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第4話 育成方針

 ()佐賀(さが) 恵莉(えり)ことエリス・サーガは元《勇者》である。

 《魔王》打倒のため、地球からこの世界に召喚された。

 《勇者》とは、世界を滅ぼす不滅存在《魔王》を唯一滅ぼすことのできる可能性を持った者を指す。故に、《勇者》は様々な争いに巻き込まれる。

 《魔王》の引き起こした厄災、《勇者》を確保しようとする国家の権力闘争。《勇者》であっても中身は人間である事には変わらず、《勇者》同士での闘争もあった。

 戦いに継ぐ戦い。あの頃、安心して眠れる日はなかった。

 《魔王》の討伐に成功したあとも、エリスは様々な勢力から担ぎ上げられたり、殺されかけたりと、心の休まる暇が殆どなかった。主な国を全て物理的に崩壊させて原始の時代に回帰させてやろうかと何度も思ったものだ。実行に移さなかったのは、当時はまだ仲間や友人達が存命中であったからだ。並み居る国家が崩壊すれば当然彼らに迷惑がかかる。

 かと言って、元の地球に帰るのも考えものだった。元々孤児であり、望郷の念など全く感じられず、好き好んであんな地獄に戻る気はさらさらなかった。

 そこで、エリスはジンバールとの結婚を機に、自身の死を偽装した。

 《勇者》として得た能力やコネを駆使し、全世界に自分の死亡情報を流し、死亡の証拠を公表。自身は秘境にて夫、僅かな知己ともに隠遁したのだ。

 全力を尽くした偽装工作は成功し、以降変わり映えしないが、平穏な時間をエリスはすごすことができた。

 変化が訪れたのは、隠遁生活を初めて約二百年後。

 エリスの妊娠が発覚した。

 エリスの夫ジンバールは《龍》である。《龍》とは、生物の頂点であり、有事の際は、ヒト種の守護者の任を負う。

 《龍》は殆どのヒト種族と交配可能だが、出生率が酷く低い。そのため《龍》は自分の番となった相手に、自身の力を分け与え、寿命を伸ばし肉体を健康な状態にたもつ能力を持つ。そうでもなければ、次世代の子供を身籠る前に、相手の寿命が尽きるからだ。

 エリスも例に漏れず、ジンバールの力で寿命が延びている。身体も、《龍》とヒト種族の混血、龍人族を産めるものへと変化した。

 妊娠発覚から約1年後、エリスは初の出産を経験した。

 《勇者》として、血を血で洗う泥沼の戦場を幾多経験しているエリス。傷や呪いや毒などの痛みには慣れきっているが、出産はそれらとは全く別方向の苦しみだった。

 ヘルマンや彼の端末《指》の介助受け、ようやく産むことができた。

 体力が回復した後、エリスは我が子を抱き上げた。

 とても軽くて、とても脆そうで、とても弱そうだった。

 だが、これ以上ないくらい愛おしかった。




 出産から一年後、エリスの肉体は全盛期の状態へ回復していた。自身が身につけた《アビリティ》の恩恵や《龍》が番に与える力が、身体を十全な状態へと引き戻すのだ。

 エリスは久しぶりに、倉庫に放り込んでいた愛剣を引っ張りだし、腰に佩いた。

 軽く身支度をして、装備を整える。

「エリス様、どこかへ行かれるのですか?」

 ちょうど廊下を通りかかった、端末の五番が聞いてくる。手には籠に入った野菜。恐らく厨房へ食材を運ぶ途中なのだろう。

「はい、少し帝国まで」

「ヴァロキア帝国ですか?」

 五番が首をかしげる。エリスは現役時代、ヴァロキア帝国とは一番揉めた。もはや憎んでいると言ってもいいレベルで、嫌悪している。近年外出することはあっても帝国領内へは決して近づこうとしなかった。

