prologue
初投稿作品です。ほとんど見切り発車も同然です。
プロット・構成は完結まで決めてありますが、文章の肉付けって難しいですね。作者も知らない登場人物がいたりしますし。
投稿は毎日しようかなと思いますが、気に入らなくなったらその都度更新書けちゃう気がします。
生暖かく長い目で見守っていただけると幸いです。
※本当に7回転ばせて8回落とします(予定)
prologue start.
七転び八起きという言葉を、知っているかな。
何度失敗しても諦めずに立ち上がることだ。
立ち上がって転んで、また立ち上がる。
何度もそれを繰り返し、繰り返し、繰り返す。
そして最後には自分の足で立つのだ。
諦めないこころが、道を切り拓く。
自分もそうありたいと、思っている。
みなさんこんにちは。私は鴨田静、日本に住むごくごく普通の大学生です。
スポーツ万能、座学は苦手なし、他人からは非の打ち所がないよくできた人と評されます。
誰とでも仲良くなれる人付き合いの良さと、どんなこともそつなくこなす様から、友人らにそう言われてきました。
しかし自己評価はわりと低く、器用貧乏で八方美人、秀でた才があるわけではないと思っています。
本当の一流との間には、超えられない壁を感じて日々を生きています。
あれこそチートだと、心の底から思う。
どれほど努力してみたところでその差を一瞬の発想でひっくり返す理不尽な現実を、諦念を以て受け入れたのはいつ頃だったか。
趣味にもそれなりの時間を割くようになり、今はある程度の充足感を得て暮らしています。
そんな私は日頃から、本当に真剣に取り組める何かを探している。
自分がどこにいても、その世界を観察し「何故か」と問い続けることを止めない。
その先に運命的な出会いがあると信じているから。
もちろん、心の何処かではそんなものが都合よく見つかるはずもないと思っている。
しかし日々を漫然と過ごす内に、いつしか感じる心を失っているのではないか。
そう考えると、部屋の隅で体育座りしていじけてしまいそうになる。
さてさてこれは私の人生という長い、長い物語。現在と過去と未来と。
再び素敵な出会いを信じ、この世界でも生きていきたい。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
激しい雨の中を、2つの影が駆ける。
前をゆくは私も乗る車両。後ろから迫る巨大な影。
「おいッ!もっとアクセル踏めよっ!」
「これが限界ですっ!舌噛まんように口閉じてください」
「も、もっと速く!お、お、追いつかれちゃうっす!」
彼らは同乗している救急隊員で、乗っているのは救急車。
そして私は搬送中の患者さんのはずなのですが、現在カーチェイスの真っ只中に置かれています。
追いかけてくる影は車じゃないので、カーチェイスって表現は不正確かもしれません。
あれは地球という惑星において今から6500万年ほど前まで生態系の頂点に君臨し続けた、巨大な体躯を持つ爬虫類によく似ています。
環境の変化と小惑星の衝突により、その爬虫類は地上から姿を消しました。絶滅したのです。
したがって、どう頑張っても彼らが蘇ることはありません。
しかし背後から車を追走する影は、どこからどうみてもT・レックスです。
そう。お察しの通り、ここは私のよく知る現代の地球ではありません。
あんな巨大生物、地球上には既に存在しないのですから。
(ガッシャーン)
「ぎゃああああああああ」
「あっ、だめっ!車がッ・・・」
「ヒィィィ!もうだめだーーー!」
巨大な影に追突され、車両は転倒を余儀なくされた。
私はストレッチャーから転落し、車内のあちこちにぶつかる。とても痛い。
隊員と運転手さんはうめき声を上げている一方で、今の転倒で額を切ったと思われる隊長が、顔を血で濡らしながらも後ろのドアから外の様子を伺う。
その隊長の上半身ごと、車体が抉り取られた。
(バリバリバリッ)
「ぎゃあぁぁぁ・・・・」
「!?」
「隊長ー!」
転倒した車内、車のボディは大きく引き裂かれ、絶叫から少し遅れて私の頬を紅の雨が濡らす。
紅を降らせた腰から下が音を立てて倒れ、ハッと正気を取り戻す。
隊長の上半身は車のボディとともに一度放り捨てられ、邪魔なものを排して再び口に入れられた。
踊り食いという言葉が頭に浮かんだ。
車に撥ねられる瞬間よりもずっとくっきりと目に焼き付けられた映像に、ただ恐怖を抱いた。
