自称天才魔術師の言うことには
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はるか北の土地には色素の薄い人々が暮らすという。
閉鎖的な民で、滅多に土地の外に出ることはないのだとか。
メイリーも話には聞いていたが、実際に出会うのは初めてだ。
「そんなに警戒されちゃうなんて心外だなあ。顔を見せたのは俺の誠意だよ?」
嘯く少年をメイリーは観察する。
この国の民にはない特徴を備えた彼が敵ではないという保証はない。
状況が状況だ。警戒してしすぎることはない。
目を離さないまま、うずくように痛む脇腹へ手をのばしたメイリーは、そこに包帯が巻かれていることを確認する。
手当てをしてもらったのは確かなようだ。
「……助けてもらったことには礼を言うわ」
「俺はセルディ、残念ながら君の追っ手じゃないよ」
「あなた何者なの」
「しがない旅の天才魔術師ですー。君のことは状況を見ればすぐわかるよ。東の国の歌士の制服姿でしかも怪我をおっている。さしずめ、賊に襲われた貴人を逃がそうとして囮になったとこか」
メイリーはうすら寒いものを覚えた。
軽く言っているが、彼の言葉は隙がない。繕っても無駄と悟ったメイリーは直球で訊ねた。
「なんで助けたの」
「面白そうだから」
「……は?」
少年はニヤリと笑うと天を仰いだ。
つられて見上げ、メイリーは妙なことに気がつく。
天気は雪だ。しかし舞い散る雪花は彼らを避けるようにして降っている。
まるでそこに不可視の何かがあるように。
魔術だとわかった。
「面白そうだから助けた。これから主を追いかけるんだろう?」
「あなたには関係ないことでしょう」
メイリーはつっぱねたがセルディの表情は変わらない。
「もちろん。でもこれからはあるよ」
「はぁ?」
赤みの瞳を細め、セルディはメイリーを見た。
「面白そうだからついていく。いい魔術のネタになりそうだし」
何を言っているのかわからない。
メイリーは耳を疑い、目の前の自称天才魔術師をまじまじと見た。冗談を言っているようには見えない。
……冗談であってくれたら、どんなにか良かったか。
「君の怪我の手当ても必要だしね」
そう言ったセルディが、メイリーには悪魔に見えた。
年下に振り回されるメイリー。
彼女の行く先は迷走中です。