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3話 ー変わっていく日々ー

内容を濃くしよう濃くしようと思ってたら12000文字オーバーしてしまいました。

それでもお付き合いお願いいたします。

昨日の一件があった次の日の朝、俺はインターホンの音で目覚めた。


けど時計を見るとまだ7時だったのできっと、どっかの誰かが家を間違えたんだろうと思い無視することにした。


そもそも宅配便とか何も頼んでないからな。


それでもインターホンは鳴り続ける。


めんどくさかったがベットから起きて玄関に向かった。


「ったく、誰だよこんな時間に…」


そう言いながらドアを開けると、


「遅い!」


と怒鳴られた。


そこにいた人物とは、


「インターホンならしてから出てくるのが遅いわよ!」


「はあ?こっちはまだ寝てたんだよ。っていうかなんで鈴谷がここに?」


昨日出会ったばかりの鈴谷明理だった。


そして鈴谷は不機嫌そうな顔をして文句を言ってくる。


「また鈴谷…。明理で良いって言ってるでしょ」


「ああ。そうだったな。おはよう明理」


「おはよう。き、きりやっ」


…おい、お前がめっちゃ裏声ってるじゃねーか。


人のこと名前で呼ぶの慣れてないんじゃないの?


「それで、なんか用?」


「うん。今日から一緒に登下校してもらおうと思ってたのよ」


「ふーん…って、はあ?なんで?」


「私いつ狙われてるか分からないし、護ってもらわないと困るのよ」


「お前を襲った奴は倒しただろ?」


「今度はあいつの仲間が襲ってくるかもしれないじゃない」


「まあ、それもなくは無いんだが。でもな…」


そう俺が唸っていると、明理が胸元を抑えながら、


「責任…とってくれるんじゃなかったの?」


と上目遣いで言ってきた。


それに動揺してしまいつい、


「あ、ああ。そうだったな、分かった」


と俺は言ってしまった。


ほんとああいうのは反則だろ…。

あんなことされたら断れないんだって。


「でもどうしてこんな時間に来たんだ?まだ7時だぞ」


「なに言ってるの?もう8時よ」


「はあ?」


明理は今の時間を勘違いしてるようなので、携帯をとって画面を開き見せた。


「ほら、7時だろ?」


「8時であってるじゃない」


「だからなに言って…」


そこまで言って俺は時間を確認した。


…8時だ。


現在の時刻は8時だ。


「はあ!?なんで?この携帯壊れてるのか?あの目覚まし時計はまだ7時だったぞ」


「どう考えてもそっちが壊れてるに決まってるじゃない…」


「あ、そっか。まあ、そういうことだ。悪いが先に行っててくれ。俺は遅刻しないように1人で行くから」


俺がそう言って玄関の扉を閉めようとすると、


「待って」


と明理が止めてきた。


「なんだよ?」


「切也が登校するまで待ってる」


「いやいや、馬鹿か。そんなことしてたら遅刻になるぞ?お前自転車登校じゃないんだし」


「それでもいいから一緒に行かせて」


そんな真剣な顔されるとあしらう事が出来ないんだよな。


っていうか、それでもいいからって言われても俺がよくないんだよ。遅刻したくないし……。


まあ、しょうがないか。


「分かったよ」


「ほんと!?良かった」


「そうかよ」


「うん!」


なんか今の明理すごく素直なんだけど怖い。

そんな率直に嬉しがられるとさすがに恥ずかしいな…。


それから俺が準備し終わって一緒に登校した。

登校している間俺たちは一言も言葉も交わさなかった。


けれど、歩いている間あることを考えていた。


最近はよく明理の何気ない行動にドキッとさせられている。

これは俺の『感情』が揺れ動いているのだろうか?

