表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
72/117

第72話 先に疲れる連携先

 外へ渡した灯りが続くかどうかは、宿ではなく、その先で立っている人の体が先に決める。


 数日ぶりに御者宿へ入った時、フィオナはエダの歩き方でまず異変に気づいた。赤茶けた髪はきちんとまとめているのに、右足だけ着き方が浅い。腕を組む癖もなく、帳場へ手をついて立っている。忙しい朝だからだけではない疲れ方だった。


「椅子、昨夜も埋まったんですか」


 聞くと、エダは笑ってごまかしかけ、すぐやめた。


「埋まったよ。うちの若いのも、その横で少し寝落ちした」


 それはまずい兆候だった。外部椅子は来る前の人を戻すための物で、御者宿の働き手まで吸い込むなら意味が変わる。連携先もまた、働く側だ。そこが先に削れたら、朝霧亭が負担を押しつけただけになる。


 フィオナはその場でエダの足首を見た。むくみは強くない。だが腰の固さが歩幅に出ている。寝台へ運ぶほどではないのに、放っておくと次の夜に響く疲れだ。


「今夜は椅子を閉じましょう」


 そう言うと、エダはすぐ眉を上げた。


「そっちが困るだろ」


「困っても閉じます」


 フィオナははっきり言った。


「空いていない灯りを出す方がまずいです」


 その判断は痛い。白布を出せる夜が一晩減るかもしれないし、裏口へ直接来る人も増えるだろう。それでも、連携先が潰れるよりはましだった。守るべきものが増えた以上、休ませる相手の中にエダや御者宿も含まれる。


 朝霧亭へ戻ると、サラもすぐ賛成した。黒髪を低く束ねたまま、板へ一文を足す。


「連携先疲労時は灯りを絞る」


 ユナはそれを見て、小さく肩を落とした。


「広げたものを閉じるの、勇気が要りますね」


「広げっぱなしの方が怠けです」


 サラの言い方はきついが、正しい。続ける気があるなら、閉じる日も決めなければならない。


 その夜、フィオナはエダのために短い香草包みを作った。来客用ではなく、働く側の腰と呼吸を少し緩めるための物だ。ルド婆さんは包みを見て、何も言わず紐だけ固く結び直した。連携先もまた守る対象だと、宿の中ではもう共有されている。


 レナの方も同じだった。問い三つの紙を持つ手が昨日より遅い。神殿と宿の間を行き来するだけで、彼女の肩にも疲れが溜まっている。外の手が増えたことで、休ませるべき相手も増えたのだ。


 先に疲れる連携先を見た夜、フィオナはようやく理解した。灯りの列を伸ばすとは、人の列を守ることでもある。途中の誰かが崩れれば、その先のやさしさはすぐ消える。だから朝霧亭は、助けの出口だけでなく、繋いだ先の回復まで運用に入れなければならなかった。


 連携先を休ませると決めた夜、朝霧亭の側にも焦りは残る。直接来る人が増えたらどうするのか、御者宿を閉じたぶんの重さを誰が受けるのか。その不安は消えない。だが、不安があるからといって休ませるべき相手を使い続ければ、次はもっと深い崩れになる。


 エダへ渡す香草包みを結ぶ時、ルド婆さんの指はいつもより丁寧だった。連携先もまた客ではなく働く側で、明日の段取りを残すために休ませる。その感覚が宿の中へ根づき始めたこと自体が、朝霧亭の仕事の広がりを示していた。


 誰かを休ませるために作った連携なら、その連携先が休める日も最初から含めておかなければいけない。朝霧亭はここでようやく、助けの網にも休みが要ると知った。


 連携先を守るために一晩閉じる。その我慢ができるかどうかで、朝霧亭のやさしさは一時の勢いか、残る運用かに分かれていくのだろう。


 休ませる日を決められる連携だけが、結局はいちばん長く残る。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