表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

ぱっつん前髪のおでこに。



きっかけは、ある休日の昼下がり。



一人暮らしの彼の家によく遊びに来る私。


テストが終わると、彼の身の回りの世話をするのがいつもの日課。


だから、今日も洗濯物を畳んでいると。



……ソファーで雑誌を読んでいた彼が、一言。


「……前髪が邪魔」


「え? 前髪?」


雑誌に変な前髪のモデルさんでもいたのだろうか。それとも新手のシャンプー広告?


そんなとんちんかんなことを考えていると、呆れたように続けた。


「……俺のだよ。俺の前髪」


そっか。そういえば長い気もするなぁ


……と、その前に。


「えっ?! 奏人(かなと)、私の頭の中読んだっ?!」


……今の馬鹿な考えは口に出してないはずだけど。


すると、彼はこともなげにため息をついた。


「そんなに雑誌を凝視してればわかるって」


あー……そうだね。


納得した私は、小さく息を吐いた。……奏人の視線は雑誌に向いたまま。


私と奏人は少し温度差がある。例えば私が冷蔵庫の野菜室なら、彼は冷凍室みたいな。

(まぁ、例えに意味はないけどね)


だから、彼の冷ややかな返答は日常茶飯事。



冷静なツッコミにちょっと恥ずかしくなりながらも、改めて奏人の前髪を眺めた。


彼の髪型はいたって普通。


少し長めのメンズショートの黒髪で、トップが少し長短がついていて、サイドはまだ耳にかかるくらい。


……だけど、前髪は鼻の付け根くらいまで伸びている。ちょうど目の中に入りやすい長さ?



「確かにちょっと長いけど……最近の男の子ってそんなものじゃないの?」


雑誌に目を通したままの彼を覗き込みながら呟く。


「もっと長い奴もいるけど、俺は視界が遮られるの嫌だ」


「そう? 似合ってるけど。……美容院、行く?」


尋ねると、考えるように口元に手を当てて首を傾げる仕草。


うわ……なんか格好いい……。


普段、学校では冷たい印象だけど、それでも格好いいと人気の奏人。


ただのそんな仕草でも、一枚の絵のように綺麗だった。



……すると、見られていることに気付いたのか、雑誌を置いて彼もこちらを見つめてきた。


何かを思いついたように、長い前髪から覗く切れ長の瞳は輝いている。


「ね、あの、別に見詰め合わなくても」


見惚れていた手前、少し気恥ずかしくて頬を赤らめると。


「……ねぇ、君が切ってよ」


見つめ続けていた彼が口を開く。


「え?」


「だから……俺の前髪」


そっかー。前髪ね! この流れじゃそうなるよねー。……って、そうじゃなくて。


「それくらい自分で切りなよ! 子供じゃないんだから」


「無理。そんな器用なことできない」


う……。


確かに、彼は不器用。制服のネクタイだって満足に結べないくらい。


前髪なんて切らせたら、見るも無残なイケメンになってしまうだろう。……さすがに嫌だ。


「じゃあ、美容院行ってきなよ。前髪だけカットしてくれるところもあるし」


「お金もったいないでしょ? 第一、前髪だけなのに面倒」


面倒だと言われたら元も子もない。


でも……。


「私、自分以外の前髪切ったことないよ? 失敗する気がする」


男の子の髪型なんて普段あんまり注目しないからわかんないし。


……しかし、奏人は意見を変える気はないらしく。


「いいよ。だから、君が切って」


もう、いいわけないよ。失敗したら絶対怒るもん。奏人って怒ると怖いし。


……やっぱ無理。


すっぱり断ろうとした、その時。



「――……結衣」



「う……っ」


真っ直ぐに見つめられ。……そして、名前を呼ばれる。


射抜くように鋭くて。でも、どこか優しい、愛しいものを見るような視線。



――ずるいよ。……そんな瞳で名前呼ばれたら、断れないこと知ってるくせに。



普段からあまり名前を呼ばないのは、ぜったい計算ずくだ。


……そして、奏人はゆるく微笑むと、ダメ押しのように耳元で甘い声で囁いた。


「……結衣にしか、俺の髪、触らせたくない……」


「……っっ?!」




――……結局。


数分後、私は櫛とはさみを持って、奏人の前に立つことに。


う〜……私って押しに弱いのかもしれない……。セールスには気をつけよう。


と、まぁ気持ちを切り替えて!



