表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/8

燎原の海炎


星光きらめく海面は、ジョセフの命令一下、瞬時に炎の海と化した。コルカス・ガンダムのコックピット内で、セラ・マスは突然の衝撃に前のめりに倒れ込み、両手をメインシートに必死に掴んでようやく体勢を保った。


外で戦闘が始まった。どうやら連邦の猟犬どもが追いついたらしい。彼女にはその光景が目に浮かぶ——ビームが夜空を切り裂き、ミサイルが白い煙を引いて海面上を交錯する。


セラの視線が操縦盤に落ちる。手を伸ばして触れようとした。自分が最後にこうしてコックピットに座ったのはいつだったか……思い出せるのは、あの男と意地を張ってガンダムを操縦した場面だけだ。


その瞬間、コックピットのハッチが開いた。セラは驚いて、すぐにシート後ろに身を隠した。


「俺だ!」


ルカの声だった。セラは確認してから、ゆっくりとシート後ろから顔を覗かせる。一人だけだとわかって、ようやく安心した。


「連邦にマークされた。俺、出撃するかもしれない。これは予備の戦闘服だ。着替えて、誰にも正体を悟られないように、どこか隠れてろ!」


ルカはセラに船内の戦闘服を一式と、「ムノーテ」号の船内案内図を手渡した。セラはシートの陰で素早く着替え、ルカは周囲を見回して誰もいない隙にハッチを開き、早く出るよう促した。だがセラは首を横に振った。


「セラ?」


「ここにいる」


セラの言葉に、ルカは一瞬言葉を失う。


「ここに? さっきの話、聞いてなかったのか? 俺が出撃するかもしれないって言っただろ! ここは危険すぎる!」


「わかってる」


「じゃあ……」


「どこにも行かない。安心して、私は邪魔しない。それに、私が経験した戦場は君が思うよりずっと多い」


ルカにはこの女の頭の中が理解できなかった。でも今のセラの姿は、まるでマリアが自分の前に立っているようで、否定する勇気すら湧かなかった。


突然、右舷から激しい衝撃が伝わってきた。


「右舷に接舷戦! 敵が強行登船を試みている!」


ルカは仕方なくハッチを閉め、戦闘準備に入る。


海面上、夜明け前の最も深い闇が火光に引き裂かれていた。


ドレーク小隊の機体が右舷の海面から水しぶきを上げて浮上した瞬間、肩のミサイルポッドが全開になり、六発の迎撃ミサイルが矢のように空へ飛び、遠くから放たれたマーカスのスナイパージムのビームと空中で衝突し、華やかで致命的な花火を咲かせた。


「ナイス!」ドレークが隊内チャンネルで低く唸る。「その調子だ。あのスナイパーに貨物船を狙わせるな!」


「頑張ってます、隊長! でもあいつ、めちゃくちゃ上手くて! さっき危うく——」


言葉の途中で、二発目のビームが飛んできた。


今度は貨物船ではなく、機体本体を狙っていた。


若手の操縦士は本能だけで回避行動を取る——機体が左へ激しくロールし、ビームが右肩の装甲をかすめて通過、高温が金属表面に焦げた溶痕を残した。


「ちっ」マーカスは狙撃ポジションで眉をひそめる。「動きが素早い……ただの傭兵じゃないな」


「援護しようか?」ダミアンの声が割り込む。彼の爆破ジムⅢは北側から迫り、肩の多連装ミサイルランチャーを全開にしていた。「あの海域を沸騰した鍋に変えてやるよ」


「不要だ」ジョセフの冷たい声が響く。「ダミアン、正面向きに圧力をかけ続け、貨物船を進路変更させろ。マーカス、あの黄色い機を死ぬほど見張れ。ソフィア——」


「通信暗号の解析を試みています」電子戦担当ソフィアの声がキーボードの打鍵音と共に流れる。「旧公国軍の痕跡がありますが、新しい混ぜ方が……待って、第三の信号源を検知」


