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 ――生き様で、後悔したくない。




 過去に、後悔したことがあるから。




 ――世界の命運なんて、本当はどうでもいい。




 ただ、あいつが笑ってられる世界が欲しかっただけだから。




 ――それなのに、なぜ立ち上がるのか。



 わからない。



 わからないけど。



 嘘でも夢を見たい、とそう願った人たちがいるから。


 神が見捨てたのなら、俺たちが騙してでも救ってみせる。




 そして、それで――神に呪われるのなら、上等だ。




「んでもって、嘘だらけの俺らでも、世界を変えられるんだって証明できたら」



 使い古された短剣を胸の前で構える。



「――最高に、気持ちいだろっ!」



 多勢に無勢。目の前に迫った魔物の群れに、俺は無謀にも走っていく。


 死ににいくのではない。


 勝ちに行くのだ。


 あと少しで魔物と接敵するところまで来て、俺は足を止める。


「なーんてな」


 ピッと電子音が鳴ると、魔物が踏み入った瞬間に大きな爆発音が響く。大きな黒煙を上げながら、花火のカスのように魔物の肉が飛び散る。


 もちろん、それだけで魔物の軍勢を殺し切れたわけではない。


 これは第一陣に過ぎない。



「クロウ! 調子に乗って前にですぎるな!」



 遅れてやってきた全身を鎧で包んだ女性、イレーネ・ザイディスが鬼の形相で怒鳴る。俺は肩を竦めて、短剣をひらひらと弄ぶ。


「はいはい、イレーネ様の仰せのままにー」

「ふざけた物言いをするな。ここは戦場だぞ」

「死ななきゃいいんだろ。簡単な話さ」


 軽口を叩いていると、気がつけば俺とイレーネは魔物たちに囲まれていた。



 言葉を武器に。



「さぁ、とっておきの嘘を披露して見せようじゃないか」



 嘘を力に。



「嘘で塗れた演目の始まりさ」




 *




 ――時は遡り、一月前。



 このときの俺こと――クロウ・ヴァレンティは酒場で金貨を弾き、パッと手の甲で受け止める。


「裏か、表か、だ」


 筋肉だけが取り柄のような体格のいい冒険者に対して、俺は趣味の賭け事をしていた。


「……表だ」


 熊の唸り声みたいな苛立った声がギャラリーが見守る酒場の中に溶けていく。この冒険者は無謀にも俺に声をかけ、まんまとカモられている可哀想な男だった。


「それで、いいんだな?」


 男は人を殺せそうな視線で俺を睨むと、早くしろと言わんばかりに足を揺らす。


「なら、俺は裏だ」


 言霊が閉じた手に広がっていくのを感じ、俺は誰にも気づかれないようにほくそ笑む。



 しかし、ここはエンターテイナーの見せ所。



 俺は緊張した面持ちで、汗を滲ませた手をゆっくりと開けていくと、手の甲には裏を上にした状態で鎮座する金貨があった。


 この結果に俺は安心したように胸を撫で下ろす。そばで見守っていたギャラリーは感嘆の声をあげ、目の前の男は青筋を浮かべる。



「これで、俺の三連勝だ。一度目は金、二度目は防具、三度目は剣…………さてはて、次は一体何を賭けるんだ?」



 目を細めて笑うと、男はようやく自分がカモられていることに気がついたのか、顔を真っ赤にさせて体を震わせた。


「俺は命を賭けたっていいんだぜ」

「この、クソガキっ――!」


 立ち上がった男に胸ぐらを掴まれた瞬間、二人の間に剣が振り下ろされる。男は目を見開き固まり、俺は内心冷や汗をかきながら誤魔化すようにヘラっと笑った。


 二人の間に割って入ったのは、長い金色の髪を頭の高い位置で結んだ女性――イレーネ・ザイディスだった。イレーネはいつもの鎧を脱ぎ、黒いシャツとズボンという身軽な格好をしていた。



「や、やぁ、イレーネ。今日も一段と麗しく……」


「お前の戯言が私に効くと思うなよ」



 絶対零度の瞳で睨まれた俺は両手を挙げて、よく回る口を大人しく閉じる。強い意思を持つ人ほど、俺の安い言葉は本気で受け取ってもらえないから困ったものだった。



「私たちはお前に、食事の調達を頼んだはずだ」

「……っすね」

「なのに、お前は何をしている?」

「ちょっと、楽しそうな雰囲気につい乗せられて…………」



 眼光がギラリと光る。俺はおっかないと心の中で呟きながら、今度こそ正直に答えるべく口を開く。



「このおっさんが、酒場のお嬢さんに手を出してたから助けるつもりで吹っかけました」



 イレーネの視線が俺の後ろで見守っていた酒場の店員に向かう。酒場の店員は俺の言葉を肯定するように何度も頷いてくれた。


 そのおかげか、イレーネの矛先は俺ではなく男へと向かった。


 これ幸いと思い俺は蛇のようにしなやかに、するりと体を滑らせると、イレーネに向かって手を振った。



「んじゃ、あとはよろしくな、イレーネ!」

「は!? ちょっと待て、クロウ!」



 驚き固まっているイレーネを酒場に放置して、俺はそこから退場する。せっかく場の雰囲気が温まり、これからもっと面白くなるはずだったが、イレーネに見つかってしまっては仕方がない。


 俺は街のメインストリートを歩きながら、出店を物色していく。イレーネの言う通り、昼食を調達するところだった俺は本来の役目を果たそうと考えた。




「――どいてください!」




 不意にどこからか声がした。声の出所を探すためにキョロキョロとあたりを見渡した時、頭上に影が落ちる。



 あ――っと思った時にはそれは俺の体の上に落ちてきた。

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