「よしっ! 準備はいい? 奏人っ」


「うん。……っていうか、なんでそんな気合入ってるの?」


さっきとは打って変わった私の勢いに、彼は首をかしげた。


それもそのはず。――エプロンとなぜかハチマキを着用しているから。


「なんか気合入れないと失敗しそうだからっ!」


「……そう。ほどほどにね」


同じく気合を入れて言うと、呆れたように手を振った。


なんだろう。切ってもらうのにその横柄な態度はっ。



「まぁいいか。……はい、奏人」


私は小さくため息をついて、ゴミ箱を差し出した。


途端、眉を顰める彼。


「……なに?」


え、なにって……。


「持ってて? 切った髪の毛、床に落ちちゃうでしょ?」


「だからって……この俺に、ゴミ箱持たせるつもりなの?」


え……どこの俺様っ?!


元からわがままだとは思ってたけど、ここに来て俺様っ?!


「とりあえず……持っててもらわないと、切れないんだけど……」


色々なことに戸惑いつつ言うと、奏人はため息をついてゴミ箱を受け取った。


「しかたない。……持ってあげるよ。感謝してよね」


「ありがとうございます……??」


どこまでも横柄な態度に、何か訳がわからなくなっちゃった。



……まぁいいや、とりあえず切ろう!


まず、ちょっと霧吹きで濡らして……。


実は少しねこっ毛の奏人の髪。乾いているとふわふわでサラサラな細い毛が、しっとりと張り付いた。


……気持ちいいかも。


しばらく櫛で梳かしながら、サラサラな髪に思わずうっとりとしていると。


「……ねぇ、まだ?」


「あっはいぃっ!」


慌てて次の作業に移ることに。


といっても、正しい髪の切り方なんて知らないので、とりあえずピンで留めて切ってしまおう。



奏人がちゃんとゴミ箱を抱え、目を閉じたのを見て、ゆっくりはさみを構える。


「いくよ……!」


「うん。失敗しないでね。間違えたら……わかってるよね?」


「うぅ……プレッシャーかけないでよ〜」


凄まれて思わず逃げ腰になってしまい、一旦離れる。


――あ、なんだかゴミ箱持って一生懸命目を閉じてる姿……可愛い。


普段なら澄ましてる奏人のこんな姿は絶対見れないだけに、なんだかすごくギャップが……。


長い睫の綺麗な顔も、今はなぜかものすごく可愛らしく見えてきた。


……いけない、こんなこと考えてたら彼に読まれる……!


現実逃避のように考えてから、深く深呼吸。



「よし! いくよっ!!」


数本、指で挟んで長さを定める。そして。


「…………っ」


ジャッキン。


あぁ〜もう後には引けない……。


パラパラと落ちていく数本の髪を眺めつつ。




――……私は迷いを振り切るようにはさみを走らせた。




……けれど、切ってみると結構いい感じで、だんだん切る前の髪型に近づいてきた。


人の髪の毛切るのって案外楽しいものなんだな。ジョキジョキって音も好きだし。


でも奏人はまだ心持ち不安な様子。



夢中ではさみを握る私に、目を瞑ったまま語りかけてきた。


「……ねぇ、大丈夫? さっきから結構切ってるけど」


見ると、ゴミ箱には前髪にしては結構な量の髪の毛が。


でも、もう少し……。


「う〜ん? こことか……」


……切ったほうがいいかな?



鏡越しに覗いて、彼の方を見た次の瞬間。



 事件は……起こった。




「えっ……きゃっ……! ……っっきゃぁあっ?!」



ジャッキン。



…………。


少しの沈黙。



…………やばい。




……これはちょっと……やばい。




 ――今、どうなったかというと。



髪を切るのに夢中で、あまり周りに気が行かなかった私。


そして、集中するあまり、奏人に大接近してるのにさえ気がつかなくて。


すぐ目の前1cmの距離に彼の顔があるって気付いた瞬間、恥ずかしくて避けると。



……運悪くソファーに躓いて。……あろうことか、はさみを構えていた彼の前髪を切ってしまった。



 しかも、思いっっっきり。



顔を真っ青にする私に、静かな声が問いかける。




「ねぇ……。今の音……なに?」


当然、さっきの音と声を聞いていた奏人。


やばい……!


