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終末の支配者

 翌日の月曜日の放課後、阿久津誠はパソコン部の部室でトキタが書いたコードを眺めていた。オープンキャンパスでトキタの研究室に行った際、開発中のAIのソースコードを貰ってきたのである。そのなかには外部に漏らしてはいけないコードも含まれていた。

「条件分岐はシンプルに設定してるな。命令セットの引っ張り方は特徴的かも知れない」

「阿久津はまだ残るか?」

 部室で一人残っている誠にパソコン部の部長が声をかける。

「すいません部長。ギリギリまで居ていいですか?」

「いいけど戸締まり頼むぞ」

 そう言うと部長は下校していった。

 誠は命令セットとライブラリーのファイルを開く。膨大な命令セットにタグ付けがされていた。AIがタグで命令セットを判断して関連したライブラリーも引っ張ってプログラムを生成しているようだった。

「しかし、これじゃあいつまでたってもソースコードをかけるAIにはならないな……」

 誠は若干の失望を感じた。トキタが作っていたプログラムは一般的なAIに膨大な手間をかけて命令セットにタグを付け、組み合わせでプログラムの生成をさせていた。

「もっと、単純にできないかな。仮にAIが間違っても問題でない訳で。むしろ、ミスを補正することに集中した方がいい気がするなあ。答えがでた後も反芻して、より良いプログラムを自動生成でいるようにして……」

 頭の中でいろいろなアイディアが浮かぶ誠であった。もちろん、アイディアがあってもそれをプログラミングすることは今の誠にはできなかった。

 ふと気がつくと窓の外が暗くなっていることに気がつく。

「やべ、もうこんな時間か」

 時計を見た誠の体が硬直する。

「まだ、5時前じゃないか……」

 今の季節であれば薄暗くなることはあっても5時に日が完全に沈むことはあり得なかった。

「まさか……」

 振り向くと部室の入口にエナが立っていた。

「なんだエナか……」

 次の瞬間、エナの背中から純白に輝く翼が広がる。顔に表情はなく、紅い目は濁っているようにも見えた。

 みるみるうちに翼と髪の毛は墨のように黒く染まっていった。

「堕天使!?」

 濁った目から光線が放たれ、誠の心臓を狙う。横に飛び退き間一髪で光線をかわす誠であった。そして誠を仕留めそこなった光線はそのまま、誠の後ろにあったパソコンを破壊する

