拳闘士と奇術師と舞踏
読んでいただき、ありがとうございます。(媚びていくスタイル)
基本的には先頭にある人の名前の人の一人称語り(たぶん、一人称になってるはず)になります。
「おい、舞踏」
私をいきなり勧誘した、男―――名前は知りませんけど、は待ち合わせの建物、おそらくギルドハウスなのでしょうけども、そこにいる男に声を掛けています。おそらく彼がギルマスなのでしょう。仮認証とかやってましたし。
「なんだ、奇術師そんなにトレインが気に入ったのか? またやってやるぞ」
なにやら、雰囲気が剣呑な感じがします。こういう雰囲気はあまり好きじゃないです。
「あの、いきなり私を置いて喧嘩をしないでいただきたく……」
二人は私を一瞬見て、お互い顔を見合わせた後舌打ちをしました。すごい仲が悪そうです。ここで私が、『私のために争わないで下さいー』とか言えば、和んだのでしょうか? そんな度胸はありませんが。
「あーこの子が」
メガネをかけた細長い男性、先ほど舞踏と呼ばれてたほうですね、その人が私を値踏みするように見てきます。これなら、悪態付きながら、私を勧誘してきた男の人、奇術師さんの方が幾分か好印象です。
「そうだぜ。この子が拳闘士だ。まだこのギルドにいなかったろ?」
「確かに、いないが奇術師がこんな殊勝な真似をするなんて槍が降るんじゃないか?」
「おっ? 本当に降らせてやろうか? 降るのは血の雨も混じるけどな」
「やるのか、おっ?」
なんでこの人たちは喧嘩にすぐ持っていこうとするのでしょうか? 話しがまったく進みませんし、このギルドに入るデメリットしか見当たらないわけで、本気で勧誘する気があるのでしょうか?
「だーかーらー、喧嘩をしないようにと――」
「――あぁごめんねー、おい、奇術師30分くらい表でろ」
「エロい事すんのか」
「ぬっころすぞ!」
これは前世から敵同士だったに違いないですね、じゃなければ、出会って3分の間に、3回も喧嘩に発展するはずがありません。1分に1回ペースですよ。そういう大会があれば優勝できるんじゃないでしょうか。無いと思いますけど。
「だーかーらー」
なんで、あって1日も経ってない私がこの二人の喧嘩を止めないといけないのでしょうか? 甚だ、疑問ではありますが、断るにしろ、入るにしろ、早く話を進めて欲しい物です。
「っち。じゃあ暫くでてくらぁ」
奇術師さんは舌打ちして出て行きました。素行不良で通信簿には色々かかれるでしょうねあれは。まぁ、先程の話し振りですと、大学生か私と同じ社会人でしょうけど。
「それで、私はなんの説明もなしに来たのですが、一体ここで何をお話していただけるのでしょうか?」
「もしかして奇術師から何も聞いてない?」
「『ギルド入らないか』と言われ、『とりあえずギルマスに連絡したから話をそこで聞こう』と腕を引っ張られ、今に至ります」
「あんにゃろー」
「と言うわけなので、説明をお願いします」
「まず、うちのギルドは【銃使いの城】って言う名前だ。名前の通り、ギルドに入る条件は<銃使い>であること。そしてもう1つ、俺が言うのもアレだが結構めんどくさい制約でな、副職業が既存メンバーと被ってないことだ。この条件に合致すれば、ギルド規約さえ守っていただければ誰でも入れるようになっている」
えっと、待ってください。詰まるところ、<銃使い/拳闘士>という職業は私しかいないと言うことなのでしょうか?
