【過去編】もう一人の師匠
「その本どうしたの?」
霖之助に連れられて、博麗神社に到着。霊夢は鳥居のところで私達を待っていた。私は魅魔様からもらった本を抱えたままだった。道中、霖之助に持っておいてあげると言われたのだけど、私はそれを断っていた。
さて、魅魔様と別れる際にいくつか約束事をした。一つは、魔法を教わっていることは誰にも喋らないこと。一つは、魅魔様と関わりがあるとバレないこと。一つは、人前で魔法を使わないこと。その他にもいろいろある。ただし、例外として、博麗の巫女とその娘にはバレても知られてもいいということだった。
「内緒っ!」
だけど、霊夢には秘密にした。だって、まだ魔法が使えるわけじゃなかったし、後でびっくりさせようと思ったからだ。
「ケチー」
霊夢は頬を膨らませる。
「今度教えてあげる。それより、今日は何して遊ぶ?」
「缶蹴り!」
「絶対にいやっ!!」
先日の一件を思い出し、思いっきり首を振った。どうせまた私が鬼をさせられるに決まってる。
「じゃあ何するの? 他にすることないじゃん」
「なんで一択なのっ!?」
今まで色んなことをしてあそんできたのに……どうやら、缶蹴りが霊夢のブームらしい。
「二人ともー、今日はおやつがあるわよー」
ふと、社の方から霊夢の母親の声がした。
「おやつっ!? 今行くっ!!」
霊夢は手に持っていた缶を放り投げ、社の方に走っていった。私もそれについて行く。
霊夢の母親が持っていたのは皿に盛られたスイカだった。もうそんな時期らしい。
「かーちゃん! 早く食べよっ!!」
「はいはい。さっさと手を洗ってきなさい」
私たちは手を洗い、皿に盛られていたスイカを平らげた。
「それじゃあ、缶蹴りやろっ!!」
霊夢は食べ終わるやいなや、勢い良く立ち上がった。
「霊夢、缶蹴りは禁止よ」
霊夢の暴走を止めたのは霊夢の母親だった。
「えー……」
「えー、じゃない。魔理沙ちゃんがあったのが魅魔だったからいいものよ? 下手したら、死んでたかもしれないのよ?」
霊夢の母親はそんなことはさせないけど、と付け加える。
「じゃあなにすればいいの?」
「しょうがないわね。魔理沙ちゃん、武術に興味ある?」
不意に霊夢の母親から質問される。
「武術……? 少しだけ」
「そう。なら良かったわ。私があなたのもう一人の師匠になってあげる」
霊夢の母親は微笑みながら言った。
「もう一人の師匠?」
「そ。あなたの師匠は魅魔でしょう?」
博麗の巫女はなんでもお見通しのようだった。
「かーちゃん! 魔理沙にも武術を教えるのか!?」
「ええ。どうしたの?」
「一人じゃつまんなかったから、嬉しいんだっ!」
霊夢はニカッ、と笑った。
「それはなにより。それじゃ、今から始めましょうか。魔理沙ちゃん、これ着てみて」
私は霊夢の母親から巫女服を受け取った。それは、霖之助が霊夢のために作ったものではなく、由緒正しいものだった。
「わかった」
私はコクりと頷き、巫女服に着替える。
「私の見立ては間違っていなかったようね」
「霊夢のかーちゃん、質問が……」
「師匠よ」
呼び方を訂正される。
「師匠。なんで私に武術を教えてくれるの?」
「魔理沙ちゃんが魔法使いになろうと決めたから、じゃダメ?」
私は首を傾げる。
「要するに、魔法だけ使えても接近戦に持ち込まれたらやられちゃうでしょう? 魔法使いになるのなら強くならなくちゃダメでしょ?」
言っていることはよくわからなかったというのが事実だが、なんとなく意図は汲み取れた。
「それじゃ、はじめるわよ。外に出ましょう」
私達は社の外に出て、武術の修行を始めたのだった。