だとしたらこの『感情』は何と言うのだろう。

漫画とかではよくこれは『恋』だ。と言われているが、そういのではない気がする。

なんというか…安心するというか落ち着くというか。

居心地がいい。

そんな感じだ。


考えをまとめる暇もなく学校に着き、時刻は9時で20分の遅刻した。

歩きだと学校着くまで30分もかかるだなんて思ってもいなかったよ…。ってかもう一時限目始まってるし。


そんなことを思いながら教室に着きドアを開けた。


「すいません。寝坊しました」


「あら、高宮さんと鈴谷さんね。もう2人一緒に遅刻なんて怪しいわね。何してたのかしら?」


「いや、偶然道で会っただけですが」


「あら本当?でも次からは遅刻しちゃだめよ?」


「はい」


この女教師の語尾にハートマークがつきそうな話し方やめてくんないかな。別に全然若く見えないし。


そして今日も俺らは冷たい視線を浴びながら1日を過ごすことになった。


帰りのHRが終わり俺が教室を出ていこうとしたとき、また明理に怒られた。


「ちょっと!なにさっさと1人で帰ろうとしてるのよ!」


「はあ?なんでって…」


「一緒に登校したんだから帰りも一緒に決まってるじゃない!」


「おい、分かったから。そんな大声で言うなよ」


「……?」


嘘だろ、こいつキョトンとしてやがる…。そんな大声出したら周りからまた冷たい視線をあびなくてはならなくなるってこと分かんないのか?


「まあ、分かってるならいいわよ。さ、行きましょ」


「はいはい」


そして、下校も一緒になった。けど…登校の時と同じくひたすら無言で家に帰った。


……これって一緒に帰る意味あるのか?



なんだかんだで高校2年生になってからこんな日々が2週間続いた。


え?どんな日々かって?


そんなの決まってるだろ、朝は明理と無言で一緒に登校し、学校では毎日冷たい視線を浴び、それを耐え終わったらまた明理と無言で一緒に下校する。


こんな日々だ。


今のクラスの奴にはもちろん、前のクラスの奴とも話さないなんてな…クラス替えの後とかって大体こいうもんなのか?

俺には高校以外の学校生活なんて記憶にないからどうしようもないんだよな。


現在どうして俺が珍しく友人関係の事で頭を悩ませているかというと原因は黒板に書かれているこれだ。


『体育祭、テーマはダンス、メンバーは9グループ4人』


そう今はLHRで体育祭のテーマが決まり「グループ結成をするから誰と組みたいか考えておいてください」の時間なのだ。


なんで好きな奴と組め方式なんだよHR委員長の知也君よ…。


去年は出席番号順でグループ決まってたから良かったが今年はそうもいかない。

一体どうすればいいんだ…。


なにか打開策はないかと考えているうちにHR委員長が行動開始を宣言する。


「はい、五分経ちましたのでグループを作ってください」


やばい、結局なにも打開策浮かばなかった…。


唖然としていると当然、


「えーと、君はいつも1人でいる切也君だよね?」


と声をかけられた。


それは身長はおそらく俺より少し高く、体つきは普通によさそうで、でもなんか文化系の部活なのかなと思ってしまう雰囲気の人物だった。


声が掛かるなんて思ってもなかったので俺は思わず


「へ?あ、うん」


と腑抜けた声を出してしまった。


でも俺に声をかけた少年は気にする事もなく会話を続ける


「僕はね、ずっと切也君と話してみたかったんだ。」


「…どうして?」


「どうして?ってそんなの決まってるじゃないか!だってAS高の美女ベスト3の1人、鈴谷明理と一緒と登下校してるんだもん!そりゃ気になるよ!」


なんでそんな興奮してんだよ。もっと落ち着け。


「え、ああ。明理ってそんなに有名人だったのか。っていうか、まずAS高校ってなんだ?」


「ん?何言ってるのさ、うちの高校の名前じゃないか」


「は?だってここの高校名は綾咲あやさ高校だろ?」


「だから、その省略名をAS高って言ってるんじゃないか」


「そっちの方が面倒くさくないか?」


「いやいや、面倒くさいもなにも綾咲って名前じゃダサいからこういう名前になったわけであって、呼びやすさとか重視してないから」


「ふーん。そうなんだ」


聞いといてなんだか興味なかったので、いかにも面倒くさそうな返事をしてしまった。


「それで話戻るけどさ、僕と一緒のグループになってくれるかい?」


「ああ、もちろん…なんだけどさ、その前に君の名前聞いてもいいかな?」


ごめんね、あんまり印象ないから覚えてないんだ。

という言葉が出そうになったがなんとか飲み込んだ。


「あ、自己紹介がまだだったね。僕の名前は五月雨さみだれ 優真ゆうま。優真って呼んでよ!よろしくね!」


「ああ。じゃあ俺の事も切也でいい。よろしくな」


「分かった!」


こうして無事グループの1人は確保できたんだけど…ほとんどの人が既にグループが決まっている。

っていうか、4人集まってないの俺のところとあとどこだよ!?


