07
オッサン生活二十日目。
「ほ、埃っぽい…!!」
ただ今はたき片手に埃相手に絶賛格闘中です。
この家にまさか屋根裏があるなんてしらなかった。知っていたら、もっと早く対処していたのに…!!
そんな見当違いな怒りとも闘いながら、とにかく埃と向き合う。
屋根裏の広さはかなりのもので、おそらくこの家の半分ぐらいの広さはあるんじゃないでしょうか。そのあたり建築基準法的にどーなの? と思うんだけど、よく考えればこの国にそういった法律があるかどうかもわからない。とりあえず、家の耐久性的に問題なければ収納場所が増えてありがたいってことなんだろうけど。
とにかく、それぐらいの広さの屋根裏に、ちらほらと荷物が詰まっている。私がこの家を片付ける前の部屋の様子から考えれば、その荷物の量はかなり少ない。おそらく、カリイの身長からこの屋根裏に荷物を持ち上げることはメンド…困難だったんだろう。まあそのおかげで掃除がしやすくてとても楽なのだが。
屋根裏なので、さほど高さはない。現在人並み以上の身長を持つ私は、勿論まっすぐ立つことはできない。それでも、中腰よりやや低めに身をかがめれば一応立って歩くことができる高さなので、日本の屋根裏収納スペースよりも高いだろう。某小公女アニメのような屋根裏部屋とまではいかないが、小さな子どもならばこの部屋で過ごすことはできる。ただし、広さの割に明り採りが小さいので、常に薄暗い状態だが。
「うーん…、これであらかた埃は落とせたかな」
口に布巾を当てて埃を吸い込まないようにしているため呼吸が苦しい。だが、これがなければ私の肺は真っ黒になってしまう! なんて見当違いのことを考えつつも、ひとまず手の届く範囲にある全ての梁の埃をはたきで叩いた。後はこの地面に落ちた埃をとるだけ。そんなことをしているとまた埃が舞い上がって梁についてしまうかもしれないが、そのあたりのことは考えないことにする。
「てか、一体何があるのよ、ここに」
柄の短い、小さな箒とちりとりでちまちまちまちま埃を掃いている時にふと思う。
木の箱に入れられているもの。こんなところに追いやられているということは、おそらく日常生活では使わないものが入っているんだと思う。あのカリイのことだ、「捨てるのも面倒くさい」の一言でこの屋根裏に押し上げたきりほったらかしなのだろう。彼が屋根裏に入っている様子は全くなかったし。
「いらないものなら捨てちゃう…のはカリイに合わないね、売ればいいんだし。………見ちゃっていい、よね」
少しだけドキドキする。基本的にカリイは物に頓着していない性格らしく、以前の部屋掃除の時も何の躊躇いもなく室内にある荷物を私に見せたり触らせたりした。それなら、ここにあるものもそうしていいだろう。ただ、今回はカリイの許可なくそうするので、どこか悪い事をしているような、ドキドキした気分になる。
ごくり、と唾を呑みこんで、一番近くにあった木箱の蓋に手をかける。そして、誰も居ないのにきょろきょろあたりを見渡してから、その蓋を開けた。
「……………何、これ」
中から出てきたのは、いくつかの本と布。それと、手触りのいい木の棒に薄汚れた、小さな箱。
「子どもの宝箱? なんか、公園とかで拾ってきたものをテキトーに詰め込んだような感じがするんだけど…」
そういえば私も小さい頃、石を集めるのに何故か妙に嵌っていて、手当たりしだい気に入った石があれば拾って帰って来ていたなぁ。それを集めていて見つけたお母さんに捨てられて、すごい怒った気がする。
そんな思い出にふと浸っていたが、手にした本をぱらぱらとめくってみた。うーん、相変わらずこの世界の文字は分かんない。会話にはこと不自由ないけど、文字は読めない。アルファベットらしき文字が書いてあるんだけど、発音がわからないし、言葉の意味もわからない。なんとなく読めるけど、意味を成さないので、読むことを諦める。
代わりに、そこに描かれた絵に注目した。カラーのそれは美しく、まるで外国の絵本の様な体裁だ。うわー、これすごーい、好みだー…。
「何してるんですか」
急に声をかけられて飛び上がった。座っていたのに飛び上がった。幸い梁に頭をぶつけるといった失態は犯さなかったものの、ぎぎぎ、と音が鳴るぐらい鈍い動きで、声のした方を振り返った。
そこには、常まとわせているにこにこ笑顔を浮かべたカリイがいた。
でも私はこの笑顔を知っている。感情を表に見せないための、彼の手段だ。
「えーっと……。カリイは何故ここに?」
「質問しているのはぼくですよ。タナカ、貴方はここで何をしているんですか?」
うーわー、なんだかすごいご立腹な様子なんですけどー!? 正直、かなり怖い。年下相手にこの表現はおかしいけど、すごい怖い。ガクブルものですよっ!
