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進化の伝道師

 闇夜の襲撃から一週間が過ぎようとしていた。その後、堕天使は現れることはなく平穏な日々が続いていた。阿久津誠は今までの一件をたちの悪い冗談なのではないかと考えていたが、襲撃の日を境に天使や悪魔の存在を信じるようになっていた。エナが時を越えてきた天使らしいというところまで理解できたが、悪魔や堕天使についてはいまいち理解できてなかった。

 何度かエナに襲撃の件を問い詰めた誠ではあったが満足のいく回答は得られていなかった。


「エナ、いい加減説明しろよ。なんで堕天使の襲撃に会わないといけないんだ。悪魔はまだいないんじゃなかったのか?」

「私にもわからないよ。堕天使もたぶん時間を越えてきたってことぐらいしか」

「だから、なんで俺を襲ってきたんだよ」


 今週に入ってから同じようなやりとりを何度も繰り返す二人であった。

 誠としてはこれ以上要領を得ないなら、いっそエナを追い出そうかとも考えたが堕天使に対抗できるのがエナだけであることを考えると邪険に扱うこともできないのであった。

「ところで誠君、これなんですか?」

 机の上に置いてあるチラシを指差してエナが質問する。

「ああ、これか。オープンキャンパスの案内だよ」

「なるほど。この大学が誠君の志望校ですか?」

「そうだよ」

「すごいですねー。帝国大学じゃないですか」

「へへ、すげーだろ」

「まだ受かってないけどね」

「う、うるせー。受かる予定だ」

 チラシには次の土曜日に行われる帝国大学工学部のオープンキャンパス案内が書かれていた。

 エナはチラシを取ると裏面に目を走らせる。そこには今回見学できる研究室の紹介が書かれていた。その中の一つにプロフェッサー=トキタの研究室であった。そしてトキタAI研究室にはペンで丸がされていた。

「誠君はここの研究室を見学するんですか?」

「そうだよ。AIの研究ではトキタ先生の研究室が一番進んでいるらしいからね」

「そうですかー」

(なるほど、この時代にプロフェッサー=トキタと接触するのね。トキタも悪魔開発の一端を担っていたってことね。少々危険だけどトキタにも接触してみようかしら)

「エナ……。すごく悪そうな顔してるぞ」

「え?そう?あはは……」

「わざとらしいな」

「ところで誠君。ちょっとお願いがあります」

「なんだよ」

「私もオープンキャンパスに連れてってくれません?」

「へ?」



 ・・・



 土曜日、誠とエナは帝国大学の工学部キャンパスにいた。オープンキャンパスということもあり、学生服姿のグループがあちらこちらいた。その中でも誠とエナの二人は無駄に目立っていた。もとい目立っていたのはエナであった。セーラー服に三編み、黒縁メガネ、白髪に紅い目とくればコスプレしてなんちゃって女子高生を演じている外国人にしか見えなかった。

「エナは何を着ても似合わないな」

「ガーン!! 今さらっと酷いこと言った。傷ついたー」

「現実を受け入れるのって辛いよな……」

「誠君って時々冷たいですよね……」

「そうか?」

「もういいです。似合ってないならこんなもの要りません」

 エナは三編みをほどきメガネを外した。美しい白髪が風に揺れながら日差しを受けて輝いていた。その容姿も相まって地上に降臨した天使を思わせるように神々しかった。

「本当に天使なんだな……」

「誠君なにか言った?」

「なんでもないよ」

 エナから目をそらしてしまう誠だった。



 ・・・



 プロフェッサー=トキタの研究室についた。その研究室に違和感を感じる二人だった。違和感の正体は簡単だった。周りの研究室は見学する高校生で混んでいるのにトキタの研究室には見学者が誰もいなかったのである。

「ここは人気ないですね……」

「ああ……」

 間違いかもと思った誠だが、扉のプレートには「トキタAI研究室」と書かれていた。

「ここで間違いないようだ」

「入る?」

「ああ……」

 誠は扉を開けて研究室に入る。

 中は広々としており綺麗に整理整頓されていた。それはおおよそ研究室とはほど遠いものだった。二人が研究室に入ると奥に座った中年の男性が誠とエナに声をかけてくる。

「こんにちは、見学の高校生かい?」

「は、はい阿久津といいます」

「エナです」

「はじめまして、この研究室の責任者のトキタです」

「はじめまして、教授の研究は本で読ませていたきました。教授の開発したAIに感動しました」

「ありがとう。そう言ってもらえるとうれしいよ」

 誠を見つめるトキタの頬が緩む。

「よかったら、どこが気に入ったか聞かせてもらってもいいかな?」

「はい。自己学習型のAIと自動生成プログラムのコラボです。問題を与えられたAIが問題を処理するのではなく、問題にあったプログラムを自動生成して問題を解決するところです」

