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ep 3

ep.3 start.


◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ 


イリーナちゃんに部屋まで案内してもらい、肩を貸していたセイ君をベッドに座らせた。

途端に崩れ落ちたので、靴を脱がせてベッドに乗せてあげると、



「とりあえず一眠りさせてください・・・。

色々と今後について相談したいことがありますので、2時間後に起こしてください」


ベッドに身を委ね、土気色の顔でそんなことを言われては断れるわけがなかった。

その間暇でしょうから、と言ってリュックに入っている本を勧めると、彼はたちまちに眠りについてしまった。

・・・セイ君の無防備な寝顔を、無性に愛おしく思う。


妙な思考を振り払って、窓を開け放つ。

空気の匂いは変わらないんだ、と感慨にふける。


私、若宮光(わかみやひかる)は救急救命士だ。今は機関士として救急車の運転をしている。正確にはしていた、か。

突然タイヤがスリップして、何もできないままにガードレールを突き破って落下してしまった。全く意味がわからなかった。

点検は欠かさなかったし、あの時の路面のコンディションと速度でこんな事故が起こる道理など、どこにも無かった。

そして救急車も恐竜に破壊されてしまい、目の前には一人の搬送中の患者だけが残った。

正直に言って事態の変化に頭がついていかなかったが、その患者___セイ君を助けなければ、との一念でここまで辿り着いた。


私はただの救急救命士だ。

異世界に来た、と言われたところでどうすればいいのか。

言葉がある程度通じるだけマシだが、外国の知らない土地に行くより酷いと思う。

大体、そんな肩書きがこの世界でどれほど役に立つというのか。

そもそも、もう地球に帰れないのだろうか。恋人はいなかったが、両親は家で帰りを待っているはずだし、田舎の祖父母だって健在だ。

休暇を取って里帰りする度にお見合いを勧められるのは精神的にジワジワ来るので勘弁して欲しかったけれど、もう逢えないのだろうか。


こんな世界で、一体私に何ができるんだろうと、無力感が募る。

答えが得られないのだから、これ以上考えても仕方ない。



さて、彼が目を覚ますまでどうしよう。

街に出たいとも思わないし。


そういえば彼が眠る間際に言っていた本を見てみよう。


リュックサックをまさぐり、手にとった本はハードカバーで大判で、何かの図鑑だった。

明るい窓際でタイトルを見て、戦慄が蘇った。


『恐竜イラスト図鑑』


なぜ彼はこんな本を持っていたのか。

そもそも『よろずや』で売った本はごく一部だったのか。

そういえばなぜ買取金額があんなにも高額で、宿泊費はこんなにも安いのだろう。

尽きない悩みに時間を浪費するよりは、と項をめくる。

そこで部屋が暗い事に気付いたので、明かりをつけた。

・・・あれ、白熱電球(?)が光ってる。

ちゃんと電気が通っているみたいだけど、電線は街中に見当たらなかったので電気はどこから来ているのだろうと思った。

どうせ現代日本に居る時から発電所のことなど気にも留めなかったのだからと気を取り直して本に取り掛かる。



《ティラノサウルス・レックス》

獰猛な肉食恐竜。ティラノサウルス科の代表で、広く北半球に生息。生態系の頂点を極めた。ジュラ紀中期から白亜紀にかけて。走行速度は20~40km/hと推測される。なお、前脚の用途は未だ不明。



あのとき追いかけて来た恐竜だった。イラストそっくりで、あのときの恐怖が蘇り心臓が止まるのではと、生きた心地がしなかった。慌てて図鑑を閉じ、ベッドで眠るセイ君に目をやる。


「・・・君は一体何者なの?

双眼鏡、コンパス、まぁマンガはいいとして、この恐竜図鑑まで持っていて。

あまりにも用意周到であるように見えます。

そして何よりこの状況下でも非常に落ち着いているのは、はっきり言って異常だと思いますよ」


光はこの世界に漂着してから何度目かわからないため息をついた。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ 



ep.3 end.



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