封印されし巫女
「魔理沙、なんでこんなところにいるのよ?」
霊夢は嫌味のように言う。
「遅いぞ、霊夢。こっちは最終局面だぜ。そっちは決着がついたのか?」
仏殿の前で一休みしていると、霊夢がやってきた。白蓮とやりあっただけあって、無事だとは言えそうにないな。
「ええ。全部話してもらったわ。でも、珍しいじゃない。あんたがここを働かせるなんて」
霊夢は自分の頭をツンツンと人差し指で指さす。
「ひっどい言い方だな」
「あら、そうかしら? じゃあ、なんで白蓮が犯人じゃないってわかったのよ?」
皮肉っぽい言い方だな。
「まあ、いろいろと条件はあるだけどな。一番の疑問だったのは、紫のセリフだぜ。守矢とか白玉楼とか永遠亭が動いているのに、早苗とか妖夢とか鈴仙がここに来ていないだろ? 一度目の異変のことを知っていて、犯人が白蓮ならここで鉢合わせるはずだ。だけど、あいつらとは会わなかった。ということは真犯人が別にいるということだぜ」
「本当に頭を働かせてたんだ……」
霊夢は意外そうな顔をする。
「悪かったな。で、今回の犯人は誰なんだよ? 白蓮から聞いたんだろ?」
「ここにいるっていうのは聞いたんだけどね。後は自分で確かめろ、としか言わないのよ」
霊夢はため息をついた。
「なるほどな。まあ、こんな異変を起こせる犯人だ。相当やばいのは確実だな。でも、おかしくないか? 目星をつけておいてなんだけど、ここからは何にも感じないんだよな……」
「そりゃ、位置は探られないようにしているでしょ。膨大な魔力量があれば、建物内に魔力を閉じ込めておくことは簡単なことでしょうよ」
よく考えてみりゃそれもそうか。
「ほら、さっさと異変を解決するわよ」
「あ、おい。なんにも対策しなくていいのかよ?」
「あんた、相手が誰かわからないのにどうやって対策するのよ」
霊夢の冷たい視線が私に突き刺さる。
「い、言ってみただけだぜ。ほら、行こうぜ」
仏殿の扉に手を掛ける。
——ゾクッ————
「っ!?」
私は思わず手を離してしまった。触れた時に感じた魔力は凄まじいものだった。
なんつー魔力量だよ……こんな化物は幻想郷にもそうはいないぜ……
「これは凄いわね……正直、私達だけでどうこうできる相手じゃないわね……」
扉に触れた霊夢は冷や汗をかいている。
「まあ、やるしかないんだけどねっ!」
霊夢は勢いよく扉をあけた。その瞬間、建物に立ち込めていた膨大な魔力が濁流のごとく外に流れ出す。
「あら、お客様?」
仏殿の中で正座をしていたのは、私達くらいの歳の少女だった。
「……巫女?」
霊夢はつぶやいた。
その少女の服装は、外の神社でよく見かけるような紅白の巫女服。霊夢のとは違って正規のものだ。頭には白いリボンが巻かれている。
「へえ、そういうあなたも巫女なのですね。少し服装は特殊だけれど。それと、そっちの白黒の方は人間の魔法使いかしら?」
少女の目線は私に向く。少女の目に敵意はない。話し合いの席についてくれるのか?
「ああ、私は普通の魔法使い。霧雨魔理沙だ!」
「それはご丁寧に。私は見ての通り普通の巫女です。で、そちらは?」
今度は霊夢に目を向ける。
「私は博麗霊夢。察しの通り、巫女をやっているわ」
「博麗の……なるほど」
少女は博麗という単語を聞くと、不思議な笑みを浮かべた。
「それで、その博麗の巫女が私に何か用でしょうか?」
「巫女なら巫女が何しにここに来たかわかるわよね、犯人さん。あんたのせいで私の神社が破綻しそうなのよ。あんたも妖怪退治を生業とする巫女ならわかるでしょ?」
霊夢は少女に鋭い目を向ける。結局は八つ当たりなんですね。
「今の巫女は随分と気性が荒いのですね。まあいいでしょう、相手をしてあげます」
その瞬間、爆風が起こった。おそらく魔力によるものだが、私達はその場に立っていることができず、仏殿の外に放り出された。