特別な日の始まり
「泣くなよ。泣いてる顔より笑ってる顔がみたいな」
?「グスッ…お兄ちゃん、ありがとう。
また…会えるよね?」
「会えるよ!来年の夏休みにまた来るから。
それまで待っててくれな?」
?「本当に?約束だよ?」
「あぁ。約束」
ーー
ー
少し蒸し暑いこの時期は決まって
この夢で目が覚める。
あの子にはああ言ったが色々あって会いに行けていない。
小さな俺は大きな約束を破ってしまった。
あれから数年、
ーあの子は今どうしてるかな
ー約束破った俺のこと怒ってるかな
ーそもそも俺のことを覚えているだろうか
ボーッとしていると下から耳を突き抜けるような
甲高い声が聞こえてきた。
?「蓮ー!遅刻しちゃうわよ!!」
朝から元気な美奈さんの声。
美奈さんとは親父の再婚相手で、俺の新しい母さん。
蓮「わーってるよ!今いく!」
俺も負けじと精一杯の声を張り上げた。
おおぉ。こりゃまた朝から豪華な。
だるい体を起こしてリビングに降りてみると
テーブルに並んだ色とりどりの料理に圧倒された。
俺には宝石のように輝いて見えるほど。
美「ボケッとしてないで早く食べちゃって!」
蓮「美奈さん…今日ってなんかありましたっけ?」
美「何言ってるのよ!自分の誕生日も忘れちゃったの?」
ふふふと笑う美奈さんの言葉にハッとした。
そうだ。俺、赤城蓮は今日で17歳になったんだ。
美「蓮、誕生日おめでとう」
蓮「ありがとう」
17歳の1日目が良い日になるようにと思いながら
美奈さんの美味すぎる料理を平らげていると
ーピーンポーン
朝から俺ん家を訪ねるのは誰かわかっている。
美「は〜い」
ーガチャッ
?「おはようございます」
?「ちょっと蓮まだぁ?遅くない?」
?「少しくらい待ってようよ」
一気に賑やかになった玄関先。毎朝の俺のお迎えだ。
蓮「ご馳走さまー!美奈さん、今日もめっちゃ美味かったよ!」
俺は洗面所に向かい、急いで歯磨きと髪のセットを終えた。
蓮「行ってきまーす!」
いつもより気持ちよく感じた外の空気を吸い込んで
家をあとにした。