表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
義元英雄伝  作者: 日向 守


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

3/8

第三話 老虎


義元が去った後の静寂を、乾いた笑い声が破った。


「……カカッ、相変わらずの良い面構えだ。婿殿の御前でこれほどまで見事に平伏せるのは、駿府広しといえど、三河の小倅、貴様くらいなものよ」


元信が顔を上げると、そこには深く刻まれた皺の間から、鋭い眼光を放つ老人が立っていた。 男の名は武田信虎。 かつて甲斐の荒ぶる山々を従え、今は義元の「師友」として駿府に身を寄せる甲斐の先代当主である。義元にとっては、雪斎が「知」の師ならば、この信虎は「武」と「統治の苛烈さ」を説く、いわば猛獣の教本のような存在であった。


「信虎様……。義元公の御気勢、雪斎様が御存命の頃より一層、凄まじくなったように感じます」


元信の問いに、信虎は悠然と、だがどこか懐かしむように頷いた。


「当然よ。あの男は今、背負う重みを、雪斎の死によって一人で引き受けねばならんのだ。見ておれ、これからの今川は、雪斎が築いた緻密な法を、義元の圧倒的な威光が塗り替えてゆく。これこそが、わしがかつて成し得なかった、真の『王』の姿よ」


信虎は楽しげに、義元が去った奥の間を見つめた。信虎にとって義元は、自分を追放した息子・晴信(信玄)とは対極にある、完成された貴種の王者であった。信虎はその道の行き着く先を、誰よりも期待していたのである。


信虎は腰を下ろすと、元信に鋭い視線を向けた。


「元信よ、婿殿は其方を高く買うておられる。今川の血を混ぜ、一門として取り込む。それは奴なりの、最大級の寵愛だ。……だが、気をつけろ。巨木が天に届けば届くほど、その影は濃くなり、根元の草は陽を失って枯れるもの。義元という眩しすぎる光に、三河の魂まで焼き潰されぬことだ」


信虎は元信の肩を、励ますように、あるいは試すように強く叩いた。


「わしは、婿殿がこの日ノ本を平らげる様を見届けたい。そのためには、其方のような若き枝が、この巨木を支えねばならん。精々、義元の為に、三河の意地を見せてみよ」


信虎は朗らかに笑い飛ばすと、風のように立ち去った。 義元の放つ「絶対的な支配」の熱量と、信虎が語る「道の危うさ」。二人の巨星の狭間で、元康は自らの立ち位置を改めて噛み締めていた。


(義元公の光を、支える……。だが、その光が強すぎる時、私は、三河はどうなるのだ)


気を抜くと元康と書きそうになります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