「んー。なんか遠回りっぽくない。なんでAIが直接問題解決しないの?」

「バカだなあ、すべての問題を解けるAIなんか作ったらとてつもない行数のプログラムになっちゃうだろ。処理速度がとてつもなく遅くなるし、最初に想定した問題しか解けないからすべての問題を解決するってのも無理なんだよ。その二つの課題を自己学習型AIと自動生成プログラムで解決した訳さ」

「え、えっと……意味分かんない」

「つまり、問題に対してAIがプログラムを生成する。そして自動生成したプログラムが問題を解決する。仮に解けなかったとしてもAIがその状況を判断してさらに補正したプログラムを生成して解決する。この方が結果的に処理速度は早くなる。それに自己学習しながらプログラムを生成しつづけるのから、未知の問題も解ける可能性がある」

「そんな事、可能性なの?」

「はは、解説ありがとう」

 トキタは関心しながら言った。

「阿久津君だったね。高校生でそこまで理解できるとはすごいね。将来有望だ。もっとも白人のお嬢さんは阿久津君ほど詳しくは無いようだね。

 今、阿久津君が言ったことは最終的なゴールなんだ。実のところ、開発は終わっていない。プログラムの自動生成と言ってもライブラリーや命令セットを組み合わせいるだけだし、自己学習型のAIも正確に状況判断ができているとは言い難い」

「教授なら絶対できますよ。俺はこのAIに感動したんです。だから帝国大学を受けることにしたんです」

「そう言ってもらえるとうれしいよ」

「なんですかー。男のロマンってやつですか?」

 二人の言っていること理解できないエナであった。



 ・・・



 その後、2時間ほど誠とトキタは話し込んでいた。エナはさっぱり理解できず、二人の会話から取り残されていた。

「あーあ、ヒマー」

 ふと、トキタのパソコンを覗きこんだエナが息を飲む。

「悪魔プログラム?」

「どうしたんだい?」

 トキタのパソコンの画面には悪魔たちをコントロールするために開発されたプログラムが走っているのが見えた。

「これはトキタ教授が作ったものですか?」

「そうだよ。これが自己学習型AIだ。こいつがライブラリや命令セットを引っ張ってきてプログラムを生成する」

「教授、僕はプログラムだけではなくコードを自動生成できるAIを開発したいです」

「はは、それは大変だぞ。でも、君は若いからもしからしたらできるかもしれないな」

「それができたら、1億分の1のイレギュラーを入れたいのです」

「1億分の1のイレギュラー?」

「DNAが複製される時の誤差です。それが進化を生むのではないでしょうか。同じ問題でも常に違うプログラムを生成するAIを作りたいのです。その誤差は一億分の1それが失敗することなく進化を切り開く道だと考えています」

「……阿久津君と言ったね。必ず帝国大学に来たまえ。この研究室で待っているよ。君なら僕の夢を叶えてくれるかもしれない。期待しているよ」

「教授の夢って?」

「人間を超えた者を創造することさ」



 ・・・



 オープンキャンパスの帰り道。

「いやー充実した時間が過ごせた」

「ええ、私は蚊帳の外でしたけどね」」

「なんだ、拗ねてるのか?」

「拗ねてませんよー」

(しかし、プロフェッサートキタがこの時に阿久津誠と接触しているとは……。なるほど、因果が絡み合ってこの時代に私は来た訳ですね}

 帝国大学の帰り道、エナは今日あったことを反芻する。

 でも、やっぱりトキタはきっかけに過ぎないとエナは考えていた。やはり阿久津誠が悪魔の生みの親で間違えなさそうであった。それを確認できるなら、阿久津少年を消してしまうのが正解だとエナ=エンジェルは考えていた。

 堕天使や悪魔が干渉してくる前にケリをつけてしまおう。



 それがエナ=エンジェルが出した結論だった。

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