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prologue

prologue start.



目を覚ますと、そこには女性の顔があった。


「!?」


あ、よく見たらヒカルさんだ。

どうやら膝枕をしてくれていたようだ。

後頭部越しに感じる暖かさがどこか心地よい。

こんなに冷たい石畳の牢屋に座り介抱してくれている彼女に何か恩返しがしたいと、この時強く思った。


「あ、起きたみたいね。

体の調子はどうかしら?まだ痛む?」


言われて体を動かそうとするも、まず腹筋が痛むので

起き上がれない。ひっくり返った亀の気分だ。悔しい。

恩返しは当分先の話になりそう。


「まだまだ完治には程遠いようです。

膝枕、ありがとうございます。今どきますね」


名残惜しいが、体を横に丸め、四つん這いの姿勢から体を起こす。

お、これならなんとか立ち上がるところまで持っていけそう。

しかし立つ元気はどこにもない。今も動悸がする。



ふともものの柔らかい感触にどぎまぎしたとかじゃなくて、な。

これは本当。

・・・本当だよ?


しかし、彼女が居なかったら今頃恐竜の餌になっていただろう・・・。

とにかく、まずは感謝していることを伝えよう。


「若宮光さん、ここまで肩を貸してくれてありがとうございます。

あなたがいなければ、今頃私は恐竜かモンスターの餌になっていたでしょう」


彼女は苦笑して、当たり前のことをしただけよ、と言った。


「ヒカル、でいいわよ。私もセイ君って呼ばせてもらうね。

改めて、よろしくねセイ君」


目覚めたもののろくに体も動かないので、とりあえず現状の把握に努める。

丈夫ねー、と呟いているヒカルさんと2人、牢屋の床に座り込んでいる。

なぜ勾留されているのか、セイントさんはどうなったのか、そもそもここはどんな世界なのか。

昨日、この世界に漂着してからこちら、疑問が次々と湧いてくる。



まずは近くに居た牢番に声をかけ、思いつくままに尋ねることにした。

牢番は気さくな男で、カールした髪の毛が印象的だった。

名前はカールだった。

安直すぎた。


「あっはっは、君たちも災難だったねぇ。

昨日の夕方、彼がウチの隊長をぶん殴っちゃってね。

規則に則って3日の勾留と決まったんだよ。

君たちも同行者ということで念のために勾留させてもらった」


君は牢屋に入るなり寝込んでしまったけどね、と言って笑う。


「そちらの女性に事情を伺ったところ特に拘束する必要も無さそうだし、昼過ぎにでも釈放するよ。

道案内をしてくれた熊人のクマさんは狩猟組合の若旦那にも事情聴取に付き合ってくれた。

後で会うことがあればお礼を言っておくといいよ」


私がヒカルさんの方に目線を送ると、ウインクを返された。

なるほど、既に話はついているということですか。ありがとうございます。


じゃあ、牢屋から出た後どうするか考えないといけないのか。

気を取り直して、今のうちに聞いておくべきことを頭のなかでまとめる。


「セイントさんはどうなりますか?

さきほどの規則によると、3日後に解放されるということでしょうか」


一応あんなのでも世話になったし、手近な話題から片付けよう。


「あ~・・・なんて言ったらいいのかな」


まずここに居ない人物について尋ねたところ、どこか困ったような表情をされてしまった。

気軽に聞いたつもりなのに、想定外に重い話題を引き当てたらしい。

頭をポリポリと掻く彼に詳細な説明を要求すると、


「実は今朝方、司教がやってきて彼を連れて行ってしまったんだよ。

かなり珍しいことだけど、超法規的措置、ってことになるね。

事情はよくわからないけど、隊長を殴った時に右手が光ったとか?

それを聞きつけた教会が朝イチでここまでやってきたんだよ。

たぶんだけど、教会の戦力としてセイントさん?を欲しがっているみたいだね」


・・・つまりアレか。

”右手が光る”とは”特別な力を持っている”ということで、教会はそのような有用な人材を全力で確保したい、と。

それと同時に、この世界にはそういう”特別な力”がある程度存在しているらしい。

また、教会とやらは街門の衛兵部隊より立ち位置が上ということになるであろうか。

いやいや、軍組織と宗教組織の統率は別系統だろうし、この街の”法”を無視して身柄を押さえたということは、つまり宗教が行政より上位の存在ということになるのか。

何時の世も、宗教組織を真面目に相手にするのは面倒だという証だと思えばいいか。


「つまりもう彼と会うことはないであろう、と。

少なくとも今後行動を共にすることはないと考えればよいのですか?」


同郷の人間に対して冷酷な対応だと思われるかもしれないが、人の知らないところで厄介事を引き起こすセイントさんを庇っていられない。

この世界における私達の安全は、未だ担保されていないのだから。


カールさんは苦笑いしたが、首肯してくれた。

どうにもならないことは気にしないに限る。



解放までの浮いた時間で、この街の言語や通貨など、ここで生活するために必要な知識を得ることに時間を費やした。

もちろん宿屋の料金やベッドの寝心地も質問した。

しばらくは私の体は動かせないだろうからね。

カールさんは他に仕事が無いのか、ずっと会話に付き合ってくれた。

粗方聞くべきことを聞き終えたところで、あまり触れてほしくない話題が出た。


「ところで君たちはどこから来たのかな?」


なんと答えるべきか。どう答えることが正解なのか。

回答を躊躇う私を見て、カールさんはこう付け加えた。


「というのも、あの街道はとても立派だけど、人のいる集落には続いていないんだ。

人の住む街があったのは、およそ100年以上前のことだ。

君以外の2人にも訊いてみたけれど、どうも曖昧でね。

ましてや大森林と大草原の境界なんて、人外の魔境と言って差し支えないからね。

___君たちは何者だい?」


なんと、ただの牢番ではなかった。拘束した人間と雑談に興じる不真面目な牢番だとばかり思っていたけれど、こんなチャラい奴が牢番してても怖くもなんともないもんな。尋問官が本職なのだろう。

隣に目をやるとヒカルさんが頷いてくれたので、正直に話すことにした。

が、念のためにひとつ確認することにした。


「だいたい結論は出ていますが、一つだけ確認させて下さい。

この惑星にはいくつの大陸がありますか」


カールさんは固まった。

カールさんは首を捻った。

カールさんはお手上げのポーズをとった。


どうも軍事機密にあたるため、というわけではなく、質問の意図が分からなかったようだ。


「いくつって、大陸は1つしかないだろう?一体どういうことかな?」


お、おう・・・。

納得したくはないが、牢屋を出たらまずはこの世界の情報を集めなければならない。

今はカールさんの質問にきちんと答えないとな。


「私達は6つの大陸がある世界に住んでいました。

きっかけはわかりませんが、気付いたらここから離れた森と草原との境界上にいました。

この惑星は私達の地球によく似ているけれど、全く別の世界なのだと思います。

私達は、所謂”まれびと”です」



prologue end.



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