奇術師と初心者銃使い
「ざっけんなー、ふぁーっくー」
リスポーン地点である、〔ジザ神殿〕の前で悪態を付く。
だいたいアレは舞踏も悪いだろうがっ。あのマテリアルは俺様と舞踏と戦士と魔銃使いと盗賊の5人でゲットしたもんじゃねぇか。それを急にあいつが『このマテリアルがあれば俺の武器が強化5段階目いけるんだよな』とか言い出しやがって。人がいい戦士と盗賊はいいよと言うのは目に見えてるし、魔銃使いは流されやすい性格だからな。あの流れであぁ言えばあぁなるってわかってるだろうが。それに対して、『実は俺様も実は…』と言えない俺の性格も熟知してやがるし。
だいたい、トレインは無いだろトレインは。ちゃんとマテリアルは返しのにその仕打ちは。目的はバレ無かったからまだ良かったけどよー。俺の軽いお茶目心ってことになったしな。これも俺様の人徳がなせる業ってな。
っと、あっちゃー。今日は厄日のようだな。普段はなるべく通らないようにしている〔初心者の街:リオフルウス〕を歩いているのもそうだが、そこで初心者銃使いを発見しちまったのも付いてねー。
このオンラインが始まってまだ4ヶ月経ってないから初心者もくるっちゃくるが地雷職である銃使いでアカウントを作ってくるやつは稀だ。よっぽどの物好きか、情弱かどっちかだな。
ちなみにうちのギルドの掟第二条に『とりあえず、困っている銃使いを見つけたら声を掛けましょう』ってのがある。いかにも噴水に座っている初心者銃使いは困っているように見える。俺が行く義理もねぇし掟に従う理由もないんだが、なんせ今日の俺は恐らく運が無い。詰まるところ、俺がここでスルーしてしまえば、他のギルドメンバーにチクられてしまう。100%だ。もちろん、あの銃使いに声を掛けても恐らく悪い方向に運ぶだろう。これも100%だ。しかし、しかしだ、周りの心象的に助けてくれる確率は上がるだろう。そこであの舞踏にこいつの世話を任せてあいつの時間を少しでも奪えれば俺様の鬱憤も晴れるだろう。
よし、そうと決まれば声を掛けるしかねぇな。この間およそ45秒くらいだ。まだ銃使いは噴水に座っている。
俺はまっすぐ、噴水に向かって歩く。まだ気付かねぇ。
目の前に着いた。まだ気付かねぇ。
「おい」
声を掛ける。気付いた。おーすげー怖がってる。どうしよう。
「あー、困ってるように見えたんだが、違ったか?」
「あ、え、あ、あ、困ってますぅ」
おどおどしてたが最終的には消えそうな声で答えてくれた。てか、こいつ女だったのか。これじゃまるでナンパみたいじゃないか。硬派な俺に変な【二つ名】が付いたらどうするんだ。
「俺様のギルドは困ってる銃使いを見つけたら声を掛けるというのがあるんだ。お前が困っていてくれて助かった、困ってなかったらただのナンパ野郎だ」
「そ、そうなんですかー」
おー、戸惑っている。奇遇ながら俺も戸惑っている。さて、どうしましょうかねー。
「で、お前は何に困っているんだ? 恐らく初心者だから初心者クエストのことか? なら一旦ログアウトして『ウィキ』を、見ろ。それともステ振りか? まぁ基本振りなおしできないからな。奇抜な物にする気がないなら『ウィキ』を、見ろ。それとも学校のことか? 見た感じ中高生くらいか。自慢じゃないが俺も高校時代はリアルに友達はいなかったから気にするな。リアルだけがすべてじゃない」
「えーっと」
「違ったか?」
「いえ、中学生ですけど、それに友達くらいいます」
「何人だ?」
「え? えっと、みっちゃんでしょ、さーちゃんでしょ、やよいっちに――」
「――数えてるうちはまだまだだな」
「あなたが、聞いたんでしょうが」
「おー、それが地か」
「うっ」
「別にいいじゃねぇか。それにしても中学生でVRマシーンを持っているのか。うらやましい限りだな」
「別にいいじゃないですか。そんなことより、本当はナンパしにきたんじゃないんですか?」
「いや、お前みたいなちんちくりんに興味は無い。早く願いを1つ言うんだ叶えてやろう」
「私は、まだ7つも玉を集めてません」
おー、ちんちくりんは否定しねーのか。
「なんだ、オタクか」
「ポピュラーなマンガのネタを振っておいてオタクの判別は無いと思いますけど?」
「その回答の仕方がオタクなんだよ」
「ぅぐ」
見えない何かが心に突き刺さったようだ。それにしてもそう言うリアクションもオタク臭いのだが、わざわざ親切に言ってやるギリもない。
「お前がオタクだろうがなんだろうがなんでもいいから、何困ってるんだよ。言えよ、さぁ」
「詰め寄らないで下さい。威圧感が半端ないです」
「お前が言わないからだろ」
「言います! 言いますから! 離れてください!」
「へっへっ、最初から素直にそう言えばいいんだよ」
「なんかゲスな香りがしますね」
「なに、いつものことだ気にするな」
「初対面でしょうに………で実はステ振りについて困ってるんです」
「『うぃき』見ろ」
「最後まで、話を聞いてください。私は普段ゲームをやるときは前情報とか攻略情報を見ないようにやってるんです」
「俺様もそうだな、俺様の場合は攻略情報見たらすぐ飽きちまうタイプだ。だから好きなゲームほど攻略情報を見ないようにしている」
「ですよね! 私もそうなんです! 世界観に感情移入するためにクリアなマインドでこの世界を見たいんです! だから、見るのは公式サイトだけで、このゲームをやるのを待つのは辛かったんです!」
「近い! 威圧感がうざい! 離れろ!」
「はっ!? し、しつれーしましたぁ」
「まぁいい、で?」
「それでですね、本来は銃使いだからDeXにステを振ろうとか、Strで火力特化にしようとか授業中に妄想してたわけですよ」
「いや、授業聞いてろよ」
「そんな正論あなたから出るとは思いませんでした」
「あぁ、俺もビックりだ」
「ところがですね副職業を間違ってしまって………すべておじゃんです」
あー、これはうちのギルド加入案件か? めんどくせーな。
「何個か質問いいか?」
「? 構いませんが?」
「ちなみに、選んだ副職業は?」
「拳闘士です」
あっちゃー、誰もいねぇぞ。まずったこっち方向に運が無かったのか。
「こなしてるクエストは?」
「まだステ振りもスキル振りも決めてないのでお使いクエだけです」
「レベルは?」
「21ですけど」
「それは、がんばったな」
「急に褒めないで下さい。そして頭を撫でないで下さい。怖いです」
「良い位置に頭があったもんでな」
「じゃあ、最後に1つ質問するが」
「なんでしょう?」
「うちのギルドに入らないか?」
ギルドの掟第三条『とりあえず、このギルドに入っていない副職業の人が入ればGMコールされてもつれて来ましょう』
またアイツに合う羽目になるなんて本当に厄日じゃねぇか………。
あとこれ、俺に不利益がかかるパターンだな。
俺はため息を付き、中学生は困惑していた。