俺が頭を抱えていると委員長が提案してくれた。


「あと決まってないのはそこの2人と鈴谷さんと織本さんだけだね。じゃあその4人で組んじゃってよ」


「了解です!」


おお、委員長ナイスだ!ほんと助かった。ってか俺のすぐ隣で叫ぶなよ優真……耳痛くなるだろ。


えーと、織本の席は1番後ろか。


そして後ろを振り返り織本を見た瞬間、初めて『織本雪乃』という存在を認識した気がした。


今までそんな気にしてはいなかったがよく見ると結構な美少女だった。


顔立ちは整っていて、髪型はストレートのロング、髪色は明るく綺麗な水色、瞳は髪色の同じで水色だった。体付きは女子にしては良い方で運動神経は良さそうだ。

それに明理とは違って平均以上はありそうだしな…その、胸とか…。制服の上からでもちょっと膨らんでるし。


っと今そんな事はどうでもいい。


それより本当は前から3番目の俺らが集まってる席に来てほしいけど、さすがに来づらいよな。


そう思って俺は隣にいる明理に視線であっちに行くぞと促した。


俺らは席を立ち織本の近くへと集まった。


「よし、これでグループは決まったね。次は各グループで今から指示することをやってもらうね。そして各グループのダンスが仕上がり次第全グループを合わせて練習をするから」


そこまで委員長が言い終わって優真が手を挙げた。


「ダンスが仕上がり次第って言ってたけど、練習時間はどうするの?」


「その練習時間を取りやすくするためにグループに分けたんじゃないか。基本は体育と特別時間割の授業。それでも上手くいかないならグループで相談し合って練習時間を確保してくれ」


