白蓮の理想郷
「来ましたね、霊夢、魔理沙」
星に連れられた法堂では白蓮が一人、座っていた。白蓮はこちらを全く警戒していないようだ。
「では、私は失礼します」
扉を閉め、星は法堂から出ていく。とりあえず、罠じゃなかったことに一安心だぜ。
「単刀直入に問うわ。あんたは何がしたいのよ?」
相変わらず、巫女様は威嚇的だな。霊夢は鋭い目を白蓮に向ける。
「私が妖怪と人間の平等を望んでるということは、もうご存知の筈ですよね?」
白蓮の眼差しは霊夢とは対照的に優しく、どこか神秘的だった。
「それじゃあ、やっぱり私達の考えは正しかったってことね。あんた、幻想郷の種族を人間だけにしたところで本当に平等を実現できるとでも思ってるの?」
「ええ。そのための一歩だと私は考えています」
その眼は一点の濁りもない。だけど、なにかおかしくないか……? 白蓮は過去にこの異変を起こして封印されたんだよな? それなら、人間と妖怪がどんな末路を辿ったかなんて分かりきっていることだ。それなのに何故……?
「あんた、私の考案したスペルカードルールに賛成していたじゃない。それはどうなったのよ?」
「ええ。初めは良い物だと思いました。ですが、封印が解けてから今までを通し考えたところ、それは平等には程遠いもということが理解できました」
「それ、どういうことだよ?」
全く意味が理解できない。僧侶の考えることって難しすぎるんだよな。
「スペルカードルールというルールができたところで、人間は弱い妖怪にすら勝てない。弱い妖怪は強い人間に勝つことなできない。結局のところ、平等になっているのは強い人間と強い妖怪だけです。そうは思いませんか? 魔理沙」
「それは……」
白蓮の考えを否定できない私がいた。確かに考えてみれば、そうだ。人間で弾幕ごっこをしているのなんて私や霊夢くらいで、他の人間が弾幕ごっこをしているところなんて見たことがない。
今のスペルカードルールだけでは、古来からある『妖怪は人間を襲い、人間は妖怪に怯える』という根本的な解決にはならないのかもしれない。
「それでも、昔よりは……」
「確かに、私が封印される前よりはマシにはなりました。ですが、それではダメなのです。私はこの幻想郷の根本から変えたいのです」
それが白蓮の理想。だがそれは、一人の魔法使いにしては、大き過ぎる幻想。
「あんた、神にでもなったつもりなの?」
「それができるのならば、私は神にでも、仏にでもなります」
白蓮にはそれほどの覚悟があるということなのか。
「そう。やっぱあんたとは仲良くできそうにないわね」
霊夢は戦闘態勢に入った。結局こうなるのかよ。
「お前は誠に愚かで、自分勝手であるッ!」
白蓮はそれを見て、立ち上がり、戦闘態勢を取る。
「それはどっちよ!」
「「いざ、南無三——!」」
それが、霊夢と白蓮の弾幕ごっこ開始の合図だった。