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甘さと酸味

 約束の食堂まで行くと、木材本来の色がほとんどを占める場所で一箇所だけ異色を放つ場所があった。

 机も椅子もそのままであったが、それらに似つかわしくないスイーツスタンドや4人分のティーセットが並べられているのだ。ルナはそれに見覚えがあった。昨日、この屋敷に来たばかりの時に出されたものと同じものなのだ。


「カッツェ、お茶とお菓子を楽しみましょう?」

「あ、はい」

 ぼおっと突っ立っていたルナはすぐに空いていた席を引いた。隣はやはり先ほどルーシィを馬車で送った男だ。ルナの記憶は正しかった。

 彼がブルックなのだ。

 目の前のミレーはすでにカップを傾けて、一仕事を終えた後の一杯を楽しんでいる。また斜め前のルーシィは目を輝かせながら身を乗り出してスタンドの左右からどれを食べようかと狙っていた。

「ほらルーシィ、取ってやるから座ってろ」

「はい!」

 ルーシィが元気よく返事をするとブルックはテキパキと様々な種類の小さなお菓子をお皿に取ってルーシィに渡した。


「いっぱいあるんだからゆっくり食べろよ?」

 兄のような優しい笑みをルーシィに向けるブルックに、ルナはカーティスの姿を重ねた。


 優しくしてくれたカーティスは手紙をもらってどんな反応を返したのだろう?と考えずにはいられなかった。


 美味しそうなお菓子を目の前に暗い顔をしていたからかブルックはルーシィにしたのと同じようにいくつかのケーキをお皿に取ってルナの前に差し出した。

「カッツェ、あんまり考え過ぎんのもよくないぞ。ほら、甘いものでも食べて元気出せ」

 ブルックはルーシィに向けたのと同じ目をしていた。

 ルナは訳がわからずブルックとお菓子を2往復ほど見た。するとルーシィは口の中のお菓子をごくんと飲み込んでから、胸を張って自慢した。

「カッツェ、ブルック様のお菓子は世界一です! 食べないと勿体無いですよ! 特にビスコッティはこのクリームをつけて食べるとまた美味しくて……」

「ルーシィ、気持ちは嬉しいが落ち着け、机を揺らすな。紅茶が溢れる」

 ブルックはちゃっかり自分の分のカップとソーサーは避難させて興奮状態のルーシィをなだめた。

「すみません……」

 ルーシィはすっかり叱られた子犬のように縮こまって、ルナに勧めたビスコッティをちょびちょびと突くようにして食べた。けれどやはりルナの様子が心配なのか、はたまた自分の勧めたお菓子を食べて欲しいのか、チラチラとルナに視線をやった。

 ルナはいくつかのお皿に乗せられたお菓子の中からルーシィに勧められたビスコッティに少しクリームを乗せて口に運んだ。

「美味しい」

 そう呟くと机はガタンと揺れた。


「でしょう!」

 ルーシィが机に手をついて身を乗り出したのだ。

「ルーシィ、行儀悪いぞ」

「ううっ、すみません」

「いいじゃないの。あんたが素直に喜ばない分ルーシィが喜んでんのよ」

 再びシュンとしたルーシィの頭をミレーはよしよしと撫でた。


「俺だって嬉しくない訳じゃないが、その……な」

 ブルックはほのかに赤く火照った頬を太い指で二、三回ほど掻いた。そしてそれを隠すかのようにそっぽを向いた。

 ミレーは不満で顔をいっぱいにして机の下でブルックの足を数度蹴った。

「でかい図体して女の子みたいに恥ずかしがるんじゃないわよ。気持ち悪い。あんたの作るお菓子は美味しいんだからもっと誇りなさいよ、まったく……」

 貶しているのだか褒めているのだか、その両方なのかわからない言葉を吐いてスタンドの一番上にある、小さなケーキにフォークを突き刺して口に放り込んだ。

 それでもまだ満足しないのか「大体あんたは昔から~」と小言を言いだした。

 だが不愉快な雰囲気を醸し出すことはない。ミレーはどこか懐かしい思い出を話すような顔を浮かべているからだ。口は不満そうに尖っているのに、時折頬を緩ませる。目にはブルックが浮かべたそれと同じ優しさが浮かんでいた。



「ミレー、これ初めて作ったんだ。よかったら……」

 中段にあった、クリームの上に果実を乗せたケーキをお皿に乗せてミレーに渡した。すると今までの思い出話しのようなものをピタッととめ、ブルックに獲物を見つけた野鳥のようなするどい視線を向けた。

「なんですって? そういうことは早く言いなさいよ、早く」

 ミレーはお皿を奪い取るようにすると笑みを浮かべてフォークを握った。

 それを見たルーシィは人差し指を一本だけ自分の方に向けてブルックに主張する。

「ブルック様、私のは!」

「ああ、全員分あるからな」

 キラキラとただひたすらにお菓子しか目に入っていないルーシィにも同じようにお皿を渡した後でルナにも差し出した。

「ほら、これはカッツェのぶんな」

「ありがとうございます」


 ミレーとルーシィに続いてケーキを口の中に入れた。


 クリームの甘さと果実の酸っぱさは両極端にあるのになぜか共にいて当たり前だと思わせた。



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