上から目線の彼女。
掌編小説を不定期で投稿させて頂いています。
最後までお付き合い頂ければ幸いです。
「大きくなったらお嫁さんに“なってあげるね。”」
彼女は昔から変わらなかった。一つ年上の幼なじみ。
どんな時でも彼女は……。
―そう、上から目線だった。
『お姉さんだからね!弟を守る義務があるの!』
そう得意気に語る彼女は、小学校でも、中学校でも、高校ですらも、僕の前によく現れた。
「お!繁盛してますなー!文化祭大賞は頂きかなぁ?」
「見てた―?一位だよ!一位!赤組の優勝は頑張って走った私のお陰だね!」
「ねぇ?合唱コンクールの課題曲なんだけど、CD持ってる?」
僕の思い出には、彼女が大抵いて。それは多分、彼女もそうで。
僕はどこかで、こんな日々がずっと続くと勘違いをしていたんだ。
転機は、彼女が高校を卒業した日に訪れた。
「私、東京の大学に行くことにしたんだ。」
川沿いの道の、どこまでも続く桜並木の下。
何度も通ったお馴染みの通学路で、彼女はそう告げた。
失くして気付く、本当の気持ち。そして、それは往々にして手遅れなんだ。
「そっか。これからは会えなくなると思うけど、その、頑張って。」
気持ちを伝えるその一言が言えずに、僕は彼女と『さよなら』をした。
そして、時は流れ一年後。僕は今日、この学校を卒業した。
見慣れた校舎や校庭。もう見納めだと考えると少し、綺麗に見える。
仲の良かった友達とも別れを告げ、僕は一人、あの桜並木を潜る。
―その時だった。
「遅いぞぉ!まったく!」
懐かしい声に驚き振り返ると、膨れっ面の彼女がそこには、いた。
何の連絡も、相談も無かった。思わず、頭の中の言葉がそのまま出る。
「え!?なんで?」
「んー?まぁお祝い?かな?無事に卒業出来たか心配でね。」
ピョンと跳ねて僕を追い越すと、彼女はそのまま歩き出した。
「ところでさぁ。今後、キミはどうするの?」
「え?今後?まぁ、大学も決まったから、入学式まではのんびりして……。」
僕の言葉を遮るように、彼女は大袈裟に立ち止まり、振り返る。
「大学、私と同じなんだってね。お母さんに聞いたよ。」
「うん。ネットで調べたら、興味ある論文を発表してる教授がいてね……。」
僕は、彼女目当てで同じ大学に進学したとも言えず、それらしい言い訳を並べていた。
「そっか、キミらしいね。」
彼女はそう呟くと、再びスタスタと歩き出した。
慌てて追いかける僕と、振り返らずに颯爽と歩く彼女。
沈黙に耐えられず、僕は思わずポツリと呟く。
「そっちはどうなの?」
彼女は少し笑うと、やはり立ち止まらずに答えた。
「んー。キミと同じかな?」
桜が舞い散る並木道、いつでも彼女は上から目線だ。
現在連載中の『sweet-sorrow』もよろしくお願いします。