ep 2
ep.2 start.
牢屋を出た私とヒカルさんは、まずはよろず屋へ向かった。
今後のためにも、まずは先立つものが必要なのです。
要するにお金。
単位は円だった。
・・・別の地域ではドルも流通しているとかいないとか。
面倒なことは後回し。
カールさんオススメの、何でも買い取ってくれるというよろず屋へ入る。
店の名前は『よろずやさん』。
外観は・・・ほら、アレだ。駄菓子屋風デパートみたいな感じだ。
「いらっしゃいませー」
店員さん、日本語喋ってるじゃん。
なんだか懐かしい気分に浸りつつ、そういえば衛兵は英語使ってたよなとふと思い出す。
それに、露店から聞こえてくる声はだいたい日本語だった。
民間人は日本語、軍人は英語って区別があるのかな。
「すいません、こちらの買い取りをお願いします」
そう言って自分のリュックサックから本を取り出す。
予約しておいた本を通勤中に回収したのだが、色々な参考書とか小説とかマンガが入っている。
ちなみにここまで運んでくれたのはヒカルさんだ。
私は今、箸より重いものを持てないのです。
これが噂のヒモ・・・!
「ほほう、これは・・・!」
買い取りを担当するのは初老のおじいちゃん。
ロマンスグレーの髪や髭と、丸メガネがよく似合っている。
田舎のおじいちゃんと言った風体だが、どうやらお気に召していただけたらしい。
めっちゃマンガに食いついてます。
「全部まとめて10万円でどうでしょう」
いい笑顔だった。
いい笑顔を返した。
ヒカルさんは間の抜けた顔をしていた。
「ありがとうございましたー」
見送りしてくれた店員さんがスキップしながら店に戻っていく。
「原価より高いんじゃないの・・・?」
ヒカルさんは財布に入れた10万円の実在を疑っているようだ。
まぁ、10万円玉を渡されてしまっては仕方ない。私も半信半疑だ。
見た目はまんま小判だった。金色に光り輝いている。
店を出てから気付いたけれど、崩してもらったほうが断然使いやすかっただろう。
今更なので、気を取り直して次の目的地を目指す。
「とりあえず宿を探しませんか。
積もる話はそこでしましょう」
お手上げとばかりに肩をすくめると、しばしの宿を求めて街を歩く。
長期滞在に向いた宿も、カールさんから紹介を受けた。
こちらは紹介状を受け取っている。
せめてものお詫びということだろうか。
なんのお詫びだ。
いや、今後の監視に便利とかそういうことじゃ・・・まぁ別にいいや。
私は早くベッドで寝たいのだ。
・・・卑猥な意味じゃなくてな?
「いらっしゃーい、民宿『微睡みの止まり木亭』へようこそ!
お客様は2名様ですか?」
明朗快活、そんな言葉がお似合いの少女が出迎えてくれた。
服装は可愛らしい水色の私服の上に割烹着を着用しており、その笑顔と相まって破壊力抜群である。
しかし歩き疲れてしまった私には返事をする元気もなく、なんとかぎこちない笑顔を返すばかりであった。
後はヒカルさんに任せよう。
「そうです。2週間程度の宿泊を考えています。
彼が快復するまではお世話になるつもりです。
料金はこれしかないんだけど・・・くずせますか?」
そう言って先ほど手に入れた10万円玉とカールさんの紹介状を少女に見せる。
目をまんまるに見開いた後、少々お待ちください、と一礼してバックヤードに戻った。
おかあさーん、と叫ぶ声が聞こえてくるので、きっとお母さんがこの宿の主人なのだろう。
そしてあの娘が従業員その1と。ちなみに男主人とか誰得なので考慮しない。
そういえば実家が旅館でガキの頃から働いているって友達がいたけど、実際目にするとブラック臭がすごいな。
他の可能性としては、両替が必要なときは複数名の立会いを義務付けているのかもしれない。
確か日本の牛丼チェーン店にもそんな仕組みがあったし。
とりあえずその辺のソファに座って待つことにしよう。
すごく疲れちゃったもん・・・。
少し待って出てきた恰幅の良い女性は、少女の母親でアリサと言うらしい。
陽だまりのような素敵な笑顔の女性だった。
先ほどの少女はイリーナ、もうすぐ12になるそうだ。
どう考えても娘の方がアリサって見た目でしょと言いたい。
そんなイリーナはつぶらな瞳でこちらを見ている。
頭をナデナデしたくなる可愛さだ。
そんなことを考えていると、女主人は10万円玉を見て、
「あらあら、こんなにあったら朝食付きで半年くらいは宿泊できるわよ。どのくらいお泊まりされる予定ですか?
それからウチは二人部屋しかないけど、お二人は相部屋でいいのかしら。」
・・・・・・は か っ た な カ ー ル !
・・・・・・・・・・・・・・・はぁ。
私からは異存もないが、ヒカルさんは嫌だろうな、と思っていたんだけど。
「それで構いません。期間はとりあえず一ヶ月でお願いします。
継続するかどうかは、その時また考えますので。
それから、夕食もお願いできませんか?
彼の怪我がある程度治るまでは外出も儘なりませんので・・・」
えっ、いいの?いいの!?それってつまり、そういうこと・・・?
・・・・・・ってそんなわけないよね、搬送中の男の子を怪我したまま放置できない親鳥の心境ですよね知ってます知ってます。
別にキャラ崩壊とかそういう話じゃないよ?
ネタを振られたからリアクションを取っただけだ。
ヒカルさんは母性本能全開といったご様子だ、ということにしておいてくれ。
三次元に興味がない私が言うのもなんだけど、男として全く気にされないというのもそれはそれで悲しい。
(かなしみの二律背反・・・)
「はいよ、じゃあ一ヶ月の宿泊で1万5千円ね。
長期滞在だし、夕食代はサービスしといてあげるよ!
ルームメイクは昼時にするから、その辺りよろしくね」
「あの、それだとずいぶん安いような・・・?一人一泊250円になってしまうのでは」
私、気になります。安すぎません?
「あらあら、こんな辺鄙な街だとこのくらいが相場よ。
ひょっとして中央から来たのかしら?
中央ならここの10倍くらいの物価だって言うものね。
ま、延長するときはまた言ってね」
はいこれ、と渡された鍵を受け取り、イリーナちゃんの案内で部屋へ向かった。
ああ、やっとベッドで眠れる・・・。
ep.2 end.
微睡みの止まり木亭の宿泊料金:500円/部屋(素泊まりなら-100円)
微睡みの止まり木亭の概要
1階:受付、ロビー、厨房、食堂、従業員スペース、従業員部屋、お手洗い、物置等
2階:二人部屋8部屋
3階:二人部屋8部屋