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繋いだ手

「あの……これは……」

「んー、なんか違う? ルーシィはどう思う?」

「カッツェにはもっと淡い色が…………」

「そうよね。カッツェ、次はこれね」

「あ、はい」

 ルナの前にはたくさんのネグリジェが山をなしていた。

 渡されたものを着ては脱ぎ、着ては脱ぎ。どこから出てくるのだといいたくなるそれらは部屋にある大きな棚の中からミレーによって引きずり出される。

「あの……これって、誰かのじゃ……」

「ん? ああ、気にしないで」

気にするな、と言われてもそれらはあまり服に頓着しないルナでもわかるほどに凝った装飾があしらわれていた。まるで誰かから贈られたもののようなそれは棚の中からちらりと覗くリボンによく似合っていた。


「でも……」

「うーん、あ、これいいんじゃない?」

「いいです……!」

「よし、これね。今日はこれ! 決定!」

「え、あの……」

「せっかくだからヒューイに見せに行きましょうか」

「そうですね。きっと喜びます」

 ミレーとルーシィはルナのことなどお構いなしにルナの周りを一回転して、大きく頷いた後で、右手をミレーが、左手をルーシィが包み込むようにしてつないだ。


「ヒューイ!」

 ミレーは食堂のドアを思い切り開く。木のドアは一度ぶつかって再び戻ってこようとしたが、それがルナたちの元へやってくることはなかった。ミレーの言葉に反応し奥からやってきたヒューイがドアをつかむようにして抑えているからだ。

「……んだ、ミレー?」

「ねぇ、ヒューイ。見て、この子。可愛いでしょう?」

ミレーは左手を前に出し、ルナに一歩進むことを促す。それに従い、前へ出るとヒューイはルナの身体をじろじろ見ては先ほどのミレーたちと同じように大きく頷いた。

「ん」

「ん、じゃなくて!」

ミレーがヒューイに詰め寄ろうとルナから手を離すと、ヒューイの後ろからビール瓶を両手につかんでは交互に飲んでいるコニーがビール瓶を振りながら走ってきた。あれだけ勢いよく走っていても全く中身がこぼれ出ていないことは感心すればいいのかはたまたこぼれないくらいにあのビール瓶には中身が入っていないことを呆れればいいのだろうか。考え込んだルナの顔の前、わずかこぶし二個ほどの隙間を開けてコニーは止まった。

「あー、カッツェ! 可愛い、似合ってる!」

「そう、こういう反応が、ってなんかコニーがいうと違うのよね……」

「どこがだよ!」

「なんか、軽い?」

「はぁ!?」

アルコールの匂いを口から発しながらコニーはミレーの空いた胸元のわずかな布の部分をつかみ、ミレーはコニーの頭に巻かれた布の隙間に指を入れ込みながらつかんだ。

「あ、あの……二人とも」

それをルナは慌てていさめようとすると、二人は勢いよくルナのほうに顔を回転させた。

「カッツェ、気にしなくていいのよ」「カッツェ、危ないから離れてろ」

同時に言われてルナには正確に聞き取ることはできなかったが、どちらもルナの身を案じての言葉だということだけは理解した。そして、顔は二人のほうに固定しながら3歩後ろに下がった。

その間も二人の言い合いは収まらない。

「あんたが退けばいいんでしょ!」

「はぁ? お前もだろ!?」

「あー、お前ら2人そろって外にでも行ってろ」

鶴の一声、というには若干投げやりなヒューイの声。そんな言葉に二人は反応して顔を合わせる。

「ミレー、外、行くぞ!」

「ええ、あんたに言われなくても!」

ミレーとコニーはお互いから手を離すことなく、お互いをじっと見つめながら、横向きに歩いて食堂から出て行った。

ルナがそれを見ていると、頭の上からは一つ大きな咳払い。

「まぁ、あの二人は置いといて……。カッツェ、よく似合ってるぞ」

「その……ありがとうございます」

ワシワシとヒューイがルナの頭を掻けば、ルナの頭はそれに合わせて少し、左右に揺れる。それにつられて手をつないでいるルーシィも揺られて、それを見てヒューイとルナはふっ、と笑った。

ルナは空いた手でルーシィの頭を撫でてやれば、またルナの頭にあるヒューイの手が揺れた。


しばらくの間、ルナもルーシィもゆらゆら揺れているとヒューイの後ろから大きな声がした。

「かっつぇー」

「は、はい!」

食堂に響き渡るような声で。

だが、男たちの目はルナをとらえてはいなかった。どこか虚ろで、男たちの隣には様々な種類の酒の瓶が転がっている。コニーと同様、相当な量のアルコールを摂取したのだろう。

男たちはルナの声が聞こえたことに気を良くし、グラスになみなみと注がれた酒を一気に飲み干した。


「おぉーきく、なったなぁ」

「ああ、その服、よーく似合ってるよぉ~」

「生きて、てぇ、よかったぁなぁ~」

「え、あの、その……」

「お前ら、飲みすぎじゃないか?」

 ルナのここでの名前を呼んだ男たちはルナの返事なんて期待していないように思えた。ただ思ったことをそのまま言ったかのようでルナの言葉もヒューイの言葉も聞こえてはいなかった。


 並んで酒を飲んでいるうちの一番端に腰をかけている男は足元から新しい酒を取り出して、栓を抜いた。そして隣から出てくる複数の手に握られたグラスに酒を注ぎこんだ。グラスの下の、木製の机は上から落ちてくる酒をしみこませた。

 注がれた酒はすぐに飲み干され、また注がれる。瓶を持っている男は自分の分まで注ぐのが面倒になったのか瓶に口をつけ飲み始めた。また目の前にグラスが出てくれば口を外してグラスに注ぎ、また自分の口に運び。それを繰り返す。


 そんな男たちを、ヒューイは呆れたように、ルーシィは心配そうに見ていると男たちの声は次第に小さくなっていった。


「ヒック、ぐす……」

「なんだお前、目と鼻から酒出てんじゃねえか!」

「お前も出てるぞ、汚ねぇなぁ~」


「おい、その辺にしておけよ! ってありゃ聞こえてないな……」

「ヒューイ様、あの酒、回収してきます?」

「まだ開いてないのだけ、下げといてくれ」

「はい」

「ぁ……」

先ほどまでルナの隣で揺られていたルーシィの手は零れ落ちるようにルナの手から去っていった。ルナはそれがとても名残惜しいような気がして、出てしまった言葉は出た後に気付いては、ルナ以外の誰にも気づかれることはなく、男たちの声に消えて行った。


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