序章 終始
とある男が死んだ。
享年は32歳。死亡の原因は不治の病。
身体のあちらこちらが次々と機能不全に陥り、最終的には脳が機能不全を起こし、脳死を引き起こすことで終わりに至る奇病だ。
男の身体は既に、男自身のものだけでは、成り立っていなかった。
他者からの臓器移植、人の手による人工臓器。
拒絶反応を抑えるために、山のように薬を身体に注ぎ込み、難解な手術を行い、多数の人間の介助の手を借り、やっと命を長らえている状態であった。
だが、それも今この時をもって終わった。
ベッドに縛り付けられ、体中を様々な医療機器に繋がれた男は、さながら囚人のようでもあった。気管系も機能不全を起こしているため、呼吸音さえしない。初見で男が生きている、人間であることを理解できる人間は、そうはいない。
その姿は醜かった。
もはや、生命活動が停止していないだけで、『生きている』と言えるかも怪しい。
だが、それでも。
そんな変わり果てた姿になっても、最期の最後のまで、男は思っていた。
生きたい、と。
死にたくない、ではない。
生きたいと願うのではなく、薄れていく意識の全てを集結させて、男はその意志を掲げた。
生きたい、と。
とある男が死んだ。
多くの未練と遺志を残して。
初投稿です。色々、試行錯誤中。