「えっっ?! ……あ、の……えっとね……」


どう説明したらいいんだろう。っていうか、とても私の口からは……!


いい答えが見つからず、口をぱくぱくしていると。


「何? 何なの?」


「いや……その……」


「……?」



「あっちょっとま……っ!!」


……あわあわしているうちに、彼は目の前の鏡を覗き込んでしまった。



そして。



「…………何これ」



見開かれた、切れ長の目。



普段なら隠れて見えないそれが、よく見えるこの状況。



つまり。



目の上一センチくらいで……真っ直ぐ切りそろえられた、前髪。




――そう……世間で言う、前髪ぱっつんが、そこにはあった。




しかも、綺麗に寸分の狂いもない、まっすぐな直線。


……せめてもの救いだったのは、ねこっ毛なせいでふわふわ浮いて、あんまり目立たないこと。



 でも、やっぱりぱっつんはぱっつんで。




「ご、めん……ね……?」


……とりあえず、鏡を見つめたまま動かない彼に謝る。


しかし、反応なし。



「か……奏人?」


恐る恐る近づいて、覗き込むと。


……案の定、それはそれは不機嫌な顔。



そして。




「……っきゃ……?!」


……突然。両手を掴まれ、ソファーに押し倒される。



な……何っ?!



反転した重力に混乱していると、そのまま覆い被さるようにして、上に乗ってきた奏人。


顔と顔との距離……10cm? 近いどころか、髪や吐息が直接当たってくる距離。



っていうか……何っ?! この状況?!



ついでに言うなら、足まで絡められてて、全く身動きがとれない。


よって私は、奏人の突然のその行動にただ焦るしかなかった。



「か、なと……っ! ちょっと……重い、どいて」


耳まで真っ赤にしながら、吐息が触れないよう、顔を背けて言う。



すると代わりに……耳元へ、彼の唇が寄せられた。



「……どーしてくれんの? こんな前髪じゃ……人前歩けないんだけど」



低く呟く彼。





……うわぁ。やばい。



――どう見ても……怒ってる。



冷凍庫の絶対零度の風がありありと感じ取れる気がする。


……普通なら、ぱっつんなんて笑えるけど、それが関係ないほど、怖すぎるオーラ。


いや、逆に可愛いぱっつんなせいで、余計そのギャップが恐ろしい気が……!



 どうしようっ……! もしかしてこのまま……ボコボコっ?!



そ、それだけはやめて〜〜っ。



「ご、ごめん〜っ、許してぇ〜っ!」


ほとんど半泣き状態での懇願。しかし。


それはもう鋭すぎる、研がれたナイフのような視線で射抜かれ、思わず口をつぐむ。



「無理だね……」


「っえぇっ?!」


――……すると、右手を掴んでいた手が離れ。……そして、その手は頬に触れてきた。


叩かれる?!


……と思って、ぎゅっと閉じたけれど。


思ったよりも優しい手つきで、そのまま頬を撫でられた。


 ……何?


思って見ていると、静かに彼は口を開いた。



「……前髪、こんなにしたんなら……それ相応の何かをしてもらわなきゃ」



「え……なにかって……?」


尋ねるけれど。答えを教えるつもりはないらしく、意地悪く頬を緩めた彼。


「それくらい、自分で考えなよ。……俺が満足するようなのじゃないと、ずっと離さないよ?」


ずっと、って?! 今だけでもこんな心臓に悪いのに?! 


「そ、それだけはやめてっ」


「……じゃあ、よく考えることだね」


そう言ったっきり、黙ってしまった奏人。


彼に押し倒されたまま、動かない身体。



……奏人の満足するようなことって……何……?


彼の微かな息遣いを耳元で聞きながら。


私は残された頭をフル回転して考え始めた。



まず……満足することってことは、奏人がして欲しいことでしょ?



