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特にトイレに立った神崎さんと鉢合わせになったときには、さっと神崎さんをよけたのだから。
そして神崎さんは、僕が初めてその存在を認識したときから、全く年をとることがなかった。
その見た目は、人並みに年齢を重ねてきた父と比べると、ずいぶんと若く見えたものだ。
そのうちに私にも恋人が出来、何度か彼女が家に遊びに来るようになった。
最初はその度に、いつものように神崎さんを奥の部屋に隠していたのだが、二人の結婚が正式に決まると、もう居間に置いたままとなった。
初めて神崎さんを見た彼女が神崎さんに話しかけようとしたとき、私は言った。
「相手しなくていいんだよ。だって神崎さんなんだから」
そして結婚をし、父が死んで子供が産まれて、母が死んだ。
まだ幼い娘には神崎さんが見えていた。
ほとんどしゃべれないはずなのに、何度となく話しかけていた。
私の時もそうだったが、神崎さんは子供が怖がる対象ではないようだ。
そんなとき神崎さんは、冬なのに汗ばんだ顔を一応娘に向けるのだが、返事することなくテレビに視線を移すのだ。
嫁も最初は明らかに気味悪がっていたが、あっと言う間に気にしなくなってしまった。
その豹変ぶりは、ある種の感動を覚えるほどに鮮やかなものだった。
どうやら他からきてうちの一族になった者は、その理由は定かではないがみんな自然と神崎さんを受け入れてしまうようだ。
とにかくそこにあるものとして。