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海に約束  作者: 大崎楓
8/12

八話

「こん、やく・・・?」

昼間の蝉の声すら一瞬止んでしまったように思えた。

いつものように参考書に向かう私を呼び出した母様は、そんなことを言ったのだ。

「えぇ、あなたと藤塚家が婚姻を結べば、辻宮家はますます勢力を増すでしょうから」

何となく、分かっていた。

私は、好きな人と結ばれることすら叶わないのだ。

恋愛なんてしては、いけなかったのだ。

それが、辻宮春華の定めなのだ。

「・・・はい、分かりました」

私が素直に頷くと、母様は目を細めて私を見た。

「やけに素直ね?気味悪いわ」

「そんなに歯向かって欲しいんですか?」

私も目を細めて言い返してやると、母様は苦い顔をして黙る。

「私は、辻宮家の人間ですからね」

さらにそういうと、母様は目を閉じて、こう締めくくる。

「じゃあ、そういうことよ。辻宮家の娘として恥じない行動をするように」



「お嬢様、いいのですか!?」

部屋に戻ると、真希がそんな声を上げる。

「何が?」

ベッドの上に反動をつけて座りながらそういう。

長い髪がぶわっと広がり、再び背中に落ちる。

「婚約です!珠稀様のことが好きなのではー」

「珠稀は好きだけど!」

私は真希の言葉を遮って叫ぶ。

「仕方ないんだよ・・・。私は辻宮春華だから」

ごろりと横になってウサギの人形を胸に抱く。

「それに、最初から私たちはいつか終わっちゃうの」

これも薄々分かっていた。

しばらく沈黙が流れた後、真希が私の背に向けて言う。

「・・・彼も、そんなことを言ってました」

「珠稀が?」

寝転んだままで顔だけ真希の方に向ける。

「秘密を知られてしまったらそれが最後だって。その時は必ず来ると思う、と」

真希はやっぱりあの夜、珠稀と話したのだ。

「・・・・そうかもね」

私は呟いた。

(でも秘密を知る前に、さよならする)

小さな決意を胸に、私は今夜砂浜に向かう。



生ぬるい風に踊る髪。

いつものように、茶色い髪も石階段で海を見つめて揺れていて。

さよならをするんだと思うと、胸が苦しい。

(でも、言わなきゃ)

ぐっと拳を握りしめて、声をかける。

「珠稀!」

振り返った彼は、にっと笑った。

「こんばんは、春華さん」

うん、と言って隣に座って海を見る。

「風強いね」

「うん、強い」

ぽつぽつと会話しても、すぐに終わってしまう。

海を見つめる横顔は、何だか切ない色に染まっていた。

(・・・言わなきゃ)

そう思うのに、今を壊したくなくて言い出せない。

『終わり』にしたくない。

体が震える。

ーでも。

「-あのね!」

ばっと顔を上げて少し大きな声で言うと、珠稀はちょっとびっくりしたようにして「ん?」と聞いてきた。

これから言おうとしていることで、私はきっとこの人を傷つけてしまう。

分かっているけど、言うしかない。

「私ね、もう珠稀に会わない」

なるべく笑って言った。

「私婚約するの。だからもう、会わない」

笑って言い切ったのに、言い切った瞬間笑顔は崩れそうになる。

それでも必死に笑顔でいると、珠稀はぽつりと呟いた。

「・・・・そっか」

こっちを見ない横顔は、髪に隠れてしまってよく見えない。

「今までありがとう、珠稀」

声が震えてしまう。

「私ね、私ーっ」

ダメだ。

この先を言うのは、ずるい。

「やっぱり何でもないっ!」

だからそう言って、ぱっと笑ってみせた。

珠稀はこっちを見て、優しい笑みで、

「俺、春華さんに会えてよかった。ありがと」

そう言った。

「-・・・っ」

堪えていた涙が、溢れる。

もう笑顔でなんかいられなくて、私は泣き崩れた。

「ば、ばか・・・!たまきのばかぁ・・・!」

声を出して泣いた。

涙が溢れて止まらない。

「春華さん泣かないで?俺は、笑った顔が好き」

かけられた優しい声。

(そうだ、笑わなきゃ)

私は涙を拭って、精一杯の笑顔を浮かべてみせる。

「バイバイ珠稀!」

珠稀も笑い返してくれる。

「うん、ばいばい春華さん」

小さく手を振って、私は珠稀に背を向ける。

そうして二人は、同時に一歩を踏み出す。

さよならの合図を踏み出す。


どんどんと遠ざかる。

もう、振り向かない。

十分に距離が開いたら、立ち止まって空を見上げる。

そうして、言えなかった言葉を呟いた。

「・・・・珠稀、大好き」

涙が滲んできて、視界をぼんやりとさせる。

私は溢れる涙もそのままに、夜の道を歩いた。



「さよならした!?」

家に帰ってそのことを言うと、真希は心の底から驚いたようだった。

その証拠に敬語ではなくなっている。

「私は、珠稀と一緒にはなれないの。だからいいの」

私は笑みを浮かべて言った。

(これでいいんだよねー?)

真希は何も言えなくなった様で「お風呂の支度します」というと部屋を出て行った。

私と珠稀の関係が、終わった日だった。



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