夫です、俺は一人で戦うわけじゃありません。」

 

 「そうだな、お前は私の世界男の娘化計画の一員だからな」


 「勝手に俺を変なグループに入れないでください」


 なんだよ、世界男の娘化計画って、ちょっと入りたいと思っちゃったよ。


 「俺は先生みたいな強引な手段はしません。しっかり向き合って男の娘を、深雪との関係をみんなに認めさせてやるんです」


 「そうか……出来るといいな」


 どこか哀愁を漂わせている。もしかしたら、六道も俺と同じ考えを持っていたのかもしれない。それが今では、世界男の娘計画を目論む悪の首領である。六道にも色々あったのだろうが、反面教師として扱わせていただこう。


 「気が向いたら協力してくれたまえ。お前ならいつでも歓迎だぞ」


 「それはないので安心してください」


 六道との会話を終えると、部屋の中から深雪の声がする。


 「彼方、もう入ってきていいよー」


 「お姫様がお呼びだぞ。行ってやれ」


 「その、いろいろ助けてくれてありがとうございます」


 「なに、私は全ての男の娘の味方だ」


 そう言って踵を返し去っていく。最高にクールだ。

 それじゃ、お姫様を連れて帰えりますか。

 扉を開け、服を着替えた深雪はこんなことを言う。


 「僕は彼方だけの男の娘花嫁だよ!」


 世界は笑うどころか、ドン引きしている気がした。ざまあみやがれ。


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