戦術画面に、新たな光点が「ムノーテ」号の左舷方向、海面下から浮上した。


ドレークの機体だ。肩には漆黒の「レイヴン」が描かれている。


「東側に第二の敵機出現!」ソフィアが素早く報告。「第一機と特徴は似ているが装甲が厚い、隊長機の可能性大」


「ちょうどいい」ジョセフの口元に冷酷な笑みが浮かぶ。「レオン、待機ポイントで警戒を続けろ。貨物船後方の海域に他の伏兵がいないか注意。他は予定通り実行」


「了解」レオンの返事は短く力強い。彼は現在、南東五海里外の海底峡谷に潜み、獲物を待つサメのように身を潜めていた。


「出てこい、ガンダム! 今度こそ雪辱を晴らしてやる!」


ドレークは「レイヴン」を海面から引き上げ、爆破ジムⅢがミサイルで貨物船の航路を封じ、スナイパージムが遠方から点射を続ける様子を見て、すぐに理解した——これは典型的な狩りの陣形だ。


「連邦の連中、何年経っても戦術が変わらんな」ドレークは嘲るようにレーダーを睨み、周囲に妨害弾をばらまき続ける。


「ナイチンゲール、状態報告」


「右肩装甲に軽損、機動に支障なし。でもあのスナイパー、まるでヒルだ。顔を出すたびに危なかった」


「作戦変更」ドレークは戦術画面を見つめる。「狙撃勝負はするな。水中で礁石を盾に近づけ。俺が爆破機の注意を引く」


「隊長、危険すぎます! あいつのミサイルポッドが——」


「命令だ」


ドレークは操縦桿を押し込む。「レイヴン」の背部推進器が青い炎を噴き、機体は矢のようにダミアンの爆破ジムⅢへ突進した。


「おお? ようやく正面から来る奴がいたか!」ダミアンは高笑いし、肩のミサイルポッドを調整。「なら、花火の味を教えてやる!」


十二発のミサイルが同時に発射される。


左・右・上・後退——機体が取りうるあらゆる回避方向を封じる。これはダミアン・ホルトの得意技、飽和火力で相手の機動空間を完全に塞ぎ、硬く受けるか直撃を食らうかの二択を強いる戦法だ。


だがドレークは回避しなかった。


逆に、ミサイルを迎え撃つように突っ込んだ。


最後の瞬間、「レイヴン」の肩部装甲がスライドし、下から高速ガトリング砲が二門露わになる。


発射。


弾幕は鉄の嵐となってミサイルの前に密集網を張った。


ドカドカドカドカ——!


七発が空中で爆発、残り五発は誘導を失って海へ落ちる。


ダミアンは目を見開いた。「なんだと?!」


「旧公国軍の『弾幕迎撃』戦術だ」ジョセフがチャンネルで冷たく告げる。「ミサイル飽和攻撃専用の防御テクニック。普通の傭兵が使うものじゃない。ジオンの老兵どもが、安保屋に転職したのか?」


この言葉は公開チャンネルで発信された。ドレークは同じく公開で大笑いする。


「ははは、懐かしい技を覚えてる奴がいたとはな。確かに俺たちは元ジオン公国軍だよ。ただ今は金をもらって働く安保業者で、少しは護身術くらい持ってるってだけさ」


「護身術?」ジョセフが嘲笑う。「なら次の一手は、その護身術で防げるかな?」


その瞬間、ジョセフのジェガンD型が動いた。


開戦以来、彼は漁船に偽装した高速ボートの上で棋士のように戦況を見守っていた。だが今、自ら場に降り立つ。


ジェガンD型がボートから飛び出し、ビームライフルを連射。三本の正確なビームが「レイヴン」の全退路を封じた。


ドレークは歯噛みし、機体を限界ギリギリの横転させ、同時に肩のガトリングを振り向かせて弾幕で妨害を試みる。


だがジョセフはダミアンとは違う。「山」小隊の隊長、数え切れぬ戦場を血と死で這い上がってきたプロの軍人だ。


ドレークが発砲した瞬間、ジョセフはすでに動きを読んでいた。ジェガンD型が急減速、物理法則を無視したような反動停止を空中で決め、再びビームライフルを発射——


今度は「レイヴン」の脚部関節を狙う。


ドレークの瞳が収縮する。この一射は避けられないと悟り、推進器全開で速度で耐えるしかない。ビームが左脚外装をかすめ、高温が複合装甲を瞬時に溶かし、内部の油圧配管からオレンジの火花が飛び散った。


【左脚駆動損傷、出力30%低下】


警報がコックピットに響く。


「隊長!」ナイチンゲールが叫ぶ。


「大丈夫だ」ドレークは歯を食いしばり、額に冷や汗を浮かべる。「任務を続けろ、気を散らすな」


戦術画面を確認する。「ムノーテ」号は全速で南東へ向かっているが、明らかに速度が落ちている——右舷の被弾が推進器効率を下げたのだ。ナイチンゲールはすでに水中に潜り、礁石の影を利用してスナイパージムへ迂回中だ。


