第52話 もっとまともな人いるよ!!!
-ガラクタ丸 左後輪付近-
「これって……」
「ああ」
「前にオートナイツが壊しやがった部分だ」
管が破裂したことで、タイヤもおしゃかになっていた。
「前にイリアに管を作ってくっ付けてもらったが」
「限界が来た感じだな」
「……」
エリーネは壊れた車輪と破裂した管を見て固まった。
「これ……直せるの……?」
「直せるの? じゃねえ」
「直すんだよ。俺たちで」
「でも……!」
「技術屋二人と加工屋がいるんだ」
「あ、アタシは加工屋なんだ……」
イリアがぼやく。
「出来ねえわけがねえ」
「……」
「エリーネ」
「?」
「現場の動き方」
「教えてやる」
「!!」
「付いてこい」
「……」
パァン!
エリーネは掌に拳を打ち合わせた。
「やってやろうじゃない!」
-ガラクタ丸 リビング-
「エリーネ、まだ自室に籠ってるよ……」
「今はそっとしといてやんな」
「大丈夫かな……?」
心配そうにするイリア。
「ククク……」
「何笑ってるのよ!」
「悪い。大丈夫だよ、あいつなら」
「……え?」
「あいつの目、今までにないくらいイキイキしてたぜ」
「そ、そうなの?」
「ああ」
「これで上手くいけば御の字」
「ダメでも、あいつなら諦めねえだろ」
「……技術屋って、よく分かんない」
「大したことねえよ」
「好きなもんに夢中」
「それだけだ」
-エリーネ自室-
エリーネはひたすら図面を描いていた。
『やっぱりな。くっ付けたところから破裂してやがる』
『これって……』
『まぁ、突貫工事だったからな。またイリアに作ってもらうか』
『……待って』
『? どうした?』
『それだと、また同じことを繰り返すだけだわ』
『あんたが運転すれば問題ないけど』
『ワタシが運転するなら、これは無視できない』
『……なら、どうする?』
『……設計しても良い?』
『……出来るのか?』
『出来る、出来ないじゃない』
『やるか、やらないか』
『でしょ?』
『……上出来だ』
「……今朝のおかげね。ここまで描けるのは……」
「……今度はワタシの番」
「絶対に描き切ってやるわ」
エリーネが描き終えた頃には、夜はすっかり明けていた。
-ガラクタ丸 リビング-
「……」
「……」
「……」
(……空気が重いよぉ……)
エリーネが描き終えた図面を、ベルゼがチェックしている。
(静かすぎて気まずい……)
「だ、ダメかしら……」
エリーネから声をかけた。
「……大したもんだが」
「!」
「まだ甘えな」
「!!?」
「まだお前は、今まで作ってた蒸気車に引っ張られている」
「これじゃガラクタ丸には付けられない」
「……」
「だから……」
「?」
「違い、教えてやるよ」
「!!」
「それとも、寝とくか?」
「……バカ言わないで」
「行くに決まってるでしょ!」
「……すんごい目がキラキラしてる……」
それからエリーネは、ベルゼにガラクタ丸特有の構造を教わりながら、何度も図面を描き直した。
イリアが管を加工し、ベルゼとエリーネが取り付ける。
一度目は、管の太さが合わずに失敗。
二度目は、取り回しに無理があり、振動に耐えられなかった。
そのたびにエリーネは図面を描き直し、三人で修理を続けた。
そして――
-ガラクタ丸 左後輪付近-
シュウウウウウウウ!!
ブロロロロロロロ!!
「上手くいったな」
「!!」
「さすが設計士だ」
「問題ねえ」
「っ!!!!」
エリーネがガッツポーズを取る。
「……!!」
我に返る。
「と、当然よ!! ワタシが設計したんだもの!」
「まぁ、あれから二回リテイクしたけどな」
「はぐっ!!!」
「……ベルゼ……素直に褒めようよ……」
呆れるイリア。
「で、どうだったよ?」
「な、何がよ……?」
「初めての現場は」
「……そうね」
「現物を見た時は、絶対に無理だと思ったわ」
「それなのに、どっかの誰かさんはスパルタだし」
「イリアなんて、もういつものことって顔してるし」
「……いつもやらされてるから……」
「図面はダメ出しされるし」
「実際に取り付けたら、油臭いわ、ススで汚れるわで」
「こんなにきついものとは思わなかったわ……」
「でもね……」
「自分の手で、この子を直してる」
「元気にしてあげられてる」
「それが嬉しい」
「何より」
「きつくて、しんどくて、楽しい……!」
「……ここに来られて良かった……!」
エリーネは最高の笑顔を浮かべていた。
「ククク……だろ?」
「これだから、やめられねえんだ」
ベルゼも嬉しそうに笑う。
「技術屋変態ツートップの完成だ……」
イリアは呆れていた。
フラ……
「エリーネ!!」
「おっと」
ベルゼがエリーネを支える。
「すー……」
「寝ちまったか」
「無理もねえ。こいつが直るまで、ほとんど寝てなかったしな」
「……技術屋って、こんな無茶するものなの?」
「……無茶じゃねえんだよ」
「ただ、楽しくてしゃあねえ」
「そんだけだ」
「……今日は寝かせてあげようよ」
「そうだな」
二人は眠ってしまったエリーネを自室まで運んだ。
それから数時間後――
-ガラクタ丸 リビング-
「あ、エリーネ。もう大丈夫なの?」
「ワタシは大丈夫。それよりも……」
「?」
「……この子は大丈夫?」
「この子って、ガラクタ丸? 特に問題なく走れてるよ」
「そっ……良かった……」
「ふふ」
「?」
「すっかり気に入ったみたいだね。ガラクタ丸のこと」
「……そうね。あいつに中身を見せてもらったけど」
「一見、メチャクチャで訳が分からなかったわ」
「……アタシは今でも分かんない……」
「でも、一つ一つ見てみると、ちゃんと理にかなった作りになってるの」
「今回の修理で、より理解が深まったわ」
「……まだ完全に理解できてないのが悔しいけど」
「好きなんだねえ……機械が……」
イリアが笑いながら言う。
「ええ。あいつ一人で、これを整備したり改造したりしてたなんて」
「今でも信じられないわ」
「今回、教えてくれたけど」
「すごく分かりやすかった」
「……スパルタだったけど……」
「あいつ……怒鳴ったり、否定したりはしないんだけど……」
「めちゃくちゃな量をやらせるからね……」
「そうね。それでも……」
「……あいつ……ホントに……すごい……」
わずかに口元が緩む。
……………………………ん???
……エリーネ??
ん??!!?
「エリーネ?」
「……? どうしたの?」
……よく見ると、目が潤んでる……?
なんか、ほっぺも赤い気がする……?
「……はぁ。そういえば、あいつは?」
「あ、ベルゼなら今、お客さんの相手してるよ」
「もう帰ってくるんじゃないかな?」
「そう……」
……嘘……
まさか……エリーネ!?
「早まっちゃダメ!! エリーネ!!」
「!!? いきなりどうしたのよ!?」
……あ……
これ……
気付いてないやつだ……
ダメ!!
エリーネ!!
もっとまともな人いるよ!!
目を覚まして!!!!




