痛み
またしても久々な更新です
一番近くの町に入ったメイリーは、まずは情報収集に努めた。
その結果わかったのは、彼女の王とその一行はもう大分旅を進めてしまったらしいということだった。
もともと、一行はすぐに隣国へと向かう予定だった。賊に襲われたことで予定を早めたのだろう。
わかっていたこととはいえ、メイリーは少しがっかりした。
怪我はほとんど治ったとはいえ、本調子ではない。無理をするといっても限界がある。
……それに、考えなければいけない問題もある。ついてきた魔術師をどうするか、とか。
最後まで連れていく気はない。なにしろこんな目的もよくわからない胡散くさい男だ。
「君なんだか、ひどいこと考えてるんじゃない?」
当然のようにくっついてきていたセルディが、のんびりと抗議する。メイリーはおののいた。何でわかったんだ。
「まあ伊達に魔術師やってませんよ」
(……私の心のなかを読んだってこと?)
「ご明察」
パチパチと手をならすセルディに 、メイリーは言い様のない怒りを覚える。
「ふざけないで」
「大真面目だってば」
「なお悪いわ」
心の中を不用意に覗き見られて喜ぶ馬鹿がどこにいる。メイリーは理不尽さを嘆きながらセルディに約束させた。
勝手に心のなかを読まないこと。これだけは譲れない。
「今さら?」と言うセルディを睨んだが、全く堪えていないようだった。
***
ひとまず、日が暮れてしまったので、宿をとることにする。道を急ぎたいところだが、夜になれない道を歩くのは危険だ。
フードを目深に被ったセルディは、町中の道をなれたように歩く。
あまり大きくはない町だが、地理に明るくないメイリーは手堅くメインストリートに出ようとしたのだが、その前にセルディがひょいっと横道にそれたので、思わずついてきてしまった。
「来たことがあるの?」
「いや? 何となくわかるだけ」
ただの勘にしては、ずいぶん堂々と歩くではないか。
「魔術師の勘をなめたらいけないよ?」
フードの下から、セルディがニヤリと笑う。
彼の言う魔術師なる人種が、彼女にはよくわからない。今まで身近にいた魔術師たちとは、勝手が違うようだ。
まあ、今日のところは時間があるし、しばらくは付き合ってもよい。魔術師の勘とやらが本当に役に立つのかが少し気になって、メイリーはセルディが歩いていくに任せた。
最終的に二人は一軒の宿屋に辿り着いたが、そこは驚くほど食堂のメニューのが充実している宿屋だった。値段も手頃だ。
美味な食事を堪能しつつ、魔術師は「ほらね」という顔をする。メイリーにはそれが納得いかなかった。
メイリーが宿を決めるときは色々調べて状況を考慮して探すのに、勘のみを便りに辿り着いた宿屋の方がいいとはどういうわけだ。理不尽だ。
部屋に落ち着いて、しばらくぶりに一人になったメイリーは、ほうと息をつく。
旅に出てから、自分だけの時間というものがほとんどなかった。仲間たちと一緒にいるのは嫌いではないが、時々は一人になりたいと思うこともある。
(……今のツレは陰険魔術師様だしね)
隣にいる相手を警戒し続けるのは疲れる。
助けてもらったから。
そんな理由で見知らぬ相手に全幅の信頼を寄せられるほど、メイリーはおめでたくない。
高い位置で結わえていた髪をほどく。癖のないまっすぐな髪は、結わい紐のあとも残さず、さらりと肩へ流れた。
歌士の制服も脱ぎ捨てたメイリーは、無意識に脇腹へ手をやった。そこにあるのは、矢を受けた傷痕だ。
すでにセルディによって治療されている傷は、塞がっている。
そこがずくりと疼いた気がして、メイリーは歯を食いしばる。
痛くなんてない。
下着の上から傷痕に指を這わせ、ぎゅっと握った。
(私にはやることがある。だから)
そのために必要なことをする。
それだけだ。
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