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ネコとクマとブタとトリと

「ほら、やるぞ」

「じゃあ、ブルック。よろしく」

「頼んだ」

「型抜きの準備は出来てる」

 意気揚々とこちらに向かって歩いてきたブルックとルーシィとは対照的に、工程のほとんどを投げ出したコニーとヒューイは型抜きの乗ったトレイを掲げた。


「……お前らな……」

 その様子にブルックは苛立った様子でピクピクと目元をひくつかせたが、やがて諦めたようにボウルを手に取った。

「……はぁ。型抜きはちゃんとやれよ?」

「ああ、もちろんだ!」


「あの!」

 すでにブルックとヒューイ、コニーとの間で役割の分担については片がついたようであった。

 だがルナは出遅れた言葉を引っ込めるつもりはなかった。

「どうした、カッツェ?」

「私が、私が混ぜてもいいでしょうか?」


 たかがクッキー作りだ。

 材料も計りおわっており、型抜きは皆でやるようだから、残る工程といえば『混ぜる』くらいしかないのだ。


 この前食べたお菓子はブルックが作ったものらしく、どれもルナが作るものよりも美味しかった。だからこの作業もブルックに頼んだ方が上手に出来ることだろう。だがルナは何か役に立ちたかったのだ。

 なぜか誘拐犯と言い張る優しい彼らの役に立ちたかった。


(私は何も出来ないから……。)


 ルナはこの屋敷に来てから自分の無力さを痛感していた。

 クロード家にいた時も、ランドール家にいた時も、出来たことは指を折って数えることができるほどだった。

 だからこそ、役に立てるのだと証明したかったのだ。

 他でもない、誘拐犯であると主張する彼らに。


「ダメだ」

 だがルナの申し出はブルックによってアッサリと却下された。

「私だってクッキーは何度か作ったことはあります!」

 ルナは強く主張した。


 自分でも出来るのだと。

 役に立てることはあるのだと。


「平等性が保たれない」

「え?」

「みんなで取り合いになっちゃうもの」

 隣に座るミレーがカチャカチャと音を立てながら型抜きを選びながら、なんてことないようにブルックの言葉の説明をした。

「取り合いって……」

(まさか……そんな訳が……。)

 あるはずがないと周りを見回すとどの机も手を止めてこちらを一斉に見つめていた。その目は興味で満ちていた。だがそれと同時に冷たかった。裏切りを許さないと如実に示しているようであった。ルナ自身に向けられたものではない。そうわかっていても背筋に汗が伝い落ちた。


「だから、ダメなの。ほらブルック、さっさと生地作りなさいよ」

「ん。カッツェは型抜き、選んでな」

「は、はい」

 ルナがそうブルックに返事を返すと興味をなくしたかのように一斉に視線が散っていった。


(なんなのかしら?)

 ルナには一連の彼らの行動の意味がわからず、首をひねった。

 するとにゅっと前から太い腕が伸びた。「カッツェ、お前のこれな」とっさに手を出すとルナの手にはネコの形を模した型抜きが乗せられていた。


 カッツェだから猫なのだろう。

 単純だが、仲間と認められたように思えた。渡された型抜きの、ネコの長く伸びた尻尾は今にもユラユラと機嫌よく動き出しそうだった。


 するとそれを見ていたルーシィがぱあっと顔を輝かせた。

「ヒューイ様のはこれですね!」

 そう言って手に取ったのは可愛らしいテディベアを模したものだった。


「これが?」

 ヒューイは手にとって、自分の型と言われたものを様々な角度から見ては納得いかないと言った様子で顔をしかめた。

 だがルーシィが「クマさんです!」と変わらぬ可愛らしい顔で笑うと観念した様子で「そうか……」とだけ言ってから手元に避けていた、使う予定の型抜きに加えた。

 ヒューイも最年少のルーシィには叶わないらしい。


 その様子が可笑しいとミレーはお腹を抱え、涙を流しながら笑った。

「あはは。ヒューイにそっくりじゃない。後で顔、書いときなさいよ」

「バカ言うな! ……ったく」


 怒る様子は見せたもののやはり自分でも似合わないと分かっているのか再び型抜きを手に取っては眺める。

「後で顔も描きましょう!」

 そんなヒューイにルーシィは楽しそうに提案する。

「そうだな……」

 ヒューイは悪意の一切ない、純粋なルーシィの頭を優しく撫でた。



 その横で、コニーは一つの型抜きを手にとってミレーに見せた。

「んじゃあ、これはミレーのだな」

「? ネコの顔? それじゃあカッツェと被っちゃうわよ? お揃いっていうのも悪くはないけど……」

 そういいながらも嬉しげにコニーの手の中にあった型抜きを自分の手のひらに乗せると、コニーが勢いよく首を振った。


「ネコ? 違う、違う。ネコじゃない。それ豚だから。こっちの鼻の型とセットだぜ?」

「なんですって!」

「お前の最近、太ったからな……」

 目元をヒクつかせながら怒りを露わにしていたミレーだが、シミジミと放ったコニーの言葉が存外胸に突き刺さったようで胸の中心に手を添えては過去の自分に思いを馳せた。

「いやだってね……つい食べ過ぎちゃうじゃない? セーブしようとは思っているのよ? でもね、でも……」

「言い訳はいいから、ドレス入らなくなる前に痩せろよ?」

 その言葉が最後のトドメとなったのかミレーは頭を抱えた。



「……そう。あんたはこの鳥ね。」

 そして反撃とばかりに型抜きから鳥の形を模したものをコニーの前に置く。

「鳥?」

「そう。だってあんた鳥頭でしょ? ピッタリじゃない」

 反撃が決まったとばかりに胸を張る。


「んだと! ってつぅ……」

 ミレーの言葉に応戦しようとしたコニーであったが未だに身体に力が入ると傷が痛むらしく身体を丸めた。

「大丈夫ですか!?」

 それに驚いたルナはどうにかしようと手を出してオロオロとしたが、周りは慣れた様子で特に気にした様子もなく、ミレーが「ほら痛いなら無理しないの」とコニーの隣に座っていたヒューイを席から退かして、隣で世話を焼いた。


「ヒューイ様、ここ」

「はいはい」

 ルーシィは空席になった、ミレーの座っていた場所の椅子に移動してから今まで自分が座っていた場所にヒューイを誘導した。


「これで私が真ん中です」

 ルナとヒューイに挟まれて座れたことがよほど嬉しかったのか、ルーシィは鼻歌まで歌いだした。



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