#53締結
トラヤヌスは、続け様に質問をした。
「ところで、貴国は本当に我が国と貿易をするのか?」
「何故ですか?」
「その・・・貴国がパンテレリア島で貿易をするには遠いと思うのだが・・・」
トラヤヌスが懸念していたのは、日本からパンテレリア島が遠すぎることだ。
それは、トラヤヌスは日本皇国が日本列島にしか領土を持っていないと思って
いるからだ。そこから地中海まで行くには遠すぎる。さすがのローマ帝国でも、
アジアまで行くための航路を発見していない。日本皇国にここまで来る
技術があるとは思えないし、あったとしても莫大なコストがかかる。
そもそも、そこまでして貿易をする理由が分からない。
トラヤヌスはそう思っていたのだ。
「いえ、何も問題ありませんよ。我が国は世界のどこでも船を出せます」
三島はきっぱりとそう言った。「絶対に無理だろ」とトラヤヌスは思ったが、
そう言われてしまっては、トラヤヌスも食い下がるしかなかった。
「それと・・・この、関税自主権とは何だ?」
トラヤヌスは、分からない単語を質問した?
「関税自主権とは、輸入品にかけられる税、つまり関税を自分で決める
権利のことです」
「なっ!?そ、それは、おかしいじゃないか!」
意味を知った途端、トラヤヌスは驚き、怒りを露わにした。自国に関税自主権
がないということは、関税を決められない。つまり、輸入品は高く売られ、
輸出品は安く買われてしまい、経済が破綻する。そのことに、
トラヤヌスは怒ったのだ。
「何故ですか?」
しかし、三島は全く悪びれる様子もない。
「何故って・・・敗戦国でもない我が国がどうしてこんな扱いを受けるのだ?」
「いえ、私たちはあくどいことは全く考えていません。むしろ、貴国にとって
有益ですよ」
「・・・何?」
「私たちは貴国に、高品質な製品を安価でお売りしようと思っています。
対価は求めません。この条約は、貴国にとって、とても有益ですよ」
「そ、そうか。ならいいのだが」
その言葉を聞き、トラヤヌスの怒りは収まった。貿易が自国にとって
有益だと聞いたからだ。
しかし、トラヤヌスは気づいていなかった。三島の口先にうまく
乗せらていたということを。
高品質で安価な商品が市場に出回れば、国民は皆そちらを買ってしまい、
自国の商品が売れなくなり、経済が崩壊してしまう。
そんなことを考えぬまま、トラヤヌスは独断で条約を結んでしまった。