「何か、お買い物ですか?」

「いいえ。将来、リョウ君の害になりそうなので、ちょっと滅ぼしておこうかと」

 メイドの行動は早かった。籠を放すと、エリスの背後に回り込み、腕を蛇の様に絡みつかせる。床に籠が着地した時には、完全な羽交い絞めが完成していた。

「お願いです、エリス様。ご再考を!」

 元とは言え、嘗ては《勇者》。くぐり抜けた激戦は数知れず、鍛え抜いた心技体は未だ衰えを知らぬ。比喩抜きで陸海空を両断できるエリスが向かえば、世界一の国力を誇るヴァロキア帝国と言えど、一夜にして地図上から消え去るだろう。

「五番さん、離してください。これでは帝国を潰しに行けません」

「そうさせない為にやっているんです!」

 エリスは考えた。五番を振りほどくことは簡単だ。思いつくだけで十以上の方法がある。だが、どれを選んだとしても、五番は必ずバラバラに壊れる。昔から、力任せ以外のやり方は苦手なのだ。死亡偽装も、仲間の知恵を借りた。

 人嫌いのエリスにとって、屋敷の住人達は、数少ない好意を持つ相手だ。それを、無為に破壊することはエリスの本意ではない。

「・・・分かりました。今日のところは刃を収めます」

「とか言って、明日行くのものなしですよ」

「何故分かりました」

「分かりますよ!」

 流石は、超高速演算を行う魔人族の端末。エリスの思考は筒抜けのようだ。

「どうしたのだ、なんの騒ぎだ」

 騒ぎを察したのか、二階からジンバールが降りてくる。

 ジンバールは、エリスとその装備を見ると、軽くため息を付いた。《龍》である彼は、不老である。相貌に増えた皺は、加齢ではなく苦労の積み重ねによってできたものだ。

 そして、その苦労の大半はエリスの突拍子もない行動に端を発する。

「エリスよ、今度は何をやらかそうとしている」

「はい、帝国を滅ぼそうかと思っています」

「阿呆が。やめておけ、世界大戦が起きる」

「ジン君、これはリョウ君のためなんです」

 再度、嘆息。

「訳を話せ。汝は出会った時から、言葉が足りなさすぎる」

「エリス様、お部屋にお茶を用意いたします、事情をお聞かせください。事の次第では、私共も協力致します」

「もう、分かりましよ。五番さん、八番さんに言ってリョウ君の落書き帳を持ってきてください。説明に使います。あと適当に白紙を二、三枚」

「はい、直ちに!」

 数分後、屋敷のテラスにはテーブルセットと紅茶が用意されていた。白の丸テーブルを挟んで、元《勇者》と《龍》の夫婦が向かい合って座った。周囲を固めるのは従僕のメイド達、彼女たちを統括・管理するヘルマンだ。

「エリス様、こちらがご要望の品になります」

「うん、ヘルマンさん、ありがとうございます」

 落書き帳と白紙を受け取ったエリスは、一旦落書き帳を机に置くと、白紙に筆を走らせた。スキルの《写実》、《筆記》などのサポートにより、フリーハンドで正確な直線や数値を白紙に描画していく。

「これは・・・『ステータス』か?」

 エリスの手元を覗き込みながら、ジンバールが言う。

「はい、完成」

 ものの一分も掛からず、一枚を仕上げると、エリスは次の白紙にも書き綴っていく。

「今度は、『タレント』か」

「こっちもできました」

 計二枚。エリスは、完成した用紙をジンバールに手渡した。

「・・・これはですね、リョウ君のパーソナルを複写したものです」

「リョウマのものだと?」

 怪訝な顔しながら、用紙に視線を走らせるジンバール。

 『パーソナルシステム』それは、初代(・・)《勇者》が全てのヒト種族へ遺した一種の加護だ。本人の得た様々な全ての経験をあまさず肉体に反映させ、成長させる。積み上げた努力が一切無駄にならず、窮地をくぐり抜ければ大きな飛躍も可能とする。

