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闇夜の襲撃者

 エナ=エンジェルが阿久津家に住み着いて一週間が過ぎようとしてた。

 エナは何をするでもなく毎日、自堕落に過ごしているようだった。

「おい、ニート」

「誰がニートよ」

「毎日、パソコンに向かっているだけじゃないか。それって引き篭もりじゃないのか?」

「何言っているの。毎日、事務所のサーバにアクセスして仕事しているわよ。いわゆるSOHOってやつ?」

「人の部屋をオフィスにしてんじゃね」

「ガレージベンチャーみたいでかっこいいじゃない」

「それを言うなら押入れベンチャーだろ。怪しいだけだよ」

「誠君、私にかまっていていいの?明日、期末テストの最終日でしょ?」

「タイムパトロールにテストの心配されるのも不思議な気分だな」

「そういえば、大学がどうこう言っていただけど今回のテスト関係あるの?」

「大ありさ、うちの高校は国立大学の推薦受験の枠があるのだ。上手くいけば一般入試をしないで国立大学に入れる」

「へー。でも、上手くいっていないんでしょ?」

「うるせー」

「誠君はやっぱり理系だったりするの?」

「そうだけど、なんで分かった?」

「理系男子特有のキモさが……」

「てめー。理系男子に謝れ!」

「ごめんなさいー」

 押入れの中に逃げ込むエナ。

「まったく、失礼な奴だ」


 エナは押入れに戻ると、部屋にあるパソコンに目を向ける。画面にはこの一週間の経過が記録されている。

「今のところ収穫無しね。本当にあの少年が悪魔なのかしら。もっとも正確には悪魔じゃないのだろうけど」

 パソコンに表示される情報は阿久津誠が悪魔に関しての重要人物であることを示している。過去の情報では誠が悪魔の生みの親だと言う。そのことに関してはエナも未来の政府も疑問視をしているが記録上ではそう言うことになっている。

 この一週間、誠と一緒に過ごしたところでは、悪魔に関することは片鱗もあらわれなかった。

「まあいいわ、最悪はあの少年を消してしまえば解決はするわけだから」

エナはパソコンに向き直ると残りの報告書の作成をすすめる。


 ・・・


 次の日、阿久津誠は上機嫌だった。

 期末テスト最終日、テストは会心のできだった。ほぼすべての問題が解けたのである。

「これなら、挽回できそうだ」

 家に帰ってからも、頬が緩む。家に帰ってきた誠を見てエナは嫌なものを見たように顔を歪める。

「誠君キモいよ」

「うるせー。なんだエナ。部屋にいたのか?」

「ええ、ニートですから」

「なんだ、ニート呼ばわりされたの根に持ってるのか?」

「べつにー」

 未来から悪魔の調査のためやって来たエナ=エンジェルであったが、この一週間なにも得るところがなった。正直なところこの調査に意味があるのかも疑問を感じていた。

(少し揺さぶりをかけてみようかしら)

「なにか言ったか?」

「何もー。テスト上手くいったの?」

「ああ、会心のできさ。このまま行けば推薦取れるぜ」

(勉強の邪魔をするのも有りかもしれないなー)

「お疲れ様ですね。私は押入れに戻るね」

「あいよー」


 エナは押入れの中の部屋に戻ってから考える。

 誠は順調に進学の道を進んでいるようだった。記録では帝国大学の情報工学部に進学し、大学院で悪魔を生み出す基礎研究を始める。過去の文献を読む限りと阿久津誠は高校2年の時に悪魔プログラムのアイディアを思いついたと記録されている。何によってそのアイディアを思いつたのかが分かれば、状況打破のきっかけになるのではと未来の政府は考えている。

 そして現状を打破するきっかけが見つけられないようであれば阿久津誠を殺害することも許可されていた。もちろん、過去を改変するリスクを考えれば迂闊に判断はできないが、それでも現状よりはいいのではというのが政府が出した結論だった。


 そして、その判断はエナ=エンジェルに委ねられていた。


 ・・・


 翌日の放課後。誠は帰りが遅くなっていた。試験期間中は中止されていた部活が再開された。誠の所属するパソコンは情報機器に関して研究をするわけでもなくプログラムの勉強をするでもなく、パソコンをいじりまわしたり、ゲームしてるだけの趣味延長でしかない部活であった。その中で誠だけはまじめにプログラムの勉強をしたいと考えてた。

 誠の帰りが遅くなったのはゲームをしていたのもあるが、プログラムを書いていたこともあった。いまだ自分専用のパソコンは買ってもらえず、家には片落ちMacintoshしかなかった。簡単なiPhoneアプリなどは作ったことがあるが、そもそもスマホを持っていない誠にとっては興味を駆り立てる物ではなく、やはりプログラムを自分なりに書きたいと思っていた。

