#47上京
「ここが、弓削京ですか・・・」
弓削京に近づいてきた時、キリストは感嘆の声を漏らした。
目の前に映っているのは、日本皇国最大、すなわち世界最大の都市である弓削京。
弓削京には、先が見えないほどにビルが立ち並び、大通りには無数の車が行き来
している。その光景に、キリストは心を奪われた。エルサレムやローマ、
どこと比べても全く歯が立たないほどの大都市が、こんな極東の地にあった
なんて・・・キリストはとても驚いていた。
キリストはずっとその景色を眺めていたかったが、バンは構わずに弓削京中心部
へと走り続けた。
弓削京は、中心に皇居があり、その周りを堀が囲い、皇居から東西南北に道が
延びている構造である。そのため、皇居へ行くという事は、中心へ向かうという
ことなのだ。
しばらく進み、ついに皇居前へと着いた。
「さあ、車を降りろ。これから中へ入る」
隊員の声と共に、キリストたちは車を降り、皇居の敷地内に足を踏み入れた。
皇居の敷地内は、聖域であり、何か無礼な真似をしたら、殺されてもおかしく
ない。
それをキリストに説明した。
キリストは、ここに入ることの重大さをあまり分かっていないようだが、隊員たち
はかなり緊張している。皇居へ入ること、天皇と謁見することはこの人生で2度目が
あるか分からないほどであり、ここで何か失態を犯せば、責任重大である。
隊員は、緊張が他人に分からぬよう、必死に隠している。
キリストたちは、皇居内の応接室に来た。ここで陛下の到着を待つ。
少し待つと、天皇は奥から、この部屋に入ってきた。それに対し、隊員は
「ほ、本日私たちをお招きいただき、誠にありがとうございます。陛下と謁見
でき、心より感謝いたします」
と、深々と頭を下げて言った。キリストは、ただ呆然と眺めている。
さすがのキリストでも日本語は分からないようだ。
「うむ。お前たちが無事で何よりだ。対象も無事に連れてこれたようだしな」
「はい、私たちも陛下のお役に立てて、光栄です」
キリストは、その会話を不思議に思った。何故なら、天皇の言葉は自分も理解
でき、隊員にも通じている。しかし、隊員の言葉は自分に通じない。
天皇と隊員は、お互いキリストの分からない日本語で会話をしている。
しかし、何故か天皇の言葉だけは、日本語なのにアラム語にも聞こえる。
どういうことかと言うと、天皇はアラム語と日本語の両方を一度に喋ったのだ。
天皇の能力の全言語翻訳は、天皇が話す言語はどの言語にも聞こえるのだ。
言わば、世界共通語。天皇が話す言語は、アラム語にも、日本語にも、
どんな言語でも聞こえるのだ。そんなことが、不可解なことを招いたのだ。