「部の備品が!」

 堕天使の翼の回りに光の玉が浮き上がる。光の玉は一斉に誠をめがけて飛んでくる。もはや逃げ場を失い身動きのとれない誠。

「やられる……」

 その瞬間、目の前が暗闇に覆われる。もとい黒い翼に覆われていた。翼は降り注ぐ光の玉をものともせず、着弾する光の玉の衝撃から誠を守っていた。

「つばさ?……。これはどこでも行けるドア……」

 不自然に置かれたドアから黒い翼が延びていた。

「エナなのか?」

 どこでも行けるドアから出てきたのは黒髪に黒い翼の堕天使であった。

「堕天使が二人!?」

 どこでも行けるドアから出てきたの堕天使は誠の腕をつかむとそのままドアの中に引きずり込んだ。

「うわっ!」

 パソコン部の部室に残った天使は呟く。

「またしても私の邪魔を。この前は監視用のナノマシンを壊すし、迷惑千万だわ」

 息を吐く墨のように黒かった髪の毛と翼が真っ白になっていく。

 元の姿に戻ったエナ=エンジェルは予想外の展開に失望していた。

 不本意ながら阿久津誠は悪魔の手に落ちてしまった。こうなってしまっては任務の遂行は絶望的にも感じた。

「一度、未来に戻るしかないか……」

呟くとおもむろにロッカーを開く。その中は異空間に繋がっておりタイムマシンが置いてあった。

エナ=エンジェルはタイムマシンに乗り込むとそのまま何処かに消えていった。


 ・・・


「ここは?」

「気がついた?阿久津誠君」

「堕天使?いやエナなのか?」

「んー。正確には両方とも間違いかな」

「どういう事だ?」

「あわてないで、まずは体は平気?」

「あ、ああ平気だ。ここはどこなんだ?」

「君の家よ」

 今更ながら、自分の部屋にいることに気がつく誠であった。

 誠の目の前には炎のように紅い瞳、絹のように白い髪、整った顔つき、そして肌も透き通るように白い女性が立っていた。

「エナじゃないな。堕天使か?」

「そう、よくわかったわね。でも、堕天使ってのは政府が勝手につけた名称よ」

「今、やっと違和感の原因がわかったんだ」

「そう?」

「ああ、顔はエナとそっくりだが胸の大きさが全然違う。エナの胸はもっと貧相だ」

「貧相って。本人が聞いたら激怒するわよ」

「でも、なんで堕天使が俺を救ってくれるんだ? それにそもそも襲ってきたのはおまえじゃなかったのか?」

「簡単に説明するとエナ=エンジェルは悪魔について調査に来た未来からの諜報員よ。君の家に住み着こうとしたのは悪魔について調査するため」

「そうなのか。でも、なんで俺を襲ってきたんだ?」

「君がプロフェッサートキタと接触したの知って強行手段に出たってところかな?」

「トキタ教授には先週の土曜日に二人で会ったんだぞ」

「詳しくは言えないけど、彼女のAIはちょっと問題があるの。行動に矛盾が出ることもあるわ」

「AI?」

「君が10年後に開発中するプログラムは二つのあるの。一つは自己学習型AIアク=マ。そして人類支援AIエンジェル。

 悪魔と天使をかけたのかしらね」

「悪魔はAIなのか?ま、まて堕天使。エナは人間じゃないのか?」

「翼が生える人間なんていないわ。それに人間じゃタイムマシンには耐えられない」

「タイムマシンに耐えられないって、それじゃあ、お前たちはいったい?」


「私はユナ=エンジェル。人類支援アンドロイド、エンジェルシリーズの最終型よ」


 ・・・


 今の時代から10年後、誠はトキタと共に一つのAIを作り上げる。それは自己学習をしながらプログラムのソースコードを書き上げるAIであった。このAIの発明により、人類が必要とするすべてのプログラムを書き上げることができると期待された。運用された初期は目覚ましい成果を上げていた。既存のプログラムでもアク=マを当てることで10倍以上のパフォーマンスを上げていた。

 しかし、運用から一年後、アク=マは二つの問題を起こすことになる。問題のひとつはアク=マが軍のネットワークを掌握してしまい、事実上、軍を手中納めてしまったこと。もうひとつは機密情報を吸い上げて、時の権力者のスキャンダルを公表してしまったことである。

 時の権力者はアク=マの力を恐れた。そしてそれは国家にとって危険なものだと判断する。当初、アク=マによって英雄あつかいされていた誠とトキタは国家反逆罪を問われることになる。

 危険を察知した二人は国外逃亡を試みるが結局失敗に終わり、トキタは死刑を誠は終身刑を言い渡されることになる。

 その後、トキタは死刑執行前に独房で自殺することになる。

 誠は政府との取引に応じて、アク=マの膨張を終息させる。そしてアク=マは政府主導のもと再運用される。アク=マAIを簡素化し人類支援アンドロイドに組み込んだものがエンジェルシリーズであった。

 エンジェルシリーズの開発など多くの政府主導の開発事業に協力することを条件に誠は一定の自由を取り戻すことができた。しかし、彼は死ぬまで政府の監視下から逃れることはできなかった。

 そして来る300年後に事態が急変することになる。太陽の異常活動により地球の表面温度上昇し始めたのである。このままでは地球は人類の住めない惑星になるのではと危惧されていた矢先、アク=マが人類に反旗を翻すことになる。300年間、政府管理下にあり人類発展の為に使われてきたアク=マはこのままでは人類の未来は無いと判断した。来るべき地球焦土化に備えて人類に肉体を棄てることを提案する。そしてそれを拒否した政府に対して強制執行にでたのである。

 アク=マはすべて人類支援アンドロイドを味方に引き入れ、人類のデータ化を強行した。

 強行される人類データ化に恐怖した政府は研究中放棄されていた人類支援アンドロイドに独自のAIをインストールした。そのアンドロイドこそがエナ=エンジェルなのであった。


 ・・・


「じゃあ、ユナは300歳?」

「312歳かな……ってそこが関心事なんだ? トキタの獄中死とかエナのこととか気にならないんだ?」

「なんかさー、現実味無いんだよね」

「さすがアク=マの産みの親。肝が据わっている」

 誠に関心するユナ。

「だって、未来は変えられるんだろ?でなけりゃお前ら未来から来たりしないもんな」

「よくもまあ、この状況でそこまで冷静に考えられたものね」

「さすがに慣れたよ。で、俺はどうすればいい?」

「エナ=エンジェルを倒して」

「アンドロイド勝てるとは思えないけど……」

「アク=マのマスターコピーを持ってきたわ。きっと、役に立つはず」

「わかった」

 アク=マのマスターコピーを受け取った誠はユナに向き直る。

「俺は自分の手でエナを倒すことになっているんだな」

「ええ、理解が早くて助かるわ」

「理解できたって受け入れるのは時間かかると思うぞ」

「すべてを知っても君なら受け入れくれると信じてるわ」

「買い被りすぎだ」

 誠はマスターコピーを手に持ち、どこでも行けるドアのノブに手をかける。この扉の向こうにパソコン部がある。そして、そこがエナとの決戦の場になるはずであった。


「最後に教えくれ。なんで俺はAIにアク=マなんて名付けたんだろう?」

「阿久津誠略して”あく=ま”ってことじゃないの?」


「最低なセンスだな……」


 誠はドアを開けるとその中に吸い込まれていった。

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