【1-4】暗殺者としては失格
多くの受験生と共に迷路へと突入したモカだったが──目の前にありえないものを見た。
歪な形の岩石が身を寄せ合い、それらが合体して大きな人の形に変身する。モカとて初めて見た代物。──『人造生命体』であった。しかも一体だけではない。迷路の道を塞ぐようにして何体も出現したのである。
確かにトラップが仕掛けられてるとは聞いたがゴーレムは予想外。他の受験生たちも驚きのあまり立ち止まる者が続出している。
「これが罠……!」
当たり前だがゴーレムは置物ではない。迷路を進もうとした他の受験生たちに襲いかかり始めた。
保有しているアビリティで防ぐ者もいれば、避けようとする者もいる。なんなら攻撃系のアビリティでゴーレムを破壊しようとする者まで現れた。
流石は難関学園に挑む受験生。ゴーレムに面食らったとはいえすぐに立て直し、自分の持てる武器を使って抵抗を開始した。
そして肝心のモカが選んだ行動は──『スルー』であった。
モカの暗殺術は『対人特化』である。人間どころか生物としても怪しいゴーレム相手には通用しない。
戦ったところで得点にもならないゴーレムに対処するだけ無駄と判断。他の受験生たちが苦戦している真横をしれっと通過し先へと進む。
「先に、とにかく私は先に進まないと──って、わひぃ!?」
多少はここで時間を取られても保有しているアビリティによっては全然巻き返すことが可能だ。だからこそ無能力者であるモカは余裕のある序盤で先へ先へと進まなければならない。
他の参加者の余波に巻き込まれつつも針に糸を通すように移動しながらモカは走るのだった。
* * *
試験が始まって二十分経過。あくまでゴーレムは序盤の足切り。この試験の真髄はここからである。
迷路は巨大でかなり入り組んでいる。行き止まりに突き当たることはザラ。行き止まりに罠が仕掛けられていたり、正解ルートなのに幻術によって行き止まりと錯覚させられたり。
そしてゴーレムはどこにでも湧いてくる。足切り程度の力しかなくても、延々と出現し続ければ受験生も対応が間に合わなくなってしまう。
ありとあらゆる性格の悪い罠によって受験生の多くは苦戦を強いられていた。
──しかしモカは案外スムーズに迷路を進んでいた。
「こっち……次はこっち……あ、あっちゴーレムいる……」
モカはかつて目隠しを肌に縫い付けられた状態で山の中で一ヶ月間サバイバルをさせられた時のことを思い出していた。
思い出したくもない過去だ。最初の二日間は痛いし喉は乾いたし何も見えないしと最悪だった。だが慣れてくると音や匂い、肌で感じる空気の流れによって周囲の状況を察知することができるようになった。
特殊な環境に曝されることで死の危険に直面し、その結果『肌で周囲の状況を探る』という暗殺者に必要な最低条件となる能力を手に入れたのである。
落ちこぼれであるモカであっても、目隠しをした状態で人混みの中をぶつからずに歩くことができる。むしろ幻術や視覚を封じようとするトラップの多いこの迷路ならば視覚に頼らない方法の方が安定するのだ。
「これ……今どれくらいだろう……」
スムーズに移動できているモカにとって一番ストレスなのが『ゴールが分からない』という点だ。
周囲の状況が全く分からない。迷路の外は見られないし、景色も全然変わらない。さらには昼間なのに草木の壁が高いせいで日差しもまともに当たらないときた。
受験という重圧、制限時間の焦り。モカよりも後ろの受験生はもっと大きなストレスがかかっているだろう。
だがモカは他の受験生を気にしている余裕はない。
「大丈夫……行き止まりにもぶつからずにここまで来れたもん。時間的には余裕があるはず」
訓練で鍛えられた足腰は一般的な成人男性の身体能力を大きく超えている。小柄で細身に見えるモカであっても猿のように身軽に動くことができるのだ。
故に単純な走力なら自信がある。ミスなく進めてる今ならゴールだってそう遠くないはず──。
──そんな時、声が聞こえてきた。
「ひ、ひぃ! やだぁ!」
十字路に差し掛かったモカの左側に──少女が映った。
茶髪のロングヘア。背丈はモカを大きく超えて百六十センチくらいだ。青いリボンが可愛らしい印象を与える元気そうな女の子。
そんな女の子がなんと今にもゴーレムに襲われそうになっていた。腰が抜けている……というのもあるが、よく見ると足首から血が流れている。足を怪我しているようだ。
試験用のゴーレムなので殺される、なんてことはないだろう。しかし気絶するくらいのダメージは与えるはず。そうなれば少女はここで終わりだ。
……終わりなのは少女だけ。ゴーレムはモカに気がついていない。無視して進めばゴールは余裕のはずだ。
運が悪かった。それか実力が足らなかった。他にも同じ理由で落ちる受験生はいるはずだ。モカが率先して助ける必要なんてない。
ましてや自分から落ちる可能性のある行動をする理由がない。モカは構わず突き進むことにした。
「やぁ……だ、誰か、助けてぇ……っ!」
少女の声は誰にも届かない。声は優しく咲きほこる草木によってかき消されてしまう。
ゴーレムの拳が振り上げられた。壊れた足腰じゃあ避けることなどできやしない。かと言って少女には反撃できるくらいのアビリティも持っていなかった。
せっかく勉強を頑張ったのに。せっかく努力してアビリティを鍛えてきたのに。せっかく両親を喜ばせることができると思ったのに──。
他の受験生たちも同じ思いだ。試験は誰に対しても平等である。だからこそ、平等にゴーレムの拳も振り下ろされるのであった。
ただ一つ。平等でないものは何か。それは──『運』である。
モカの強烈な飛び蹴りによってゴーレムの軌道は外れ、少女から逸れた腕が地面を砕いた。
「ぶ、無事ですか……!?」
「……ぇ」
少女は唖然とした顔でモカを見ている。それに対してモカは顔を真っ赤にして目を逸らした。
「あの……あんまり見られるのは恥ずかしいです……」
「え……あ、ごめん……」
慣れないのに格好つけて登場したからか、動きが少しぎこちない。関節が錆びてるロボットのような動きをしながらゴーレムの前に立った。
ゴーレムは特に目立った傷もなくノーダメージ。人間なら一発でダウンさせられるはずの強烈な蹴りを食らっても外傷すら与えることはできなかった。
「ちょ、ちょっと、待っててください……今終わらせますから」
武器を持ってるならまだしも、素手のモカではゴーレムを倒すことはできない。下手にやり合えばモカもダウンさせられて二人とも落ちるのが関の山だ。
──だが何度も言うようにゴーレムを倒すことが試験のクリア目標ではない。ゴールすることこそが目的なのだ。
臨機応変。あらゆる状況を使って依頼を達成する。それこそが暗殺者として最も必要な技能。師匠のそんな言葉をモカはゴーレムと対面しながら思い出していた。
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