「そういうことだったんですか!分かりました!」


去年もそうだったけど本番1週間前は1年、2年、3年のE組同士で色の練習になるんだよな。1クラス36人だから3クラスあわせて108人のダンスか、多いな。

ついでに色は紫色らしい。


なんか今年は本格的なダンスをやりそうだ。

めんどくさいな…。


この後、ダンス部からどう踊ればいいかなどの指示を受け今日のLHRの時間は終わった。


「それじゃあみんなを感動させられるような素晴らしいダンスにしよう!」


「「「おおーーー‼︎」」」


まあ、こんな感じにクラスは盛り上がっている訳だが、俺らのグループは冷めていた…優真以外。




そしていつもの無言の帰り道の途中に初めて明理が話しを掛けてきた。


「あのさ、体育祭のことなんだけど…」


「……」


けれどまさか話し掛けてくるなんて思ってもいなかったので、何も言葉を返せなかった。


「ちょっと!聞いてるの!?」


「え、ああ。聞いてるよ」


「本当は聞いてなかったくせに」


「…だって登下校で話し掛けてくるのなんて初めてじゃないか。朝はいつも俺ん家の玄関で立ってるだけだし」


「いつもは話すことがないのよ」


「はあ、そうかい。それで、話っていうのは?」


「やっぱり聞いてなかったんじゃない…。体育祭のことを聞きたかったのよ」


「踊りの振り付けでも忘れたのか?」


「違うわよ!ただ…グループ組むのが私なんかで良かったのかなって思って…」


「ああ、構わない。もう慣れた」


「ちょ、どういう意味!?」


「そのまんまの意味だよ」


俺はからかうように言った。


「まあ、あんたがそれでいいならいいわ!」


「はいはい」


そう適当に返事をして会話が終了した。


そして家の前まで着き、いつも通り何も言わず別れようとすると突然明理に名前を呼ばれた。


「切也!」


「今度はなんだ?」


「また明日!じゃあね!」


「…ああ。また明日な」


笑顔で別れのあいさつを交わしてきた明理に俺は驚きを隠せなかった。


だからそっけない返事になってしまったが、まあ怒ってはないだろう。


いつもああいう感じだったらありがたいんだけどな…。


そう思いながら俺は家に入った。




翌日の朝、今日もいつもと違う変化があった。


玄関に立っていた明理が挨拶をしてきたのだ。


「おはよう」


「ん、おはよう」


まあ、変化と言ってもこれだけなんだけどな。




そして今日からさっそく6時限目が特別授業となりダンスの練習が始まったんだが…。


「だから、そこは右手を上げてから1回転するって何回も言ってんだろ!」


「なんで回転する前に右手上げなきゃいけないのよ!忘れるに決まってるじゃない!」


「回転する前に手を上げることくらい覚えられるだろ…。あと3回に1回しか1回転成功しないのなんとかならない?」


「頑張ってやってるんだからそんなに言い方しなくてもいいじゃない!」


「俺そんなに言い方悪かったかな…」


などと明理の運動音痴ぶりに俺たちのグループは手こずらせていた。


「それにしても織本は上手いな。1回見本を見ただけで全部覚えるなんて…。昔ダンスとかやってたのか?」


何気にこれが初めて織本に話し掛ける言葉だった。

今までずっと話し掛けるチャンスを伺ってたからな。完璧だろ。


「やってないけど」


「ああ、そうなのか」


「うん」


この子俺と話したくないのかな?

すぐ会話途切れちゃったんだけど…。


それでもなんとか話題を探してみる。


「あのさ、他に何かをやってたりするのか…」


俺の言葉を遮って織本は問いかけてきた。


「あなたの呼び名、切也で言い?」


「あ、どうした急に…。別に構わないけど」


「そう。なら私の呼び名も雪乃で構わない」


「そうか。分かった」


突然だったのでついそう返事をしてしまった。


「それと切也に話があるの。放課後、裏庭に来てくれる?」


「裏庭?そんなとこで何を話すんだ?」


「それはまだ言えない。けどずっと前から言おうと思ってたことがあったの。良い機会だからお願い」


「ああ、分かった」


「それと1人で来て、明理ちゃんとか連れてきちゃだめだから」


「了解」


明理ちゃんって……ちゃん付けなのか。

なんか意外だな。

もっと堅い感じで鈴谷さんとか言いそうなのに。


それにしてもなんだろう、ずっと前から言おうと思ってた話って。もしかして…告白!?なんてベタなパターンはなさそうだな。話しているときのトーンが明らかに低かった。


一体どんな話をする気なんだ?


あ、そうだ。今日は一緒に帰れそうにないって後で明理に言わないとな。

事情を話せば分かってくれるだろ。




「え!?今日は一緒に帰れないってどういうこと!?」


「だから今言っただろうが。俺は放課後話さなきゃいけない人がいるって」


「その話さなきゃいけない人って誰なのよ!?」


「言ったら納得してくれるのか?」


「……少なくとも言ってくれないと納得なんてできないわよ」


「分かった。俺たちと同じグループの織本雪乃だよ」


「え、話さなきゃいけない人ってあの女!?」


「そうだけど」


「私も行く!」


「1人で来いって言われたから無理だ」


「それでなすがままになるの?」


「なすがままって……きちんと約束は守った方がいいだろ」


「あっそ、分かったわ!私よりもあの女の方が大事ってことね!もういい!」


「いや、そういうわけじゃ…」


俺が言い訳を言い終わる前に明理はダッシュで帰って行ってしまった。


また明日事情を説明するか…。


そして俺は裏庭に向かった。

そこには既に雪乃の姿があり、先に話し掛けられた。


「ちゃんと1人で来たのね」


「なに、その言い方?お前どっかのボスなの」


「違うけど」


「……そうだよな。それで、前から言いたかったことってなんだ?」


「急に本題にいくなんてちょっとびっくりするわ」


ダンスのときとは違い思ったより普通に声は高かった。


「それでその本題は明理ちゃんのことなんだけど…」


「どうした?」


でも突然また声のトーンを低くして言い放った。


「もう鈴谷明理には近づかないで」


「……は?」


「今後もあの子に付き合うと痛い目にあうかもしれない。そんなのいやでしょ?」


「……」


もしかして、こいつは…


「お前は…明理の命を狙っているのか?」


「それは、言えないけど」


「なぜ?」


「せっかく私の意思で行動してるんだから素直に聞いてよ!」


「私の意思……?」


「あっ!ごめんなんでもない!忘れて……」


雪乃は手をバタバタしたりし、慌てて自分の言葉を撤回しようとしていた。


つまり雪乃は誰かに、いや、おそらく上のに組織操られているってことか?