「質問いいですか」
「いいですよ」
「私の他に、<銃使い/拳闘士>は何人くらい見かけたことがありますか?」
「ゼロだよ」
「ゼロですか。間違いなく」
「まぁ『うぃき』見てくれればわかるんだけど、勇士が作ったプログラムに、この【インフィニティ・トゥルース・オンライン】どう言う職種のプレイヤーが何人いるかを自動更新してくれる者があるんだ。と言っても、一次職しかまだ実装されてないけどね。まぁそれで奇術師から連絡あったあと確認したら確かに<銃使い/拳闘士>の欄が0から1になっていたから間違いないよ。君はオンリーワンだ」
「いえ、こんな苦行のオンリーワンなんて入りません。普通に楽しく遊びたかったのに」
「<銃使い/拳闘士>はそこまで苦行じゃないんじゃないかな」
「と言いますと?」
「まぁ、その内容はギルド規約にも抵触するから後で説明するよ」
「では、まずギルド規約から説明してください」
「乗り気ですね」
「アカウント料だって馬鹿にならないですからね。それに私は気に入らないからって自分のアカウント消すのは主義に反しますので」
「ふーん。じゃあ規約を説明しようか。まず規約1、ギルドで知った情報はギルドメンバーのwis……あーゲーム用語わかる?」
「だいたいわかります。専用チャット見たいなものですよね」
「そうだね、そのwisか、ギルドルームでしか話しては成らない」
「情報の流失を防ぐ為ですね」
「そうだね。このゲームにとって情報は生命線だからね」
「なんたって上位職業まで含めると1000通り以上ありますからね」
これは、公式サイトに書いていたことですけど、主職業と副職業の組み分け次第では、自分だけの職業が入手できると書いていますしね。そう意味では、私の<拳闘士>も満更ではないのではという気もしてきます。
「そうそう、他にも理由はあるけどそんなもんだよ」
含みのある言い方をしていますね。年下だと思って舐めてるんでしょうか。頭の良い振りでもしたいのでしょうか。こうして話しているだけでも有益な情報はたくさん入ってくるので、どうでもいいですけどね。
「まぁゲーム内なら、大体誰が言ったかはわかるけど流石にうぃき書き込まれると人物の特定は中々難しいからね。各々の良心に任せるよって事だけどね。そういう意味ではうちのギルドは信用できると思うよ」
「奇術師さんもですか?」
「あいつは普段はうざいが、そういうルールはなんだかんだしっかり守ってくれるからね。うざいけど」
舞踏さんは心底嫌そうにそう言う。嫌いだけど信頼してると言う奴ですか、友情ですね。出すとこ出せばごはん三杯は食べれそうなくらい想像力働くのではないのでしょうか? 私にはそういう趣味はないですけど。
「という訳で、一応規約1を破った場合のペナルティはアカウントの廃止だから」
「え、アカウントの廃止ですか?」
そんなこともできるんですね、このゲーム。アカウント代3万ですよ、3万! そこらのゲームより5,6倍高いというのに、非難の雨じゃないでしょうか。
「うん、ギルドの方向性とかランクにも寄るけど、上位ギルドになるにつれ相手のギルドの情報を盗もうと躍起になるもんさ、いくらVRマシーン一台につき1アカウントと言うけども、その気になれば2台買う人もざらにいる訳だし、そもそも、他のギルドに情報売ってリアルのお金稼ぐ人もいる訳だしね。そういう処置も取れますよってわけさ」
へぇ、結構高度な情報戦やってるんですね。それくらいするなら、すべての情報を公開しても良いとは思いますけど。自分で探す楽しみもありますしね。断然私は後者なので、それくらいの不自由さは我慢しますけど。そもそも、言わなければ良いだけの話ですしね。
「なるほど、ちなみにこのギルドのランクはどれくらいなんですか?」
「上から4番目かな。鍛冶師さんとか投師さんとかのチートの人な性なんだけどさ――」
――そう言って、次々と規約を教えてくれる舞踏さんの話を吟味しつつ、私はこのギルドに入ることになりました。このギルドでは【二つ名システム】で痛い名前にならない様にお互いを職業で呼び合ってるようなので、私も拳闘士と呼ばれるようになるとのことでした。規約は多いながらも特典も多いらしく、戦乙女さんが今度近接戦闘を教えてくれることになりました。舞踏さんも近接戦闘タイプみたいなんですけど、参考にならないとのことみたいです。ですけど、今度一緒に狩りに行く約束をしてくれました。結構優しい人かもしれません。
あ、追記しておきますと、あの後、50分経っても奇術師さんは戻って来ず、舞踏さんは凄いキレてました。『また、トレインしてやる』とのことです。奇術師さんって実はマゾなのではと思いつつ、私はいったんログアウトするのでした。お腹空きましたしね。