あと少し。


あと五分もこの二機を足止めできれば、貨物船は公海深部へ——そこにはマリアが手配した「迎え」が待っている。


だがジョセフはその五分を与えない。


「ソフィア、水中機のソナーを妨害しろ。ダミアン、貨物船を北へ追い詰め続けろ。マーカス、黄色い機が顔を出したらコックピットを貫け」


「了解」


「受領」


「ムノーテ」号右舷甲板では、連邦特殊作戦服を着た六人の兵士が磁気クライマーで船体に張り付き、貨物ハッチの油圧ロックに破門爆薬を貼り終えていた。


「三、二、一——起爆!」


ドン!


ロックが吹き飛び、重いハッチが内側へ弾け飛ぶ。


だが待っていたのは、三基の自動防御砲台だった。


ダダダダダ——!


20mm機関砲の咆哮が夜の静寂を切り裂く。先頭の二人は避ける間もなく、密集弾幕にバラバラにされた。


「罠だ!」


「側面から——」


言葉を終える前に、貨物倉奥の影から、アナハイム安保制服を着た数人の人影が飛び出してきた。手にしていたのはビームライフルではなく旧式の実弾サブマシンガン——だが、この至近距離の接舷戦では、実弾の停止力の方が致命的だ。


跳弾が金属壁で火花を散らし、銃声が轟く。


連邦兵の小隊長が歯噛みする。「煙幕! 視界を奪え!」


二発の煙幕弾が転がり込み、灰白の濃密な煙が瞬時に広がった。


煙の中で戦いは純粋な近接乱戦へと変わる。拳、銃床、ナイフ、歯——殺せるものすべてが使われた。血が壁に飛び散り、悲鳴と怒号が交錯する。


格納庫では、ルカ・ワインがコルカス・ガンダムのコックピットに座り、手にしたポータブルモニターを握りしめ、セラと共に「ムノーテ」号から送られてくる戦闘映像を青ざめた顔で見つめていた。


「エネルギー充填85%!」


「兵器システムセルフチェック完了!」


「拘束架解除準備!」


油まみれの老技師がガンダムの足元で叫ぶ。「坊主! 準備しろ! 次の瞬間に出撃になるかもしれんぞ!」


ルカはモニターを強く握る。分割された画面は目を覆いたくなる光景だった——右舷貨物倉は煙に包まれ、火光と弾道の中でアナハイム制服の仲間が次々と倒れていく。


突然、格納庫側面の厚い装甲ハッチが内側にへこみ、金属が溶けるような歪んだ音が響いた。直後、高エネルギービームが熱したナイフでバターを切るようにハッチに赤く縁取られた円形の穴を溶かし開ける。穴の向こうは黒くうねる海水、そして……船体にぴったりと張り付いた、波のように揺らぐ暗色のMSのシルエット!


まるで鯨に吸い付く吸血魚のように、無音で「ムノーテ」号の装甲を切り裂いたのだ。


「MS……?」ルカは声を失う。地中海基地では標準のジェガンD型やジムⅢとしか戦ったことがない。そんな潜入特化型は見たことがなかった。


それはジェガンだった。機敏に穴から滑り込み、光学迷彩が室内環境で一時解除され、深灰と暗藍の塗装が露わになる。着地の瞬間、ビームライフルを構え、格納庫内の重要ポイント——照明制御盤、艦橋へ続く非常通路扉、そして……コルカス・ガンダム運転席下で緊張待機する、無防備な整備班員たちを正確に狙った!


「やめろ!」ルカは銃口が充能の輝きを放つのを見て、頭が真っ白になる。


だが銃声は鳴らなかった。公開チャンネルに、電子ノイズを帯びた落ち着いた女声が流れる。


「『ムノーテ』号、ここは連邦中尉エリン・サットン。即刻、目標人物セラ・マスおよび灰色ガンダムを引き渡せ。さもなくば格納庫内の非必須要員を全員排除し、船の動力コアを内部から破壊する。残り三十秒」


警告と同時に、彼女の機体はわずかに姿勢を変え、銃口を青ざめた技師たちに向ける。


ルカの心臓が激しく跳ねる。モニター越しに、若い技師が恐怖で座り込み、年配の技師が引き起こそうとしているのが見えた。通信は静まり返り、エリンの淡々としたカウントダウンだけが響く。