奏人がして欲しいこと……一週間パシリになってあげる、とか?


いや、今でも十分パシリみたいな気がするし、これ以上あんまりすることないな。


となると……あぁ!



「わかった。……いいよ?」


「……。本当にいいの……?」


――もう。奏人ってば、はっきり言ってくれればいいのに。


「いいよ。……ご飯のデザートくらい、2,3週間がまんする」


「…………は?」


「……違うの? もしかして、お弁当とってくつもりだった?」


――奏人がしてほしいこと。イコール、食べ物の献上とか。


しかし。それは見事に外れてしまっていたようで。


「そう……デザートで許されると思ったんだ。そんなに俺を甘く見てるってこと……?」


「冗談ですっっ!! すいませんっっ!!」


「……真面目に考えなよ」


本気で凍ってしまいそうな視線を浴びて、慌てて必死に謝る。


やばいよ……! このままじゃ眼光だけで心臓止まるかもっ……!



……次、はずしたら後はないよ?


無言の圧力はそんなこと言ってる気がした。



って言うか……本当に、奏人が何して欲しいかなんてわかんないんだけど!



 普段からちょっと無表情気味の彼。


言いたいことは、ちゃんとズバズバ言ってくるのに。


……してほしいことなんて、ちゃんと言ってくれなきゃわかんない。



私はその考えを汲み取るべく、目の前の彼を正面から見てみることにした。



今は少し寄っている眉に……綺麗な、澄んだこげ茶の瞳。


意外とキメ細かい肌も、長い睫も、女の子の私より綺麗だ。



 そう。……どっちかといえば、ぱっつんも結構似合ってる。


適度に短いこの髪型の方が、端整な顔だちがよりすっきりして見えるから。


だって元々の髪は少し目にかかってるくらいで、せっかくの瞳も隠れちゃってたし。


――私は、奏人がモヒカンでもロン毛でも、ずっと好きでいる自信あるのになぁ。


だいたいさ、格好いい男の人なんてどんな髪も似合うもんだよ。


……っていっても、こじつけにしか聞こえないのかな。



そっと、ため息をついたとき。



「……そうだね。こじつけにしか聞こえない」


彼の低い声が身体を伝った。


「そっか……って、ええええぇぇぇっっ?!」


「うるさい」


ぱふっ、と手で口を塞がれる。


く、苦しいっ!! けど!!!


〜〜い、いいいま、今度は完璧に考え読んでたよね?! 


エスパーっっ?!


混乱しまくっている私に……彼は、小さくため息をついた。



「エスパーなわけないでしょ。……君、さっきから考えてること口に出てる」


え。


途端、顔が真っ赤になる。


奏人は口から手を離すと、呆れたようにため息をついた。


「え……ど、どこから?」


「自分でもわかってないの? ……ぱっつんも似合ってる、あたりから」


「え……うそっ!?」


わ、私なに考えてたっけ?!


恥ずかしさに火照る頬で、必死に思い出そうとしていると。



……なぜか目の前の奏人の頬も、うっすら赤く染まっていることに気付く。



「……どうしたの?」


そっと尋ねると。


「……っうるさい」


ぱっと顔を背けられてしまった。


〜〜あのー、耳まで真っ赤なんですけど。


お互い至近距離なので、そんな細かな部分もわかってしまう。



例えば……重なって触れ合った部分から伝わる、熱すぎな体温とか……早すぎる鼓動の音とか。



もしかして……奏人、照れてる?