考えをまとめる前に雪乃が話を続けた。


「そっ、そりぃより!あ、」


「……突っ込んだほうがいいか?」


「いや、だいじょぶ」


雪乃は顔赤くして言った。


まあそりゃ恥ずかしいよな。うん。


「と、とりあえず今のことは忘よう、ね?」


「ああ。分かった」


「ついでに明理ちゃんの話も忘れてくれると…うれしいな」


最後の方はほんとに耳を澄まさないと聞き取れないくらい弱々しい声だった。


「分かった。一旦忘れるよ。でももし、困ってどうしようもなくなったら相談してくれ」


「……うん。そうする」


「じゃあ明日からまたダンスの練習頑張ろうな」


「うん!」


そう笑顔で頷いて俺たちはお別れの挨拶を交わした。


「なんだ、普通に笑うことできるんじゃん」


そんな事を呟いた後、久しぶりに1人で家に帰った。




その夜俺は織本雪乃のことについて考えをまとめていた。


これは全て仮定だが、


雪乃は間違いなく明理を命を狙っている。あいつが直接手を出すかはまだ定かではないけど。これはおそらく組織の上の者が命令したことだろう。そして、できる限り周りの人間は巻き込ませたくないと考えあの行動に出た。


これが俺のまとめた仮定だ。


しかし悪魔で仮定であるため、実際はどうなのか分からない。


もしかしたら……ドジっ子を演出して自分は手を出さないと油断させ、邪魔者を遠ざけるという考えかもしれないが……。


あらゆる可能性を考え、どのパターンでも対応できるように準備はしとかないとな。


色々と考えているうちに頭が疲れたのか、俺はいつの間にか眠りについていた。



翌日の朝、玄関を開け外を見てみるといつも待っていた明理の姿はなかった。


そういえば俺、明理を怒らせたんだったな…。

でも、もう一回事情を説明するのはもう少し後にしてからの方がいいかな。


そう思い明理とは一切口をきかなかった。


それから数日経ってクラスのダンスが全体練習に入った。

そしてそのころに俺と明理の変化に気付いた優真が話し掛けてきた。


「ねぇ。最近鈴谷さんとなにかあったの?なんか様子おかしくない?」


「そうか?」


「うん。お互い避けてる感じがするよ」


「やっぱりそう見えるか…」


あいつを落ち着かせるために口をきかない様にしてたが逆効果だったかな…。


「なにがあったの?」


「なんか前に俺が放課後に事情があるから今日は一緒に帰れないって言ったら怒っちゃってな。なんでだと思う?」


「なんでって聞かれてもなー……。どんな事情があったの?」


「織本雪乃って分かるよな?」


「うん」


「そいつから放課後に話があるって言われたから先に帰ってくれって言ったんだ」


「そういうこと…。それなら怒るかもね」


「え、どうして?」


優真が答えを知ってるかのような言い方だったので。俺は集中して話の続きを聞いた。


「だってそれってさ、鈴谷さんと帰るよりその事情の方が大事って思われてるからじゃない?」


「いや、実際そうだしな。優先順位ってものがあるだろ」


「そうなんだけどさ……。その事情が終わった後、一緒に帰るって言えば良かったんじゃない?」


「なんでそんな面倒な事をするんだ?あいつの帰りも遅くなるし困るだろ」


「それでも一緒に帰りたかったんじゃないかな?」


「どうして?」


「え、どうしてって……本当にわからないの?」


「ああ、さっぱり。逆にお前は分かるのか?」


「そりゃあ…………分かんないね」


優真は誤魔化すように苦笑いしながら言った。