「……二十五、二十四……」


この人たちが死ぬ! ルカの頭にその思いが閃く。操縦者としての本能が告げていた——相手はすでに火器管制を完全に開放しており、いつでもここを火の海にできる。


「セラさん」彼は掠れた声で言った。「しっかり掴まって。それと……ごめん」


セラは瞬時に意図を察し、瞳をわずかに見開き、安全ベルトを締め直し、両手で補助ハンドルを固く握り、体を前に傾けて衝撃に備える姿勢を取った。


「十五、十四……」エリンのカウントは死の宣告のようだ。


ルカは深く息を吸い、操縦桿底の赤い緊急解除ボタンを強く押した!


【拘束架強制解除! 緊急出撃プログラム起動!】


甲高い金属の悲鳴が炸裂! コルカス・ガンダムの四肢と胴体を固定していた重い機械ロックが、油圧システムの過負荷尖叫と共に一斉に外れる! 数十トンの鋼の巨人が解放され、前へよろめき、「ドン」と鈍い衝撃音を立てて格納庫全体が揺れた。


「何?!」エリンは、銃口を向けられた状況で強行起動するとは予想していなかった。ジェガンが半歩後退し、ビームライフルをガンダムの頭部センサーに即座にロック。


ルカはガンダムを操り、右腕を大きく横薙ぎに振り、横に積まれた予備推進器燃料タンクの列をボウリングのピンのようにジェガンへ薙ぎ払った!


タンクが転がり、接続パイプが破断、高圧ガスと可燃燃料がシューッと噴出し、瞬時に二機の間に煙幕を生み出す!


「逃げろ!」


ルカは格納庫内の作業員に叫ぶ。全員が慌てて艦内へ駆け出した。


「混乱を起こすつもり? 子供じみた手だ!」エリンは鼻で笑い、肩の小型ミサイルポッドを開き、範囲攻撃で障害を除去しつつガンダムを仕留めようとする。


だが彼女が予想しなかったのは、ルカのコルカス・ガンダムがその隙に突撃してこなかったこと——逆に反動を利用して側後方へ跳び、格納庫の反対側、比較的脆い内部隔壁へ激突したのだ!


ゴオオオン——!


壁が崩れ落ち、ガンダムは隣の貨物転送通路へ突入。ここはコンテナや建築資材が山積みで、空間はより複雑だった。


「逃げる気か? それとも戦場を変えたい?」エリンの反応は速い。ジェガンの脚部推進器が灯り、燃料噴出区を器用に迂回し、追撃に入る。「無駄な抵抗はやめなさい!」


通路内は薄暗い。コルカス・ガンダムは追手を背に、まるで全力「逃走」のように見える。重い足音が金属通路に反響する。


エリンは食らいつき、ビームライフルを連射。ビームがガンダムの肩甲や脚をかすめ、通路壁に溶融孔を穿つ。彼女は辛抱強く、熟練の猟師のように獲物を追い詰め、大きな隙を待つか、死角へ誘う。


ルカはガンダムを操り、廃棄された小型貨物ヤードへ隠れる。一方でレーダーを注視し、もう一方で「ムノーテ」号の艦内図を高速検索、脱出ルートを探す。


エリンのジェガンの足音が近づく中、ルカは背後のコンテナ積みを活かせると気づく。脚部推進器を逆噴射、慣性を無視した急停止・右転後、広い背部装甲で隣の三層コンテナを激しく衝突!


ガシャーン!!!


コンテナが積み木のように崩れ転がり、通路の大半を瞬時に塞ぎ、埃と破片が舞い上がる。


追うエリンの瞳が収縮、急停止回避。だが埃が晴れぬうち、崩壊コンテナ廃墟後方から無数の火光——ガンダム頭部のバルカン砲が雨のように降り注ぐ。ジェガン装甲を貫く威力はないが、正確に頭上通路の照明管と水管を撃ち抜く。


バチバチ! 短絡火花が飛び、破裂水管が高圧水柱を噴射、環境はさらに混乱。


「小細工ね!」エリンはジェガンを操り、シールドで水流と破片を防ぎ、ビームライフルを水幕越しに廃墟影へ向ける。「そこにいる——」


言葉が途切れた。


側後方から、巨大な鋼の掌が雷のように伸び、シールドを上げたままのジェガンの左腕を掴んだのだ!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