「あ」


……ようやく、自分のさっき考えていたことを思い出す。


そういえば。私……。



……そっか。だから。



今もなお、真っ赤な顔を背けている彼。



「……奏人」


「……何。あんまりこっち見ないでよ」


私はそんな彼の強がりに微笑むと。



――ぱっつん前髪のおでこに……そっと唇を寄せた。



一瞬、びくっとしたように固まった彼だけど。


……安心したように目を閉じながら、そっと抱きしめてきた。



落ち着くような、彼の匂い。そして、あたたかなぬくもり。



 やっぱり、彼は彼だから。だから、私は……。



「――大好き。……私、どんな奏人でも、ずっとずっと好き。


 奏人がリーゼントでも丸刈りでも、ちょんまげでも、絶対絶対大好きでいるよ」



……奏人は不安だったのかもしれない。


ぱっつんになっちゃって、私に嫌われるんじゃないかと思って。


不機嫌だったのもそのせいだったんだ。



「……だから、心配しないで。……絶対嫌いになんてならないから」



この幸せな気持ちに誓って。


小さく囁くと、奏人の低い声もどこか優しげに囁いてきた。



「……うん。……そんな髪型にする予定はないけど。


 俺も、結衣がエプロンでハチマキしてても、ナース服でも俺のYシャツ一枚でも……大好きだよ」



「……奏人……」


そっと、抱きしめられた力が緩められる。


見つめ合ったまま……彼の吐息が近づいてきて。



けれど。……え?



「って、え? エプロン? ハチマキ?」



覗いて見みると、奏人の髪を切った時の気合の入った格好? のまま。


なにこれっ?!



「……それも気付いてなかったの?」


「もっと早く言ってよ!」


恥ずかしい……。


っていうか、雰囲気台無しじゃん!


これであんな台詞言ってたとすると、奏人のぱっつんどころの騒ぎじゃないよ?


「……しかも、さっきの奏人の最後の台詞、願望じゃない?!」


「まぁね。男のロマンだよ」


まぁねってっ?! そしてロマン入れる所かな?!


少し焦って見せると、奏人は意地悪そうに微笑んだ。……あれ?


――いつの間にか、いつもの表情に戻ってる。


満足したってことかな?


「……奏人?」


「ん……何?」


……私もなんだか嬉しくなって。




「――……ぱっつん……気に入った?」




覗き込んで尋ねれば。



彼の骨ばった長い指が、短くなった前髪を玩んで。


……そのまま、私の赤い頬に添えられた。




「気に入ってはないけど。……でも。君が好きでいてくれるなら……どんな髪型でもいいよ」




優しい微笑みと、あったかくて小さなキス。



……やっぱり、姿なんて関係ない。


いや、確かに関係はあるにはあるけど。



――少なくとも私は、奏人が奏人だから、大好き。



ぎゅっと抱きつくと、耳元でくすぐったくて甘い声が囁かれた。



「……俺も。……結衣が結衣だから、大好きだよ」


「ふふっ……また私の心読んだの?」



見つめ合うと、2人でそっと微笑んだ。



 揺れる綺麗な瞳の上で。



 ――彼のぱっつん前髪が、サラサラ揺れていた。





……そして。



「……でも、君。実際この前髪で出歩くのって勇気いると思わない?」



そのままの体勢で、彼はそっと呟いた。


「う……まぁね。奏人ってただでさえ格好よくて人目引くのに」


真意を測りかねて、同意してみると。



「というわけで。……君にも、してほしいことあるんだけど」



「え。なに? 同じ前髪にしろなんていわないでね」


奏人は見たこともないような……妖艶な微笑みを浮かべると。



「それもいいけどさ。……君の色んな姿も……見てみたいなって思ってね」


「色んなってっ?!」


「……さぁね。とりあえず、この押し倒された状態から……想像できない?」


こっの……!!


「変態ぱっつん!!」




――鋭い鉄拳の音で幕を閉じた。




 ある休日の夕暮れ。



 頬に手形をつけて、すやすやと膝で眠る彼の。




 ――ぱっつん前髪のおでこに……小さなキスを。




お読み下さりありがとうございました!


どうでもいいですが、この作品は私が書いた中で、初めて女の子というか、主人公の名前を書いた作品となりました! (その割りにそんなに関係してませんが)


書いていると気付かないものですが、『君』って呼びかけてくる男の人って実際どうなんでしょう……? アリなんですかね。


話は逸れましたが、なんだか突発的にできた作品ですので、あまり出来は……という雰囲気です。

まぁ気にせず適当に読んで下されば本望ですっ。

アドバイス、ご感想など頂ければ嬉しいです。


それでは、お付き合いありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] か、感動しましたー!! 萌ましたッ(・∀・) 『君』って素敵だと思いますよヽ(。∀゜)ノ こんな恋したいと心から思いました! ありがとうございます(∀)
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