#6行幸、銃撃
神武天皇即位紀元350年(紀元前310年)
その日、初代天皇(弓削和人)は地方視察のため、旧サチ国首都である福岡市
を行幸していた。目的地までの移動は馬車。その馬車が通る大通りには、
天皇の姿を見るために多くの人が集まっている。
(行幸、面倒くさいなぁ・・・・)
そんなことを思っていたのは、この国の天皇である弓削和人。
天皇としてあるまじき発言だが、心の声なので、気にする人は誰もいない。
(特に、この手を振り続けるのがしんどい)
行幸の最中、手を国民に向けて振らなければならない。元々、印象を上げる
ためにやってきたことだったが、何故かそれが定着してしまい、やらないと
少し問題になるので天皇は仕方なくやっている。
(毎度思うが、何かこれ優勝パレードみたいだ)
そう思うのにも無理がなかった。天皇への国民からの支持力、信仰力は
絶大であるため、天皇が通るだけで大きな歓声が上がるからだ。
しかし、そんな歓声の中、それらのことに厭悪感を抱く青年が、1人、
人混みの中に紛れていた。
(あいつさえ、いなければ・・・俺たちの国は・・・・)
青年は、そんなことを思いながら、馬車の方を睨んでいる。
彼の正体は、旧サチ国王のひ孫。
サチ国が滅亡した時、王家は国外に追放されたが、国を潰された恨みが、
ひ孫の代にまで受け継がれ、受け継がれるごとにその恨みは更に募って
いったのだ。その恨みを晴らすべく、不法入国して、旧サチ国首都まで訪れ、
作戦を実行しようとしていた。
(ついにこの時が来た。国を滅ぼした根源、必ずここでやつに天罰を下す)
彼はそう思いながら、計画を実行する瞬間を伺っている。
そして、馬車がちょうど彼の前に来た時、とっさに前に出て、拳銃の引き金を
一思いに引いた。
バアァァンッ!!
乾いた音が、空に鳴り響いた。その瞬間、さっきまでの歓声が消えた。
その時、誰もが突然の出来事に凍り付いた。
まるで、時が止まったような衝撃だった。再び時が動き出した時、既に遅かった。
「て、天皇陛下!!?」
撃たれた弾丸はガラスを突き破り、天皇の胸を貫通していた。その証拠として、
胸からは赤色が染み出している。
「天皇陛下!い、今すぐ病院に行きますからね!」
向かい側に座っていた侍従長が声をかける。その語調からして、かなり動揺
している。それに対し、天皇の反応は全くない。しかし心の中では・・・・
(痛ってえぇぇぇぇぇぇぇっ!!!)
天皇は今すぐ叫びたかった。しかし、心臓を貫かれている痛みのせいで、
体は全く動かない。
(これ、常人だったら即死レベルだぞ!?その痛みをもろに受けているのだぞ!?
やった奴、絶対に許さん!!必ず死刑にするからな?)
そんなことも思いながら、天皇は近くの病院へと運ばれた。