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ある冬の日のこと anther

今日は今朝から雪が降っている。

用意周到な私は防寒具を汗が出そうなくらいは着込んできて寒さなど微塵も感じない。

半年前から付き合い始めた彼が言うには『備えあれば憂いなし』だそうだ。

その彼を私は待っている。

彼からは遅れるから先に帰ってもらって構わない、という連絡を貰ったが健気な彼女である私は大切な彼を待つことにしたのだ。

間違えて持ってきた親のコートは温かいし、暇つぶしには友達に借りた漫画がある。

待っている時間なんてすぐ過ぎるだろう。

通学路に面した近くの公園には屋根付きのベンチがあったはずだ。

私は公園に入りベンチに座ってブックカバーのかけられた漫画を出した。

友達がタイトルをさらけ出したまま漫画を貸し借りするのは少し恥ずかしいからと言って、ブックカバーをかけたのだ。

そのブックカバーは本屋で貰う紙のものではなく、こだわりの見える皮のような素材で、いかにも読書家といったものだ。

その本を読んでいる私はさぞかし知的に見える事だろう。


遠くから少し騒がしい声がする。

近くの小学生だろう、雪の日でも子供は元気で良い。

漫画に夢中になっているとパシャッ、という軽い音がした。

顔を上げて見ると目の前には潰れた雪玉があった。

飛んできたであろう方向を向くと子供たちが私を指さして笑っている。


大丈夫だ。知的で冷静で大人な私は耐えられる。


自己暗示にも似た無理やりな理由を付けて気を静め、ベンチに座り直し、漫画の世界に没入する。

子供たちの笑い声が遠く、小さくなった。

嫌な予感がした私は子供のいる方へ注意を向ける。

見ると体の一番大きな男の子が私に向けて雪玉を放ってきた。全力で。

しかし私は反射神経と運動神経には自信があるのだ。

この程度の雪玉くらい……!

すかさず私は手で雪玉を払った。

友達に借りた漫画を持ったその手で。




2度目の雪玉は知的で冷静で大人な私を消し去り、同時に友達に借りた漫画を雪まみれにした。




気が付くと日は沈み子供たちは帰っていた。

よく確認すると漫画は皮の様なブックカバーのお陰で無事だったので何も問題なく、途中からは子供に混じって遊んでしまった。

手袋が濡れてしまって少し冷たい。

手を繋いだカップルが近くを通るのを見て、最初の目的を思い出した。

そういえば、私は彼を待っていたのだ。

公園の出口を見るとちょうど良く彼が通るのを見かけた。

あの顔は何かどうでもいいことを考えているに違いない。

そんなことを考えながら、私は彼の名前を呼んだ。

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