「えっとえっと…、その、屋根裏を発見したのでその掃除をしていまして…」
「で?」
「それで…、ここにある木箱が気になりまして…」
「で?」
「その……ごめんなさい」
淡々と「で?」で返す彼が怖すぎなんですけど!! なんで、なんでこんなに怒ってんの!? いや、勝手に荷物を見た私が悪いのは重々承知しているけど、だけどなんでこんなに怒るわけ!?
「………まあ、タナカに悪意があるわけじゃないことは分かりますが、今後このようなことはやめていただきたいですね」
「はい…。その、見ちゃいけないもの、だったの?」
「………いけない、というより、『見ない方がいい』といった方が正しいですね」
「見ない方がいい?」
「はい。そこに入っているものはすべて『魔法具』ですから」
「まほうぐ?」
「魔力が込められた品物のことです。強力な魔力が込められている力の強い魔法具は、魔力がない者にとっては毒と同じですから」
「ど、毒ー!?」
思わず手にしていた本をぱっと離した。あ、ヤバい、と思ったけど、それは地面に落ちる前にカリイの手の中に落ち着いた。一安心。て、そうじゃなくって!!
「そんな危険な物、こんなトコにひょいと置かないでよー!!」
「誰も触らないだろうと思ってここに片付けてあったんですよ。それをどこぞの馬鹿な下僕が勝手に触って勝手にわめいているだけじゃないですか」
うっ…!! 正論すぎて反論できない…! そりゃ勝手に触った私が悪いんですけどー!!
「なんでこの世界はそんな危険な物が一般家庭にあるのよ…」
「……まあ、この世界の物は皆魔力がありますから」
そうだった。この世界は大なり小なり皆魔力があるんだった。それなら魔法具があっても別におかしくはない。
「とにかく、この部屋にあるものはそういったものばかりですので、タナカは決して触らないように」
「はい、わかりました」
まだ木箱は五つぐらいある。それら全てがなんだかおどろおどろしいものに見えてきましたよ。単純と言われてもいい。だって、怖いんだもん!
「それじゃ、続きはお願いしますね」
「はい?」
木箱に先ほど私が出したものを全て片付けながら、カリイはそんなことを言った。一体何を言われたのか分からず、聞き返してしまった。
「掃除の続きです。まだ全て終わっていないんでしょう?」
「えっ…」
「大丈夫。魔法具に直に触らなければ安全ですから。……ああ、でも長い間魔法具が入っていた木箱にも何らかの影響はあるかもしれませんが…」
「ちょ、ちょっと…それって冗談だよね? また私を怖がらせて楽しんでいるだけだよね?」
「……確かめたいのであるなら、どうぞ確かめてみて下さい」
では、とそれだけを残してカリイは屋根裏から出て行った。
残されたのは私ただ一人。
「か…カリイの鬼畜ーーー!!!」
盛大に叫んだ声は、屋根裏に空しく響いただけだった……。
いまだ掃除中。もうすぐ大掃除の時期ですしね!
(20111225)