 システムは『ステータス』と『タレント』の二つの要素により成り立ち、『ステータス』は本人の能力値を表し、『タレント』は技能的な要素を表す。

 しかし、欠点も存在する。

 『ステータス』も『タレント』も、本人の自意識により、形成される。自己の確立、自分を自分であると認識することが必要なのだ。そして、意外なことに必要項目には識字がある。パーソナルに表示される文字や数字は本人が最も慣れ親しんだものが、自動的に選択され、本人に有益な情報をもたらしてくれる。しかし、文字も数字も知らなければ、形成自体が行われない。

 以上の理由により、『パーソナルシステム』が機能するには一定以上の知性、知識が必須なのだ。

 当然ながら、生まれて一年の物心付く前、無知な赤子にはパーソナルは形成されない。

「リョウ君は、多分前世の記憶を引き継いています」

 時折、妙に頭が良かったり、本人は知らぬはずの知識を知っている子供が生まれる場合が、この世界には存在する。

 知り得る筈がないないものを引き継いだ者達、彼らは《継承者》と呼ばれている。

死してなお、未練や妄執、果たせぬ想い或いは消える事ない不屈の感情を抱いたまま、最期を迎えた生命は稀に、世界の理を突破する。本来ならば、現世の肉体に魂が内包する前世の記憶は影響を与えない。しかし、無念の末に果てた魂は、前世の記憶・感情・思考を現世の肉体に継承させるのだ。

「落書き帳を覗いた時、驚きました」

 エリスは手元の本を広げる。そこには一定の法則に則って書かれた文字の羅列、文章があった。

「これ、リョウ君に読んであげてる絵本の内容そのままです。あの子は、自分で文字の練習をしているんです」

「記憶の継承、か。・・・しかし、決め付けるのは早計ではないか?ただ単純に、書き写しただけという可能性もある」

 エリスとて、最初はそう思っていた。早熟な子供で、早くも文字に興味を持ちだしたのだと。そして同時に、もしかしてという思いもあった。だから、エリスは確認のため、自身の能力でリョウマの能力を覗き見ることにした。

「閲覧した『タレント』の中に《ギフト》がありました」

 パーソナルシステムは、本人の全ての経験(・・・・・)を肉体に反映させる。それが、前世での経験であってもだ。

 継承者は、すべからく前世の記憶に起因する《ギフト》を持つ。血統や種族間で受け継がれる《アビリティ》とも、努力や修練により体得する《スキル》とも違う、埒外の業だ。

 《ギフト》を持つことが、記憶を引き継いだことの何よりの証左となる。

 ジンバールは、エリスの早まった行動の訳を察した。

 我が子が継承者あることに、エリスは頓着しないだろう。もとより、頭のネジが数本吹き飛んだ、嵐が人の形をしたような妻だ。リョウマが引き継いだモノが何であれ、エリスは息子を息子として、傍迷惑な愛情を器が壊れるまで注ぎ続けるだろう。

 でなければ、そもそも伝説上の存在の《龍》たる自分に結婚を迫る様な真似はすまい。

 良く言えば思い込んだら命懸け、悪し様に本音を吐くなら、究極のバカ女なのだ。

「エリスよ、リョウマが自分の二の舞になるのではないかと、危惧しているのだな」

 質問ではなく、断定。ジンバールは結論づけた。

 エリスは、こちらに召喚されたばかりの頃、彼女が無知であるのをいいことに、《勇者》の能力に目をつけたヴァロキア帝国に利用されていた過去がある。

 エリスはその後、ケジメの清算を十倍にして払わせたが、二百年も経てば、人が過去の過ちを忘れるには十分だ。ヴァロキア帝国は未だに、領土拡大の野心を滾らせている。事実、強力な《アビリティ》や《ギフト》を持つ者を世界中から登用・勧誘しているらしい。場合によっては、かなり強引な手段を執る時もあるようだ。

「・・・そうです。まったく、あそこは全く反省してないんですから。世代が代わって、大事なことをスポーンと忘れてます!これはもう、ガツンと国ごとブッ飛ばさねばなりません」