本当はあいつ分かってるんだろうか……。

でも、これ以上聞いてもおそらく分からないで貫き通されて教えてくれなさそうだ。


いつか俺にもその理由が分かるのだろうか。


優真と話し終わった後、ちょうど委員長からの招集がかかった。


「10分経ちましたので休憩終了です!集まってください!」


「手遅れにならないうちに仲直りしなよ?じゃあ行こっか」


「ああ」


そして俺と優真は招集場所へと向かった。



ついに体育祭当日。


AS高校の体育祭は午前の部は陸上種目で午後は各色によっての出し物、まあ主にダンスをやって順位を決める。


午後の出し物の順位は結構高得点がもらえるらしいのでどこの色もそこに力を入れていた。


午前の部の陸上種目はいたってシンプルで100mやリレーなどしかなかった。


俺は100mに出場しているので出番は1番最初だ。


だからすぐ集合場所に向かおうと思い歩き始めたとき、肩を叩かれ声をかけれた。


「1位……取ってきてよ」


俺に声を掛けてきたのは明理だった。


驚いて言葉が出なかったがなんとか


「ああ。分かった」


と返事をすることだけはできた。


明理はそれを聞くとすぐ俺のそばからから離れ観客席へと戻った。


あいつはあいつで俺と仲直りしようとしてくれてるのかもしれないな……。


そう思うとなんだか嬉しかった。


考えているうちにアナウンスが鳴ってしまった。


「100mに出場する方は東入り口に集まってください」


それじゃあ、頑張ろうかな。


しっかり意気込みを入れて俺は1位を取ることができた。


戻ってきたとき明理から祝福の言葉をもらった。


「おめでと」


「ありがとう。明理は次の200mに出るんだろ?まあ、あれだ、ビリ取らないように頑張れよ」


「なにそれ?応援する気ないでしょ?」


「してるよ。ただ無理しない程度に頑張れって言いたいだけ」


「……あっそ」


そう言ってすぐ背を向けられたのでどんな表情をしていたのか分からなかった。


そして200mが終わったんだけど……ビリだったな明理。こういうときはなんて声かければいいんだろうな……。


そのまま声を掛けるかどうか迷って結局この後明理と話すことはなかった。


体育祭も休憩に入りお昼の時間になった。


「さっき鈴谷さんと話してじゃん。仲直りできたの?」


急に話しかけられ振り返ると優真だった。


「いや、まだ仲直りはできてないと思う」


「じゃあなにを話してたの?」


「それは多分……。このまま仲直りできないで疎遠みたいになるのは嫌だからきっかけを作ろうとしてる……みたいな感じかなのかな。あいつがどう思ってるかは分からないけど、少なくとも俺はそう思ってる」


「そっか。ならきちんとそのきっかけを上手く使いなよ」


「分かってる」


「それと切也は鈴谷さんのことどう思ってるの?」


「どう思ってるってどういうことだ?」


「例えば、好きとか、大切な人とか、特別な存在の人みたいに思ってるかってことだよ」


「……」


本当のところ俺はどう思っているのだろうか?

今の俺では『好き』という感情がどいうものか分からない。

かと言えば『大切な人』や『特別な存在』というのも分からない。

けどひとつ言えるのは…


「厄介なやつ」


「え?」


「なんていうか、あいつと一緒にいると普通じゃない高校生活を送っている気がするんだ。悪目立ちするっていうか……でも、それでもなぜか俺は明理と一緒にいたい。ほんのとなぜかは分からないけど、な」


