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海に約束  作者: 大崎楓
7/12

七話

その夜砂浜に行くと、やっぱりというか珠稀の姿はなかった。

「来れないって何で・・・?」

誰もいない海に問いかけても、返って来るのは波の音だけ。

このままここにいてもきっと珠稀は来ない。

私はちょっと町をふらふらすることにする。



家とは反対方向に足を向けると、そこは住宅地だった。

自分の感覚でいうと小さな、普通の家が沢山並んでいる。

窓からは明るい光が漏れて、家の中からは親子の楽しげな声が聞こえてくる。

「いいな・・・」

羨んだって仕方ないけれど呟かずにはいられない。

自分の家との差に泣きたくなりそうだったから、思考を違うことに切り替える。

「そういえば、いつも珠稀はこっちに帰ってくな」

そのまま街灯と民家の明かりを頼りに歩いていると、ふと暗い家を目にする。

明かりは付いている。

でも、その家の周りには大量のごみ袋が適当に積み上げられていて、それが私に『暗い』と思わせた。

(何ーここ?)

袋から覗くのはカップめんの容器や酒のビン。

それを目にした時、昼間珠稀からした臭いが重なる。

何だかよく分からないけど、胸がざわざわする。

「一ノ瀬」

表札の文字を何となく見てから、珠稀の苗字なんて知らないことに思い当たる。

それがさらに私の不安をあおる。

(もう帰ろうー)

とにかくここにいては気が狂いそうだったから、私はその暗い家に背を向ける。

そうして歩き出そうとした時、背後で『がしゃぁぁん!』という派手な音がした。

「な、に・・・・」

どうしようもない恐怖でそこから動くことも、音の聞こえた窓から目を逸らすことも出来ない。

「可哀想にねー」

「っ!?」

突如聞こえたその声に振り返ると、おばあさんが私の隣に立って同じ窓を見上げていた。

「あの中で何がされてるのかと思うと、怖くて仕方ないわね」

目を細めてカーテンで閉ざされた窓を見ながらおばあさんが言う。

「何ですかここ?一体何がー」

「ここは地獄よ。あなたのような子が知っていい世界じゃないわ」

震える声で尋ねようとしたのに、言葉は遮られる。

「あの子もいつまで耐えられるかー」

そんな会話をしておばあさんが去っても、私は携帯のアラームが鳴るまでそこから動けなかった。

その間にも、何度か大きな物音が響いていた。



「おかえりなさーどうしたんですか!?」

部屋に入った瞬間駆けていって抱きついた私に真希は驚いた声を上げる。

「怖い・・・怖いよ・・・」

がたがたと震える体で、声でそれだけ言うと、真希はふわっと私を抱きしめてくれた。

私はそのまま、真希の腕の中で眠った。



あれから毎晩海に行ったけど、やっぱり宣言通りに珠稀は来なくて。

現れたのは6日経った時だった。

「-遅いっ!」

通りから来た珠稀に、私は真っ先に言葉を投げる。

「あはは、ごめん」

そうやって笑って、私を見て嬉しそうにしてくれる。

「何してたのーは、聞いちゃダメなんだっけ」

問いを発しかけて止めると、珠稀も曖昧な笑みを浮かべて答える。

「うんーごめん」

どうしたって言ってはくれない。

「あーあ、私も珠稀の苗字知ってれば家探して会いに行くのに!」

おどけた口調でそういうと、おどけた口調が返ってくる。

「じゃあ絶対教えられないなー」

二人で笑いあって夜の海を歩く。

すぐ横に、珠稀の姿があることがすごくすごく嬉しくて。

さくさく音を立てて砂浜を歩く。

「教えてよ!」

「嫌だ!春華さんに教えたら本気で家探される!」

あはは、と笑って珠稀が走り出すから、私も走り出そうとして

「あ、わっ!?」

砂に足を取られて体のバランスが崩れる。

「春華さんっ」

(転ぶー!)

どんどん近づく地面に目を固くつぶる。

でも、次の瞬間に来たのは砂浜に当たる固い感触じゃなくて、ふわっとした柔らかさだった。

目を開けると、私の体は珠稀の細い腕に支えられていた。

「大丈夫?春華さん意外とドジなの?」

間近で可笑しそうな声が聞こえて、腰の辺りに珠稀の細い手の感触がするから頭はパニックに陥りそうになる。

「あ、ありがと・・・」

顔は見ないようにして差し出された手を取ってちゃんと立ち上がる。

「ん、転ばないでよかった」

そのまま手を引いて歩き出す。

「手、離さないの・・・?」

きゅっと握られたままの手から伝わる冷たい感触に、私の体温は上昇が止まらない。

「離さない。離したくないから」

珠稀はにっと笑ってそんなことを言ってのける。

「ふぇ!?」

さらっと言われるから驚きで意味不明な声を上げてしまう。

珠稀はすっと真面目な表情を作って、海の果てを見つめている。

「・・・ごめん、こんなの身勝手だよね」

そう言って繋いだ手に力が込められる。

「そんなことないよ」

私は、そんな珠稀の細い白い手を握り返して言った。

「私も離したくないよー」

「-春華さん」

ぐいっと手が引かれて、珠稀のほうに体が寄っていって。

珠稀の顔が、目の前まで迫る。

「えー」

その瞳が、どんどん近づいてきてー、



「-あはははははっ」

突然ぱっと顔を離して珠稀は噴き出す。

「え、な・・・」

私は呆然と爆笑する珠稀を見て、理解する。

「か、からかったの!?」

「あははは、春華さん可愛いっ」

珠稀は手を繋いだままで、目に涙を浮かべて笑ってる。

それをみてると何だかイライラしてくる。

「-珠稀のばーか!」

私は叫んで、繋いだ手を振りほどいて走り出す。

「ごめん、待って?」

やっぱりまだおどけた風な言葉に、私は止まらず走り続ける。

「ねぇ、待ってよ・・・!」

次に背中にかかる声はすごく焦っていて。

今度は私が吹き出す番。

「あははは、珠稀だって可愛いー!」

くるりと振り返って笑ってやると、珠稀は驚いた表情をした後ににっと笑う。

「やったな!」

二人して笑いあう。

夜の海に、どこまでも聞こえるんじゃないかっていうくらいの笑い声が響き渡った。

いつまでもいつまでも、この時が続けばいいと思った。

だけどそれは、呆気なく終わってしまうもの。

「私もう帰らなきゃ・・・」

携帯電話がアラームを鳴らす。

タイムリミットだ。

「そっか、またね」

私たちは、反対方向に歩き出す。

珠稀がどこに帰るのかなんて知らないけれど、あの家ではないことを願った。





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