「いや、ならばリョウマを我の《領域》の外に出さねばよいだけであろう?」

 エリス達が住まう屋敷の立地は、世界の北の果て霊峰ガンドロット。その遥か頂きの更に深奥に展開されたジンバールの《領域》内に存在する。霊峰の峻厳な断崖絶壁は侵入者を拒み、気候は常に極寒であり、専用の装備無しの登山は自殺と同意義である。

 過酷な自然環境に適応した魔獣達は頑強にして凶暴。例え一匹であろうとも、十人単位での密な連携で挑まなければ全滅は必至。

 それらの障害を突破したとしても、ジンバールの許可がなければ、そもそも《領域》を知覚することすらできない。

 はっきり言って、《魔王》などの特例を除けばここに侵入できる輩は世界で十人といるまい。

「勇者風に言えばそう、ヒキコモリをすればよいだけであろう。ここならば、帝国の手も届くまい」

「ジン君それは、駄目です」

「何故だ?事実、汝自身、外界との接触を殆ど断ち、《領域》の内より出るのも年数回程度であろう」

「私は、自分で選んで今ここでのジン君達との生活を選びました。ですが私達がリョウ君にそれを強制しては、監禁と何も変わりません」

「だからと言って、流石に帝国を滅ぼそうとする汝の行動は看過できんぞ。よいではないか、我は何も一歩の外に出さんと言っている訳ではない。リョウマは我らの傍で手で大切に育て上げ、ゆくゆくは我の後を継いで、次代の《龍》に・・・」

「ダ・メ・で・す。そうやって、親の願望を押し付けるのが一番良くないんです。私は、リョウ君には自分だけの力で世界を見て回って、もっと自由に成長して欲しいんです。私達の役目は、ちょっと遠くで見守るくらいでいいんですよ」

「それでは、親としての責任の放棄というものだろう。敢えて危険な旅路に向かわせ、命を危うくする必要もあるまい。リョウマは我が《領域》内で安全な生活をおくらせるべきだ」

「べきって、それが押し付けだっていうんです!」

 睨み合いながら、エリスは笑を零した。釣られて、ジンバールも笑う。

「・・・なるほど、これが『子供の教育方針で揉める親』と言うわけですか。初体験です」

「我もだ、エリスよ。お互い、初めて同士だ」

 テーブルの上に置かれたカップ。そこに注がれた紅茶に波紋が走った。よく目を凝らせば、食器の類が微細な振動を繰り返していた。震源地は、《龍》と元《勇者》。両者が発する波動により、世界が鳴動しているのだ。

「こういう時は、家族会議と相場が決まっています」

「ほう、それは楽しそうだ」

「存分に語り合いましょう、肉体言語で」

「いいだろう、我がDVを喰らうがいい、エリスよ」

 お互いの距離は、テーブル一つ分。この距離ならば、両者は互いに必殺を放てる。エリスが剣を、ジンバールが《アビリティ》を発動させようとした瞬間。スルリと、ごくごく自然な動作で両者の間に、焼き菓子が差し込まれた。

「ジンバール様、エリス様、本日はレモンタルトを御用意させていただきました。冷めない内に、どうぞご賞味ください」

 侍従長のヘルマンは、大皿の上の円形状のタルトを八分割すると、小皿にとりわけて二人の前に置いた。パイ生地部分はキツネ色にこんがりと、中心部に盛られたレモンクリームは果肉の瑞々しさを残したまま、照り輝いていた。

「ヘルマン、狙ってやったな?我とエリスが衝突することを見越して、このタイミングで虚をつくように、興を削ぐように、この焼き菓子を卓に出した」

「はて、なんのことやら?」

「はっ、嘗ての《魔王》の眷属が何を言う」

 チラリと、ジンバールが視線を向けば、エリスは頬を緩めてタルトを食べていた。先ほどまで発していた闘志はすっかり霧散していた。

「ん~、やっぱりヘルマンさんのお菓子は美味しいですね~。あ、ジン君いらないんだったら私にください」

「ふん」

 添えつられたフォークは使わず、素手で掴んでそのまま齧る。《龍》にとって、この手の食品は嗜好品以上の価値を持たない。やろうと思えば、何十年も一滴の水さえ口にしなくても生きていくことができる。