「きっとそれはもう知らぬうちに切也にとって特別な存在になってるじゃないかな」


「こんな風に思うことが特別な存在?どうして?」


「だってさ、切也はこれまで一緒にいたいなんていう人いた?」


少し考えてから答えた。


「いや、いないな。」


俺はそう答えたがもしかしたら、いたのかもしれない。

無くなっている記憶の間にはずっと一緒にいたいと思う人がいたのかもしれない。

確証はないけどなぜかそんな風に思った。


優真は話しを続ける。


「今まではこんな状況になってでも一緒にいたいなんて思うやつなんていなかった。けど鈴谷さんだけは違う。もうこれだけで特別な存在じゃないか」


「そういものなのか?」


「そういものでしょ!」


「なら、優真も特別な存在だな」


「え!?」


「お前とも一緒にいたいからな」


「切也って……そっちの趣味あるの?」


「ねーよ!ほんとは理解してんのにわざと言ってんだろお前……」


「だってなんか照れくさいじゃん?」


確かに、今はなんか変な事を口走ってしまったと後悔してる…。


「それしても、お前っていつもチャラチャラしてるイメージがあるのに相談はちゃんと受けるんだな。なんか意外だ」


「そりゃ真面目な話には真面目に答えないとね」


「頼りになるな」


「でしょ!」


まあ、真面目な話じゃないときはいちいちうるさいんだけどな。


昼休みが終わりの合図のチャイムが鳴って、俺たちは午後のダンスに備えた。


紫組の順番は最後で7番目だった。


周りからは緊張の声が聞こえてくる。


各色がすごい努力しているのが分かる見せ物だった。


それを見てとれているうちに時間は過ぎ、とうとう紫組の出番まで回ってきた。


緊張感のあるなか俺たちは入場する。


そして本番。


あっと言う間にダンスは終盤へ突入し、1番の見せ場となる『人間ドミノ』をやろうとしていた。


並び順は3年、1年、2年の準備で倒れるため俺たちは最後の方に倒れなくてはいけなかった。


しかし……


「あっ!」


そう言って2年生の誰かが転んでしまった。


それを倒れる合図だと思い、どんどん前の方から倒れてしまい『人間ドミノ』は大失敗をした。


あの転んだ子のせいで負けたってみんな思うだろうな。だからきっとその子は責められ恨まれ続けてしまうんだろうな。

かわいそうに……。


転んだ子は立ち上がり周りをキョロキョロしている。


そのとき初めて、俺は気づいた。


その転んだ子とは明理だったのだ。


明理は今にも泣きそうな顔で立ち尽くしている。


紫組の見せ物はグダグダのまま終わってしまった。


そして結果発表。


紫組は午後の部で最下位をとって負けてしまった。


閉会式が終わり教室に戻った頃、俺は不安でしょうがなく明理の様子を見た。


けれど明理は何事もなかったかのように振る舞っている。


ほんとは辛いはずなのに……。


そんな明理を誰も励まそうとはしなかったけど、逆に責めようとする人もいなかった。


そんな中、クラスメイトの女子が今日の打ち上げについて話していた。


「今日は優勝できなくて悔しけど、打ち上げやりまーす!参加できる方は5時までに私に連絡くださーい!」


この後、帰りのHRを終えて解散となった。


と思ったら解散になった瞬間に荷物を持ってダッシュで教室から出て行った明理の姿を見た。


俺はつかさず追いかけながら文句を垂れ流していた。


「あの、バカ!」


俺も走って追いかけていたがなかなか追いつけなかった。


あいつ、あんなに足速かったのかよ……。


けど体力が持たなかったのか明理は急に歩き始め追いつくことができた。


すかさず俺は明理の左手を掴んだ。


励ませばいいのか、責めればいいのか分からず、どうでもいいことを言って話を切り出した。


「お前、足速かったんだな。なかなか追いつけなかったよ」


そう切り出したが明理は顔をそっぽ向いたまま拒絶した。


「……離して」


「いやだ」


「離してよ!」


力強く言われ離しそうになるが逆に強く握った。


「痛いわよ……」


言われてハッとなり力を緩める。


「もう大丈夫だから、離して」


それは弱々しくて、今にも消えそうな声だった。


「とりあえずこっち向けよ」


「……無理」


そう言われた瞬間頭の中で何かが切れた感じした。


そしていつの間にか左手を離していて、今度は両手で肩を掴み強引に自分の方へ顔向かせ怒鳴っていた。


「いい加減にしろよ!そんな涙声でそんな大泣きしてて何が大丈夫だ!どっからどう見たって大丈夫なわけねーだろ!ふざけんな!」


「ちょっと、きりや?」


明理は驚いた表情で名前を呼んでいたが俺の叫びは止まらない。


「どうして1人で抱え込んでだよ!どうして俺に弱音吐いてこねーんだよ!どうして大丈夫でもねーのに大丈夫とか嘘ついたりするだよ!そんなに俺は頼りねーのか!?」


「だって悪いのは切也じゃない!」


「……は?」


俺は予想もしてなかった言葉に呆気にとられた。


今度は明理が叫んできた。


「だってあのとき、私じゃなくて織本とか言う女を取ったじゃない!しかもその後なんの事情も説明してこなかった!私を裏切った!それで頼れなんて言われても無理に決まってるじゃない!」


