【過去編】やりたいこと
次の日、気づくと私の足は魔法の森に向かっていた。私は霖之助に行先だけを告げて、家を出た。
そいつは昨日と同じ場所にはいなかった。探しても見つからなかったから諦めて帰ろうとしたとき、大きな破裂音が聞こえた。
私は音のしたほうに向かって全力で走った。
「なに? また来たの?」
そいつは昨日と同様に、木にもたれかかって座っていた。
「さっきの音なぁに?」
「聞いていたのね。私の魔法の音よ」
「魔法!?」
私は素直に驚いた。魔法という言葉は知っていたけれど、実際に使う人を見たことがなかったからだ。
「そんなに驚くことじゃないでしょう? 魔法や妖術はそこらへんの妖怪でも使えるわよ」
「だって私人間だし……妖怪は危ないから近づくなってお父さんに言われてるし……」
「ふぅん、やっぱり怖いんだ。そういう考えはやっぱり残っているのね……」
そいつはどこか寂しそうな顔をした。
「どうしたの?」
「旧友のことを思い出したのよ。気にしなくていいわ」
そいつは笑った。だけど、それが作り笑いをしていたのは幼い私にもわかった。
「お父さん妖怪に近づくなって言われているのに私には近づいていいの?」
「だって、お姉さんは悪霊でしょ?」
「あ、そうですか……」
そいつは脱力した。
「ねぇねぇ、それより魔法見せてよ!」
私は魔法というものがどういうものなのかが気になった。このときの私は魔法といえば空を飛ぶくらいしか頭の中になかった。
「いやよ。見せ物じゃないんだから」
「……うぅ」
「ちょっ!? こんなところで泣かないでよ!? わかったから」
泣き真似成功。私はニシシと笑った。
「……あなたって相当たちが悪いのね。まぁいいわ、少しだけよ」
そういうと、そいつは右手の平を上にして自分の前に出した。
「なにするの?」
「まぁ、見てなさいって」
そういうと、そいつの手の平から大きな星が空めがけて放たれた。大きく上昇したそれは、破裂音とともに無数の小さな星を空一面にばら撒いた。それは、花火を連想させる。
「わぁ……」
私は声が出なかった。魔法ってすごい。私は感動した。
「ざっとこんなものかしら。満足していただけた?」
私はコクコクと頷く。
「魔法教えてっ!!」
それが次に出た言葉だった。
「嫌よ。そんな面倒なことしたくないわ。第一、魔法を覚えたところであなたの場合は役に立たないと思うわよ?」
「そんなことないもん!」
私はただ、あんなきれいな花火を自分で撃ってみたかった。それは、派手で綺麗なものが魔法であると私の中で勝手に定義づけられた瞬間だった。
「はぁ……あなた人里に住んでいるんでしょう? ここに来ること自体が異例なのに、そこにいる悪霊に魔法を教わるなんて以ての外なんじゃないの?」
「それは……そうだけど……」
「ほぅら、そうこうしてるうちにお迎えが来たわよ」
そいつは私の後方を見た。
「あ……」
そこにひっそりと立っていたのは霖之助だった。
「魔理沙、昼ご飯の時間だよ。霊夢も待ってるよ」
「……はぁい」
私はやむなく博麗神社に向かった。
「魔理沙、どうしたの? 元気がないようだけど」
霊夢は私が落ち込んでいるのが分かったらしい。
「何でもないよ」
私は作り笑顔を作る。
「そう?」
霊夢は私を訝しむような目で見る。
「ねぇ、霊夢のお母さんって魔法って使えるの?」
私は悟られる前に話題を変えた。
「魔法? かーちゃんのは魔法じゃなくて術だよ。魔法とは違うって言ってた」
「へぇ。霊夢は使えるの?」
「ちょっとだけだけどね。今修行中なんだー!」
霊夢はエッヘン、と胸を張る。
「修行中って、よくサボってるやつが言うセリフかっ!」
先代巫女の突っ込み。この頃から霊夢は修行が嫌いだったらしい。
「そうなんだ。すごいね、霊夢は……」
「……どうしたの? なんか今日の魔理沙へんだよ?」
今度は私を心配そうに見てくる。
「そう? 私はいつも通りだぜ?」
「しゃべり方も変だよ? 熱でもあるんじゃない?」
「ないよっ!」
それから霊夢と遊んだ。気が付くと日は沈みかけている。
「ばいばーい」
博麗神社を後にする。聞いた話では霊夢はこれから修行らしい。霊夢だけが術を習うのは何だかズルい。幼い私はそう感じた。
「魔理沙ちゃん。あなたがどう思っているかはわからないけど、好きなようにしたらいいと思うわよ」
霊夢たちとの別れ際、先代巫女がそう言った。私は少しだけうずうずしていた。もう一回森に行こう。あの人に魔法を教えてもらおう。そう意気込んだ。
「魔理沙。僕は先に帰るよ。君は行くところがあるんだろう? あんまり遅くならないうちに帰ってくるんだよ。親父さんには適当に理由つけておくから」
霖之助は私の気持ちを察したらしい。
「ありがと……」
私は魔法の森に向かって走った。