 つまり、《龍》が食べるということは、その食品を美味いと認めたこととなる。

 最も、人間のエリスと生活するようになってジンバールの生活様式も大分、人間寄りに変わっているのだが。

「ヘルマンよ、主の話しに横槍を入れたのだ、何か腹案があるのであろう」

「別に大した案ではありません。お二人共、仰られることは尤も。ならば、面白みも無いない折衷案など、いかがでしょう?」

 ヘルマンが、宙に指で四角の線を描く。すると、そこには、厚みの無い板が現れた。重さは無く宙に浮かび、触れようとすると手がすり抜ける。魔人族が得意とする、《幻影投射》だ。魔人族はその全てがこの手の幻影を表示させることができる。

 ヘルマンが軽く指で板を弾くと、板はヘルマンの背後で巨大化。縦より横が長く、さながら、教育機関でよく使われる黒板のようだ。

 そこには、大きくこう表示されていた。

『リョウマ・サーガ育成計画』

 ヘルマンが板を横にスライドさせると、また別の板が現れる。次の板は予定表であった。

一週間単位で決められたカリキュラムが、リョウマが成人するまで、即ち一四歳になるまでの予定がびっしりと刻まれていた。

「《ギフト》を持つ以上、様々な方面で注目を浴び、狙われるのは必定です。それでは行動を阻害され、エリス様の言う一人で世界を見て回る旅も満足に達成することはできないでしょうし、ジンバール様の言うとおり、非常に危険でしょう」

 無論、それはエリスにも分かっていた。その為、一番の障害になるであろう、帝国を今の内に潰しておこうとしたのだ。

「そこで、リョウマ様をジンバール様とエリス様、不詳私ヘルマンと《指》の全員で徹底的に鍛えあげます。如何なる勢力にも飲まれぬよう、あらゆる困難に屈さぬよう、なにより己の《ギフト》に負けぬように、強さを身につけていただくのです」

 安全を確保しつつ、世界を見て回る。

 その答えは至極簡単、リョウマ自身が強くなればいいのだ。

「これは、あくまで雛型。進行速度や、リョウマ様の要望により随時流動的に変更する予定です。勿論、リョウマ様自身が修行などしたくない、ずっと《領域》内でいたいと仰るなら、このプランは全て破棄いたします」

 ジンバールは手元に現れた資料-これも《幻影投射》の産物-を捲りながら、内容を吟味する。エリスも同様だが、ジンバールが顔に皺を作りながら見ているのに対し、ニコニコ笑顔で見ている。

「ヘルマン、これをいつ考えた?」

「私だけではありません。《指》達全員、侍従全てでプランを組みました。この屋敷は、言わば私共の一部。リョウマ様の言動行動は全て記録されおり、そこから継承者の可能性を推測することは容易でした。いつか必要になると思い、毎日暇を見つけてはコツコツと」

「気を回しすぎだ、軽くひいたぞ」

「恐縮です」

「我も考える。それと、こういったことは次からは我を通せ」

「仰せのままに」

 その時、タルトを食べ終えたエリスが挙手した。

「はい!私も考えます!母親ですから!」

 エリスは、笑顔で声を上げた。ジンバールは眉間に皺を寄せ、ヘルマンは好々爺然と微笑む。《指》達が私も私もと次々と挙手しだし、その場でサーガ家・家族会議が開催。

 会議は夜を徹して行われ、激論が交わされた。

 時代が時代なら、陣営を違え、刃を交わす関係である三者であるが、今は三者三様に少々変わった前歴を持つ我が子の行く末を、案じていた。

 こうして、元《勇者》と《龍》と《魔王》の元眷属の計画は動き出した。

 根底にあるのは、間違いなく家族に対する親愛。我が子の将来を憂う、どこにでもある親の当たり前の愛情。

 しかし、その結果生まれたのは古の伝説を鼻で笑い、並み居る神秘を蹴散らす、荒唐無稽にして出鱈目な最強児童育成計画であった。



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