そのときあまりの恐怖に、ただただ生き延びたいという純粋な思いが心の奥底から発露した。
モヤのかかった世界が、クリアになった気がした。
文明の見当たらないこの地では、世界全てが鮮やかに映った。
生ぬるい世界で生命の危機を感じること無く生きてきた私には、何もかもが新しかった。
心のどこかで、こんな局面を待ち望んでいた気がするのは、果たして幼き日々の冒険心ゆえか。
しかしながら、こういった場面にいざ直面してみると、自分の心ががこんなにも機敏に反応するとは思わなかった。
・・・やはり未知への恐怖なのだろう、人を真剣にさせるという点で非常に効果的である。
ここでならきっと、私は私が向き合うべきものとの邂逅が、素敵な出会いがあるだろう。
然るに私達の置かれた現状は、非常に危機的である。
目の前で存在感を示す、全長が10メートルを超える巨体に、大きく開かれたあぎとと血に濡れたたいへん立派な歯。
その噛み砕く力はつい先程証明されたばかりで、まだまだ足りないとばかりに獲物を要求している。
下手に物音を立てれば、隊長の二の舞いになることは明白である。
だがあえて叫ばせていただく。
「アイエエエ!?キョウリュウ!?キョウリュウナンデーーー!?」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
近頃の大学生の多分にもれず、セイは日々をレポート課題とアルバイトに費やしていた。
アルバイトを始めた理由はいたって単純で、
「買いたいものがある」
「お金が必要」
「じゃあバイトしよう」
貧乏暇なしと言いつつも、稼いだお金は全て本とアニメと多少の生活費のために消えた。
しかし一片の悔いもない。だって趣味に全力で真剣に取り組んでいるのだから。
「いい大学に入ることができた」
「しかし特にやりたいことも思いつかない」
「じゃあとりあえずレポートを処理しよう」
無気力に目の前の『やらなければならないこと』をただ処理する毎日だった。
いつしかルーチンワークへと成り下がったその行為は、はっきり言ってなんの役にも立たなかった。
将来自分がどんな仕事に就くのか、具体的なイメージを得られないままに過ごす日々は、限りなく苦痛であった。早く目標を定めたいと思った。
こうしておよそ3年が経過しようとしていたある日。
いつもの様にロードバイクで通勤中、住宅街の狭い交差点で交通事故に巻き込まれた。
(ガッシャーン)
ノーブレーキで撥ね飛ばされた体を引き起こした私を最初に襲ったのは、強い困惑。
(え、私は確か自転車に乗って、通勤中で、あれ、体がうまく動かない・・・)
べ、別にこのとき異世界トラックに撥ねられたわけじゃなくてですね。
強い痛みと停車した車、そして視界の端で横たわる愛車の無残な姿を目にしても、何が起きたのかよくわからない。
駆け寄ってきた夕刊配達のおじさんが大丈夫か、と声をかけてくれた段階で初めて、車に撥ねられたのだと認識できた。
おじさんは運転手に車を路肩に寄せるよう指示したり、119番通報してくれた。
今思うと感謝してもしきれない。ありがとう!夕刊おじさん!
事実、よくも轢いてくれたな、と文字通り腸の煮えくり返るような激しい怒りで頭に血がのぼっていたので、的確に対処した夕刊おじさんがいなければ傷害事件も発生していたであろうから。
まぁ、子鹿のように震える足と右手でドライバー相手に有効打をとれたかどうか、甚だ疑問であるけれど。
なぜあの時素直に感謝の言葉を述べることができなかったのか。
どうして名前を聞いておいて、後からお礼をしようと思わなかったのか。
今思うと、とても不思議だった。
駆けつけた救急隊員に手当を受け、警察官に簡単な事情を聞かれ、一度病院へ行くべきだということになり、人生初の救急車。
自慢じゃないけれど、大病を患ったことも無ければ丈夫な骨格ゆえ大怪我をしたことはなかったから、救急車には初めて乗る。
しかし現実は息をするのもちょっと辛い。
救急隊員の問いかけに答えつつ、救急車は移動を開始した。
そんなこんなで初体験にドキドキしていたが、走り始めてしばらくした後、タイヤのスリップ音と軽い衝撃が走り、胃が持ち上がるような感覚に襲われた。
それは救急車ごと落下しているのだと気付いたとき、雷雲に飛び込んだかのような衝撃に呑まれ、そこで意識を意識を手放した。
prologue end.