「やっぱりCでガリガリやりたいな。ゲームを作るだけならjavaでもいいのだろうけど」


 ・・・


 阿久津家は閑静な住宅街にあった。郊外とはいえ人も街灯も多く深闇になることはなかった。少なくとも誠には経験がなかった。

 帰り道、気がつくと一寸先も見えないほど濃い闇に包まれていることに誠は気がつく。

「これは? 街灯が切れたか? しかし、不自然なくらい暗闇だな」

 何を思うでもなく後ろを振り向くと、エナの姿がぼんやりと見えた。闇のなかにエナの姿が不自然に浮きだっていた。

「エナ! 何かおかしくないか?」

 駆け寄った誠だったが、得体の知れない違和感を感じる。

「エナ……なのか?」

 炎のように紅い瞳、絹のように白い髪、整った顔つき、そして肌も透き通るように白い少女その姿は見間違うことなくエナだった。

 しかし、顔は怒りに歪み、燃えるように紅い目は誠を凝視していた。

「エナ……?」

 次の瞬間、エナに見えた女性の背中から大きな翼が広がる。天使を思わせる姿であったが、みるみる翼は黒く染まり、髪の毛も墨のように黒く染まっていった。

「悪魔……いや、堕天使なのか?」

ーその様子だとタイムパトロールと接触しているようねー

 誠の頭の中に声が響く。

「エナじゃないのか?」

 漆黒の翼に黒髪の堕天使は右手をあげると誠の顔を指差した。次の瞬間、指先が光ると光線が誠の左頬を掠める。誠は耳の後ろでなにかが弾けるような音を聞いたきがした。

 殺される?誠は戦慄を感じたが、どうすればいいのか判断できなかった。

「堕天使めー!」

 聞き覚えのある声が後ろから聞こえてくる。

 今度はレーザー光線が誠の後ろから撃ち込まれ、堕天使に命中する。

 誠が振り向くと銃のような物を構えたエナが立っていた。

 レーザーは堕天使に命中したように見えたがすべて堕天使の前で静止していた。堕天使は聞き取れない言葉を放つとレーザー光線はすべて消滅してしまった。

「なんで堕天使のあなたがこの時代にいるの?」

 エナが二人いる?混乱する誠だったが、エナが誠に忠告する。

「騙されちゃダメです。堕天使はいろいろな姿になって、人の心の隙に入り込むのです」

「エナの姿に化けていたのか?」

 堕天使は翼を広げると沢山の光の玉が浮き上がる。光の玉はそのままレーザーのようにエナを攻撃する。バク転しながら難を逃れたが、レーザーが着弾した爆風でエナは吹き飛ばされる。

 吹き飛ばされたエナは地面に叩きつけられる。鈍い音と悲鳴が響きエナは動かなくなった。

「エナ!!」 

 振り向いた堕天使が誠を睨みつける。

「あ……」

 誠は蛇に睨まれた蛙のように身動きがとれなくなってしまう。

 堕天使の人差し指が誠の額を指差す。


 ……殺される……


「誠君逃げて!」

 エナの声が響くと大量の海水が流れ込んでくる。

「なに!?」

 そのまま、堕天使と誠は海水に飲まれ流されて行く。濁流に流されながら、かろうじて意識を保つ誠であったが、流れは早く濁流から抜け出す事ができなかった。力尽き意識が遠退きかけたとき、何者かが誠の腕を掴み水中から誠を引き上げた。

「もう、逃げてって言ったのに」

「エナなのか?」

 姿、容姿はエナそのものであったが、背中には白く大きな翼が広がっていた。そして宙に浮いていた。

「逃げられるかよ。しかし、エナが天使だったとは?」

「えっと、前に話した天使とは違うかな。ルーツは近いらしいけど」

「そうか……」

 濁流を見下ろす誠。

「いったい何をしたんだ?」

「どこでも行けるドアを海底につなげて海水をここに流し込んだの」

「無茶するな、堕天使はやっつけたのか?」

「まさか、この程度で消滅してくれると助かるんだけどね。今日のところは引き上げたみたいだけどね」

「……」

 濁流が流れてくる先を見ると人の丈ほどの扉が置いてあり、そこから海水が流れ出ていた。

 そして、扉はメキメキと音をたてながら砕け散った。

「ありゃー、水圧に耐えられなかったかー」

 エナが悲鳴をあげる。

 扉が砕けると海水の流れは収まり、深闇とともに残った海水も消えてしまった。

「海水が消えた……」

「結界が消えて元に戻ったのね」

「そんなご都合主義な」

「とりあえず誠君が無事でよかった」

「ああ、ありがとう……」

「帰ろうっか」

「そう……だな……」


 ・・・


 家に帰り、押し入れで落ち着いた後、エナは今日の報告書を書き上げる。

「まさか、堕天使が誠君を襲うなんて……」

 堕天使は悪魔サイドである阿久津誠の味方であるはず。今日の襲撃はエナが行うつもりであった。結果的には堕天使に横やりを入れられたことになる。

「いずれにしても堕天使がこの時代にいる以上、私がこの時代にいることは悪魔に伝わっているはず。もはや猶予はないわね」



 エナは計画の前倒しすることを決め、報告書にその旨を記述するのであった。


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