【1-1】へっぽこ暗殺者はどうやらやばい仕事を掴まされたようです
新作です。頑張って完結させますんで、どうかよろしくお願いします
薄暗い灰色の部屋にはタバコの煙が充満していた。サングラスをかけた坊主の巨漢は体に似合わない小さな机に座りながら書類を眺めていた。
「遅い。二分の遅刻だ」
「あ、はは……」
男がそう言う先には──少女が居た。
見た目はまさに子供。背丈は百四十五センチ程度か。体格は小柄で手足も細く、顔には幼さが多く残る。だがその宝石のような碧色の瞳。ただその瞳だけは誰しもを魅了するような妖艶さがあった。
しかしそれは瞳だけ。少女は男を前にモジモジと指を回しながら立っていた。これでは妖艶さも裸足で逃げてしまっている。
「で、ですが……お師匠様も言っていたはずです。『食事はあらゆる基本動作よりも優先されるべき行動』って。……えへへ」
師匠と呼ばれる男が机を叩くと少女は小動物のように体を縮こませた。
「モカ……。率直に言おう。お前は『落ちこぼれ』だ。俺が見てきた者の中でも頭一つ抜きんでている」
「ほ、本当にはっきり言いますね……」
「本来この場所で育てた暗殺者は十五から二十歳の間に初任務を成功させるのだ。だがお前はどうだ? まだ依頼を一つもこなせてないじゃないか。ほれ、今何歳か言ってみろ」
「……最近成人を迎えたかな、って」
「二十二歳だろ馬鹿者!」
二度目の衝撃。モカは「ぴぇ」と情けない声を出して震え出した。
「いいか? 暗殺者の中では比較的に優しい俺だけどな、限度はあるぞ? 金を一銭も入れてこない人間を養う余裕はない!」
「それじゃあ私は外に捨てられるんですか……?」
「いや、組織の内情をよく知ってる人間を無作為に捨てるわけにもいかん。処分する」
「ふぇ!? そ、そんな……私だって、頑張ったんですよ!? ど、どうか許して、助けてくださぁい!」
師匠の足元に瞬時に移動し、へばりつくモカ。なんとも惨めな姿だ。こういう時だけは師匠でも目で追えないほど素早く動けるのが腹立つ。怒りの感情を表に出していた師匠も一周回ってため息が出た。
「……俺は最近腰を痛めた」
「へ……?」
「かなり大きい仕事を受け持ったんだがなぁ。腰を痛めたせいで仕事ができない。困った、実に困った。これは信用問題だ。今後の仕事に関わる──そこで、だ」
わざとらしい声と演技をしながら──机に紙が叩きつけられた。まだ比較的に新しい紙だ。墨もまだ温かさが残っている。
それはモカもよく知る物。──依頼書であった。
「動けない俺の代わりにお前に任務を与える。喜べ、大きな任務だ。成功させれば一気に幹部クラスにまで昇進できるくらいのな」
「それは光栄ですけど……ど、どんな依頼……なんですか?」
「──グリモワール学園の学園長『エルグランド・グランディオルノ』の暗殺だ」
「──ぇぇぇぇえええええ!?」
* * *
百年前。人間に突如として『アビリティ』という第六感が発現した。
そして世代を追うごとにアビリティの発現者は徐々に増えていき、今では全人類の八割が固有のアビリティを持っているとされている。
アビリティとは通常の人間にはない特殊な能力のことである。例えば水を操ったり、風を吹かせたり。人によって効果は様々だ。
特に『人類の技術では成し遂げられない』アビリティは『神の技能者』と言われ、一つの国すら支配する権力を持てると言われている。
モカの所属する暗殺集団『クロコダイル』とて例外ではない。暗殺者のほとんどはアビリティを持っており、それぞれが特性を活かして暗殺業を営んでいる。
そしてモカには──アビリティが発現しなかった。つまり無能力者である。
「お、お師匠様も知ってますよね!? 私アビリティ持ってないんですよ!?」
「よぉく知ってる。五歳の頃に『私もアビリティが欲しい』と駄々をこねて暴れたから罰として裸で釣り上げてやった──」
「い、言わなくていいですよ! それよりも、ただでさえ無能力者なのに、アビリティ保有者の中でもトップクラスの相手を暗殺するなんて……!」
グリモワール学園。それは世界でも有数のアビリティ教育機関だ。学園長のエルグランドは莫大な富を使って『人間の進歩』を目的とし、学園を設立した。
そこに通う人間には『知能』『強さ』『高潔さ』が求められ、強力なアビリティと明晰な頭脳、それらを支えるだけの精神力が必要となる。
「警備だって万全でしょう? 強力な感知系のアビリティを持ってる人間が外壁を常に警戒してるとかなんだとか聞きましたもん……」
「そりゃあ普通に暗殺するのは無理だろ。俺でも無理だ」
「お師匠様でも無理なら私じゃ絶対無理ですよ!」
「この俺がそんな無謀なことをすると思うか?」
師匠はそう言いながら小さな紙を手渡してきた。見てみると──『受験番号』という文字の下に数字が書かれてあった。
「明日、学園の入学試験がある。合格してこい」
「……ご、合格? あ、明日?」
「あぁ。外から侵入できないのなら中から殺す。お前は学園の生徒として潜入し、エルグランドを暗殺するんだ。骨格は幼いし、背丈も小さいし、童顔だから十五歳くらいに見られるだろ」
「私結構気にしてるんですよ……というか、さっきも言いましたけど、私アビリティ無いんですよ? グリモワール学園は前提としてアビリティを持ってないと駄目なはずですが……」
「そこは安心しろ。書類には『相手の嘘を見破れる能力』と書いておいた」
「そ、そんな!? 私そんな能力持ってませんよ!?!」
「読心術は俺が教えただろ。成績は低かったが、嘘を見破るくらいは習得してるはずだぞ」
「で、ですが……うぅ」
まだまだ言いたいことはあったが、反論できるだけの言葉も実績もモカにはない。身を引くモカに師匠は詰め寄った。
「よく聞けモカ。お前は人畜無害な見た目をしてる。ガキで、臆病さが全面に出てる見た目だ。けど、だからこそ油断させられる。エルグランドを殺せるチャンスを必ず作れるはずだ」
「ぅ、ぇぇ……」
まさに超高難易度のミッション。世界的にも有名な相手に接近して暗殺しろ。そのために世界有数の超難関校に入学しろ、だなんて。
しかしモカには渋る余裕はあっても、断る選択肢は選ぶことなどできない。
「失敗すれば今度こそ……お前は処分だ」
「……」
観念したモカは小さく頷いた。
「分かり、ました。やりますぅ……」
というより、頷くしか無かった。
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