09
オッサン生活三十日目―中編。
おとーさん、おかーさん、さきだつふこうをおゆるしください…。
なぁんてベタな台詞が頭を占めた。それを認識できるくらいなんだから実は私かなり余裕なんじゃね? なんて勘違いしてしまうほどだ。だけど、そのうちじゃれかかってきたシベリアンハスキーに思いっきりかまれてぎゃー! てなっちゃうんだよ。断じて、狼なんかじゃないんだからねっ!!
「……………………」
あれ? あれあれ? いつまで経っても予測していた痛みがこない。いや、痛みがこないことはとてもいいことなんだけど、こなければこなければ逆に不安だ。もしかして、私、気付かない間にかまれて死んじゃってる…? うそん。塵際には「俺の屍を踏んでいけ…!」的な何かいい言葉を残していこうと思ってたのに…!
「……………………」
うっすら目を開ける。目に入ったのは布。これは自分が着ている服だ。とっさの防御として腕で顔をかばったから、これが見えるのは当然。
ゆっくりと腕をおろす。先ほどの場所から変わっていない。相変わらずしんしんと降り続ける雪と、静かな森。
「あれ、もしかして幻覚…?」
なぁんだ、幻覚か。そーか、そーだよね。こんな森にシベリアンハスキーなんているわけないし。ましてや狼なんてもう日本では絶滅してるんだよ。生身を見られるわけないじゃん!
ハッハッハッハッハッ―
そうそう、何かの息遣いだって幻聴だよね。それか、私の息遣いが荒くなってるだけだよ、うん。そうに違いない。
ハッハッハッハッハッ―
うんうん、心なしか心臓の鼓動が激しくなってるもんね。呼吸が荒く鳴るのも仕方がない…
「がふっ!」
「ぎゃーーーー!!!」
気のせいじゃなかった気のせいじゃなかった気のせいじゃなかったーー!!
紛れもなく私の目の前にいるのは、先ほど木の上にいた動物。どんんだけ贔屓目に見ても犬には見えない。否、犬にすごく似ているけど、大きさが大きさが…!! これ一般的な大型犬より大きいよ!ロバぐらいあるんじゃね!? がんばれば元の姿の私ぐらい乗せられるんじゃね!?
その場から逃げなければと思うのに、恐怖で足がすくむ。一歩後ろに退くことも前に出ることもできず、がくがく震えるだけだ。図体だけはでかいけど中身はか弱い女子大生なんだぞ!! 女子大生の身体の力なめんなよ!!
誰にともない悪態をつきつつも、今度こそ人生終わったと思った。
だけど。思っていたような流血沙汰はいつまでたってもこない。謎の生物(狼と呼んでいいのかさえ分からない)はまるでおすわりをするかのようにお行儀よく座って私をじっと見つめている。目が合うと心なしか嬉しそうに口を開ける。ひぃっ、牙が牙が牙が…!
すっと相手が立ちあがり私の方に進んできた。
もうダメだ、終わりだ――。
今度こそ最期だと思って目を閉じた。しかし、何もない。そっと目を開けるとふんふんと私の足元で私の匂いを嗅いでいるようだ。そしてぐるりと一周して満足したのか「がふ!」と一鳴きしてまたお座りの体勢になった。
「……………どゆこと?」
自体が全く飲み込めない。誰か、誰か説明をぷりーず!!
ま、また続きます…。ごめんなさい。
(20111230)