「お前、そんな風に思ってたのか……?」


「そうよ!」


そうだったのか。明理は俺が裏切ったと思っていたのか。あのとき明理ではなく雪乃のことを優先したから。


「裏切られたと思ったから避けてたのか?」


「それもそうだけど……あなただって私を避けてじゃない」


「は?俺はそんなこと……」


「してたわよ。だから私を嫌ってるんでしょ?ほんとは嫌いなんでしょ?」


こいつはどうしてそんな風に思ってしまうんだ。


そんなわけ絶対にないのに。


「そんなこと、あるわけないだろ」


「じゃあなんで避けたりなんか……」


「俺はただ、あのままだったら話を聞いてくれないと思ったから1回お前の頭を落ち着かせようとしたんだよ。でもそれが逆効果になっちまったな」


少し間を空け、頭を下げた。


「俺が避けているように見えていたなら、悪かった」


「ちょっと、いきなり何よ」


「俺は明理と疎遠になんてなりたくない。許されるなら前みたいに一緒に帰りたいし、一緒にいたい。」


「なっ……!」


そこで俺は顔を上げしっかりと明理の青い宝石のような瞳を捉えた。


「今まで、俺の持っている記憶の中でこんな風に思ったことなんてなかった。だから、明理は俺にとって特別な存在なんだと思う」


「……」


明理は顔真っ赤にした後ゆっくりと俯いた。


……これって言っててすごく恥ずかしかったんだけど、言われる側も同じなんだろうか?


考えているうちに明理が俯いたまま話を続けてくる。


「そう、ありがと。私もこんな気持ちになったのは初めてだからきっと……私にとっても切也は特別な存在だと思う」


「ああ、そっか。ありがと」


やっぱり言われる側も恥ずかしいな、うん。


今度、明理は笑顔で、


「っていうか、叫んでたらなんかスッキリしちゃったわよ!今度は本当に大丈夫よ!ありがと!」


と言ってきた。


「それに特別な存在なんて言われちゃったし……エヘヘ」


なんか小さな声でぶつぶつ言っているが聞こえなかった。

でもまあ、なんかすごくにやけてるから大丈夫だろう。


「それじゃあ一緒に帰らないか?」


「うん!そうしてあげる!」


「ああ。たすかる」


こうして前みたいに一緒に帰ることができた。


家に帰ったあとベッドに仰向けになりながら考える。


俺の中の『感情』は何が抜けているんだ?あの医者は薄れているとか言ってたけどそうは思えない。怒りも悲しみも喜びも感じた。あとはなんだ?なにを失っているんだ?


俺はそれを一晩中考えていた。

失っている『感情』はなにかと。




翌朝


玄関を開けると明理が待っててくれていた。


「ちょっといつもより遅くない?」


俺は少し驚いてしまった。


それは明理が『いつもより』と言ったから。


「あ、ああ。ごめん。次はいつも通り出るよ」


「ちゃんと有言実行するのよ?」


「分かってるっつーの」


「返事は、はいでしょ」


「はいはい」


「はいは1回よ!」


「はーい」


「もう、伸ばさないの!」


「あー、もう分かってるよ!」


「なら普通に返事しなさいよね」


「はい……」


前はこんなくだらないことは話さなかった。いや、話すことができなかった。


それは話していいか分からなかったから。


でも今は違う、互いが互いに気を使わなくても許される関係になったと思えたから。

だからこんな会話ができるんだ。


そして俺は今この状況が嬉しい。

今この時間が楽しい。

そう思った。


今、もう1つの問題を抱え込んでいるのさえ忘れて。

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